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別世界の道化師  作者: あかひな
五章
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第六十九幕 道化師と解呪

二周年記念の二話連続更新。


 場所はホテルの一室。とはいっても、当然ながら俺達が借りた部屋だ。

 その玄関で、今日も執事服に身を包んだフィルマがいつもと変わらないイケメンスマイルを浮かべている。


「それではご主人様、行ってまいります。雑務は私が片付けますので、本日はおくつろぎください」

「ほんと、何から何までありがとうな」

「いえ、楽しくてやっていることなので」

「フィルマ、気をつけてね」

「ふぃるまお兄ちゃん、いってらっしゃい!」


 フィルマはそう言うと、俺と子供たちに見送られて、今日全員で行く予定だった買い物に出かける。

 前述のように、今日は全員で買い物に出かける予定だったのだが、昨日の買い物で特別大人数で行く必要も無くなってしまったのだ。本来なら俺が適当に留守番組と買い物組に分ければいいのだが、子供たちが全員行くといって聞かなかったのだ。そこで、超有能執事なフィルマが一人で買い物に行って来ると申し出てくれたので、それを承諾。フィルマのポケットには専用の《ジッパー》を付加させて後を任せた。

 フィルマには色々任せきりだし、今度プレゼントでも用意しなきゃな。


「しかし……くつろぐって言っても、元の世界じゃあるまいし、ネットがある訳じゃないしな」


 正直、文明があまり発達してないこの世界では文明の利器は無いに近い。だとしたら、くつろぐ方法なんて他かが知れてるというものだ。

 魔法研究でもすれば、否応なしに時間は過ぎていくのだろうが、途中で飽きる自信がある。まあ、そんな自信なんてあっても困るが。


「……あ、そうだ」


 そう言えば、と《ジッパー》から取り出したのは、以前フィルマ達を助けるついでにかっぱらって……救助してきた呪い付きの魔具や宝石の数々。それに、なにやら古臭くて分厚い本。本の方は恐らく魔導書だろう。本自体に魔力が込められているし、少なくとも普通の本じゃない事だけは確かだ。


「何ともないとはいえ、呪いのかかったものをいつまでも持っているのはなぁ」


 特に何ともなくても、そこは日本人。呪いの品ってだけでいい気はしない。まあ、日本人に限らないだろうけど。

 暇だし、神具があるなら解呪くらいは余裕だろ。よし、そうと決まればやろう。


「《ジッパー》」


 俺は適当な空間を指でなぞって《ジッパー》を開く。その中から空間ごと隔離してあった宝石類を取り出す。やはり、時間経過でどうにかなる類の物ではないらしく、依然としてそれぞれから禍々しい気配を感じる。

 どんな呪いがかかっているかも分からないので、試しに生野菜を放り込んでみる。すると、空間の中に入ってすぐに腐り始め、みるみるうちに溶けてしまった。


「……これ、どうやって運んでたんだろ」


 腐らせるなんてピンポイントな呪いが全部ではないだろうし、そう考えた方が安全だ。例えば、持ち主に不幸が降りかかるとか、持っていると死ぬとか。そういう呪われた宝石は、元の世界でもあったからな。より魔法に傾倒してる世界でないという方が、変というものだ。


「何にしろ、こんなところでやるのは危ないか……」


 空間ごと隔離している今ならいざ知れず、解呪するなら空間から出さなきゃならないからな。間違ってでも子供たちが近づくのはまずい。


「空間ごと隔離してもいいけど……ああ、そうだ」


 ここ最近忙しくてすっかり忘れていたが、試したい事があるのを思い出した。

 試したいというのは他でもない《ジッパー》の事だ。《ジッパー》は普段、収納用の倉庫くらいにしか使っていないが、元の世界の電化製品もいくつか入っている。だが、あれもこっちの世界では堂々と使うことのできない代物だ。つまるところ、現状ではただ場所をとる鉄の塊でしかない。ならば、こちらの世界ではなく《ジッパー》の中で使ってしまえばいいのだ。

 そう、試したいことというのは、《ジッパー》の中で暮らすことが出来るかという事だ。暮らすことが出来るなら、フィルマのポケットの様に、出入口を作るだけで簡易ワンルームの完成だ。ただし広さは比べるべくもないがな。電気や家具、果ては部屋さえも《創造》で創れるのだから、もはや家要らずだ。

 ……あれ? 館を探す意味はあったのか?

 …………止めよう。きっと意味はあった。形から入ることだって大事じゃないか。館ならこの歳で持ち家が出来るんだ。立派だな。よし、だから大丈夫だ。


「お兄ちゃん、スイのハンカチ貸してあげる。だから、泣かないで」


 ……ブワッ。



―――――



 悲しきかな、スイに励まされて元気が出たので、子供たちにはパズルを与えてさっきの続きをする。まずは、さっき出した呪いの宝石類を《ジッパー》に放り込んでっと……。


「ひえん、できたよー」

「はやっ!」

 俺が渡したのは五○○ピースの風景画のパズルで、難易度もそこそこだ。それなのにこの速度……あり得ねえ。


「白雪、今度こっちやってみ?」


 俺はそう言って一○○○ピースのパズルを渡す。すると、見本の絵をじっくりと観察すると、一瞬たりとも手を止めず、ピースを嵌め込んでいく。俺が呆けている間に、もう枠のピースは全て嵌められ、中身に取りかかっていく。その様子を楽しそうに眺めているスイと若葉。いや、パズルってこんな早くできるもんじゃないから。


「白雪、しばらくそれやって遊んでてくれない?」

「いいけど……出掛けるの?」


 俺が声をかけてもこちらを見ないのは悲しいが、それでスイ達の気を引いてくれるならありがたい。


「いや、ちょっと宝石とかの解呪でもしようかなと。危ないから来るなよ?」

「なら行かない。呪いは怖いもん」

「じゃあ、ちょっとしたら戻ってくるよ」


 白雪の了承が得られたところで《ジッパー》を開き、試しに腕を突っ込んでみる。……うん、なんともない。

 腕の無事が確認できたので、いよいよ体も入れてみる。


「わお」


 《ジッパー》の中身は真っ白だった。ちょうど、世界を移動した時に通った中間地点のような感じだ。……あれ? あそこに誰かいた気がしたんだけど、思い出せん。やたらと特徴的だった記憶はあるが、それしか覚えていない。というか、その特徴すら覚えていない。

 ……まあ、いいか。忘れるほどどうでもいいんだろう。

 俺はその辺に散らかっている荷物を片付けるために、俺が元いた世界の部屋を参考に、俺の不満を一切解消した家を建築する。まあ、建築とは言っても地盤も材料も全て気にする必要も無いんだが。


「……よし、完成」


 あっという間すら無かった。一瞬にして《創造》された家は、まさしく俺の希望を再現している。電気、ガス、水道のライフラインも、源を《創造》することでいくら使っても無くならない永久機関となっていて、電化製品ももちろん使用可能だ。とりあえず、その中に電化製品一式を運び込んで設置すると、早速動き始めた。

 それから、今回の呪いのような危険なことを行う為の、離れの製作に取りかかる。家からはある程度の距離をとり、さらに結界を張って万が一にでも危険が及ばないようにカバー。後は、今後何があるか分からないのでシェルター並の強度を誇る小屋を造る。


「よし、こっちも完成」


 ……今更ながら、凝りすぎたのが確認できる。何この狂科学者マッドサイエンティストとかいそうな研究室。安全性の代償に見栄えは天に召されたようです、南無。しかしまあ、それでも性能や使いやすさは何者にも劣らないくらいだろうし、少々の欠点は好感が持てるだろう。

 俺はそこに呪いの宝石を移して、その部屋のドアを開ける。中は意外と普通だった。というか、《創造》で物を作るときに適当につじつま合わせをしてくれるのはとても助かるな。俺自身にセンスがなくても結構何とかなる。

 とりあえず、俺自身に解呪の方法なんて分かるはずもなく。それなら、やはりそう言うのは同類に聞くのが一番だろう。


「《創造、《生き意思を持つ槍(ブリューナク)》》」


 呪文を言うと、俺の真横に《生き意思を持つ槍(ブリューナク)》が現れる。いつもなら地面に突き刺さって出るところだろうが、今回は突き刺さることなく浮く。床の耐久性の高さが実演できると同時に、《生き意思を持つ槍(ブリューナク)》の有用さが分かる。うん、流石神具だ。


『いかがなれましたか、使い手(マスター)

「《生き意思を持つ槍(ブリューナク)》は、物の解呪の方法をしってるか?」

『残念ですが、己は戦うという目的だけを主として造られたために存じ上げません』

「そうか……それが分かる神具とかは?」

『神具ではありませんが、禁書ならばあるいはと思いまして』

「禁書って言うと、ネクロノミコンか?」

『はい。アレは事実書物なので、その類の事が載っているかと』


 ネクロノミコンとは、現実には存在しない架空の書物だ。内容は多岐にわたるが、その全てが魔道の奥義であり、それゆえにこの書そのものに邪悪な生命が宿る事もある、とされている。

 しつこいようだが、これは現存しない架空の書物なので存在はしないと思っていた。


「まあ、確かにそうだな。けど、実在するのか?」

『はい、回収は神々が行いました故に現存はしているかと』

「ふーん……じゃあ、《創造》でいいか」


 神具だって元々見たことがあってできたわけじゃないしな。いつだか藍雛が概念から創ったといっていた。だとしたら、今回だって……。


「《創造、ネクロノミコン》」




 珍しく二話連続更新。

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