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別世界の道化師  作者: あかひな
五章
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第六十八幕 道化師達とショッピング


大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

「ひえん、フィルマ! こっちだよー!」

「……正直、なめてた」

「御主人様、お持ちいたしましょうか?」

「ああ、頼むわ」


 女だとバレてからの白雪に、一切躊躇いは無かった。心の傷は癒えていなかったものの、俺達は信頼出来ると判断されたようで、素直に話し、偽っていた事を謝ってくれた。もちろん、その行為自体は当然なので、怒ることも無かった。それに、フィルマも最初から気付いていた様だったしな。

 そんな事より、この惨状だ。流石は白雪達も女の子で、あっちに行ったりこっちに行ったり。元の世界で藍と買い物に行ったときにもこんな感じだった。どこの世界でも、女子の買い物に付き合わされた男子の反応は同じなんだろうか……。 しかし、フィルマからはそんな感じが一切見受けられない。まるで、疲れていないかのように感じさせる。完璧執事とはここまでなのか。


「ひえん、後は毛布と、御者の所に敷く布みたいな物があれば、大丈夫だと思うよ」


 買い物とはいうものの、ただ単に俺と出掛けたかっただけのようで、明日行くはずだった買い物の一部を繰り上げる形になった。


「御主人様、毛布は買いましょう。御者の所に敷くのはクッションの方が良さそうなので、私が作ります」

「分かった。なら、材料になりそうな物も一緒に買うか」


 そうと決まれば、行くのは布屋だな。出来れば、無駄に豪華な調度品みたいなのではなく、一般家庭で使っている物より、少し良い物というのがベストだな。


「って、スイは?」

「スイおねーちゃんならあそこだよー」


 若葉が指差した先には、店先に並べられた龍をデフォルメした人形に体を押し付けてモフモフしているスイがいた。おい、人形。そこを変われ。


「御主人様、スイ御嬢様がいらっしゃるお店はどうやら布屋のようです」

「おお、言われてみれば」


 スイの頭上にかかっている看板を見ると、布地で出来た絨毯チックな看板になっている。見た感じ細工も細かくて、この店の質のよさがうかがえる。


「よし、中見に行こうか。若葉も白雪も、欲しいのがあったら一つだけかってあげるよ」

「ありがとう! ひえんおにーちゃん!」

「こ、こんなのでだまされないんだからね!」


 若葉は素直にお礼を言って笑顔を向けてくれるが、白雪はチラチラと人形の方を見ながらそっぽを向く。うんうん、将来が楽しみだな。


「御主人様、そろそろ……」

「ああ、そうだな」


 スイ達に声をかけてから店内に入ると、内装は意外とシンプルだった。だが、シンプルさの中にかなり細工が細かい物もいくつかあり、元の世界に近いレベルの物すらある。


「なにかお探しでしょうか?」


 俺が並べられている品物をまじまじと見ていると、カウンターから声がかかる。


「このお店の御主人でしょうか?」

「いかにもだ」

「御主人様の馬車に使う毛布と、敷物を探しているのですが、特注というのは可能でしょうか? 勿論、飾りでは無いものを」


 振り返ろうかと思ったが、フィルマが進んで商談に及んでくれたので、俺は再度さわり心地を堪能しに戻る。……うん、やっぱり元の世界の物に勝るとも劣らない。


「……ちいっと高くつくぜ?」

「全身全霊で臨んで頂けるなら」

「分かった。大きさはどれぐらいがいいんだ?」

「二人でかけられる程の毛布を十五と、十人が乗って少し余裕がある敷物を二枚でお願い致します」

「随分な大所帯だな……。まあ、出来ないことは無いが、何分作るのは俺だけだからな。少しかかる」

「具体的には?」

「そうさなぁ……。急ぎなら、多少割り増しになるが、五日といった所か」

「構いません、それでお願いします」

「分かった。前金として金一枚になる」

「御主人様、お願い致します」


 ボーッとしながら店の品物を触ってさわり心地を楽しんでいると、横から話しかけられる。優秀になったんだし、フィルマにお金の管理任せちゃおうかなーなどと考えながら、ポケットに繋げた《ジッパー》から金貨をつかみとり、カウンターに置こうと振り返り――


「ガルクさん?」

「おお、あの時の坊主か!」


 覚えていない訳がない。俺の初依頼の依頼主で、剣を一本くれるという太っ腹で豪快なおっさん。ただ、そのガルクさんが依頼をしていた理由は、今は亡き妻と娘の仇をとることだった。偶然としか言えない巡り会わせでその仇を倒して、肩身のロケットを届けたという、なんとも深い経歴を持ってる。だが、ガルクさんは俺とフィアが初めて会った、ウィルという村にいるはずだ。


「なんでこんなところに?」

「あれからしばらくはあそこで暮らしてたんだがな、なにぶん田舎だ。悪いという訳じゃあないんだが、不便ではある。偶々針仕事が得意だったから、しばらくはあの村で仕事を請け負いながら腕を磨いて、ついこの間ここに店を開いた訳だ」


 偶々得意だったというレベルがこの仕上がりとは信じがたいが、それでも店を出せているという事はやはり実力は本物なんだろう。 懐かしの人物との再会した感傷に浸るのもいいが、あまり長話をすると仕事にも差し障るだろう。そう思った俺はカウンターに金貨を置く。


「まさか会えるとも思えなかったんで、嬉しいです。それじゃあ、よろしくお願いします」

「おう、とびっきりのを作るから、期待してまってな」


 ガルクさんがカウンターから笑顔で見送りをしたので、それに会釈で返して店からでる。

 そこら中を眺めながら来たからか、時間は夕方になっており、辺りの屋台からはいい香りが漂ってくる。


「お兄ちゃん、お腹空いた~」

「そうだな。折角だし、そこらの屋台で買って回るか」


 子供達はそれを聞くと、全員が思い思いの方向へ走っていこうとしたので、身体能力の制限(リミッター)を解除して子供達を連れ戻す。あまりの早さに突風が巻き起こっていたが、音速は越えていない。空気の壁にぶつかってミンチとか、いくら再生できたとしてもやりたくないしな。

 何が起こったのか分からず、呆ける子供達の手をしっかりと握り、フィルマと二人で見張りながら屋台を一軒一軒回っていく。そういえば、誰と手を繋ぐかを決めるときにだけ、真剣な表情でじゃんけんをしていた。こういうのってどこの世界でも共通なんだなー。……それと、じゃんけんに勝った一人であるスイの一歩リードという言葉が非常に気になるところではあるな。アレを聞くと、精神年齢は普通に成長してるんじゃないかと思うくらいだ。


「お兄ちゃん、次はあの屋台!」

「すいお姉ちゃん待ってよー」

「スイ! 腕がもげるからもう少し落ち着け! いや、落ち着いてくださいー!」


 スイが俺の手を握ったままいきなり走りだし、それを追いかけるように、白雪も俺の手を引っ張ったまま駆け出し、結果。俺は両腕に二人分の力がかかりもげそうになる。スイがいる分、比喩でないところがかなりヤバいと思う。


「分かった」


 必死の願いが届いたようで、スイは停止してくれたんだが、スイは走っていたのである。もちろん、常識はずれな速度でだ。

 そんな状態で急停止したらどうなるか、想像には難くない。俺もその例に漏れず、勢いを殺せずに投げられたボールの様にスイを追い越す。……が、スイは手を離さなかったために、白雪を飛ばないように抱き締めた俺は、肩から嫌な音をたてながら急停止する。


「うっ……」


 幸い、直ぐに再生したのかそれともなんともなかったのか。とにかく、肩は無事だった。代わりに、痛みが消えるわけではないために少し残るが……肉体的には無事なので問題ない。


「……スイ、街中で本気を出さないようにな? 白雪も、俺の体がもたないから、ほどほどにしてくれ。な?」

「はーい」

「ひえんがそこまで言うなら……」


 本当に良かった。ただでさえ最近は生傷が絶えないのに、必要ない所で傷を作っていては精神の方がもたない。 というか、スイはもう少し自重を覚えないといけないな。龍とはいえ、俺達と暮らしてるんだから、感覚は俺達の方に近いだろう。


「あ、お兄ちゃんあれ食べたい!」

「すいお姉ちゃん、お店のもの全部はダメだよ?」


 ……早急に、改善が必要だ。



―――――



「あー……疲れた」


 あの後、子供達に手を引かれてあっちに行ったりこっちに行ったり。肉体は全然問題はないさ。だが、精神的な疲れが半端じゃない。


「お疲れ様です、ご主人様」


 疲れでソファーに座り込んでしまった俺に、淹れたばかりの紅茶が差し出される。


「ありがとうな」


 俺はそれをのんで喉を潤し、《ジッパー》の中に収納しておいたケーキを取り出して、子供達に手を洗ってくるように伝える。

 一目散に手を洗いに向かう子供達を尻目に、それを淡々と準備するフィルマ。


「フィルマ」

「なんでしょうか?」

「いろいろしてくれるのは嬉しいけど、フィルマも休んでいいぞ? 俺以上に荷物を持ってたんだし、帰ってすぐにそれじゃあ疲れてるだろ」


 俺は精神的に疲れてるだけだが、フィルマは普通の人間なんだし疲れも溜まる。少しは息抜きをしてほしいしな。

 しかし、フィルマは笑顔をうかべると、ピシッとした姿勢になる。


「私は、皆様のお世話を望んで出来る事が楽しいんです。ご主人様には助けていただき、藍雛お嬢様はたくさんのことを教えて下さいました。なので、少しでも恩返しがしたいのです」


 そう言うフィルマは実に楽しそうで。本当に好きな事を思い通りやってるときに出る、そんな笑顔を浮かべていた。


「もっとも、私が一番楽しんでいるような気もいたしますが」


 フィルマはそう呟くと、軽くお辞儀をしてからまた作業に戻り、お皿にケーキを取り分けてくれた。俺はそんな様子を眺めながら、フィルマが分けてくれたケーキを口にする。うん、たまに食べると美味しいな。




 どうも皆様、お久しぶりの神薙です。


 どうしてこんなに遅れてしまったかというと、受験をしてました。合格しました。

 これで安心して小説がかけます。やったね神薙ちゃん、小説が書けるよ!

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