第六幕 道化師の初仕事
祝一万PV突破!
「この中から……ですか」
受付嬢が棚から出した書類の量は凄まじかった。
いや、比喩とかじゃなくて、まさしく机の上に山を築いていた。
「あの……初の人が出来そうな依頼はありませんか」
「そうですね……。ここから……ここまでくらいですね」
受付嬢が指差した範囲は山の半分程。減ったといえば減ったが、それでも多過ぎる。
「アニキ。アニキの腕なら討伐くらいならできるんじゃありませんか」
俺が、書類を前にして唸っていると、後ろで待っていたお兄さん達が言った。
「討伐か……。殺したりする?」
当然ながら、俺は生き物を殺した経験は無い。……そして、出来ることならやりたくない。
「内容にもよりますが……。手間を惜しまないなら、獲物をギルドまで連れてくれば、その分の報酬も貰えます」
連れてくれば、後はギルドに任せられると言うのは魅力的だった。
「じゃあ……そうしようかな」
「討伐の依頼はこちらです」
受付嬢が渡して来た書類の枚数はかなり減り、薄い冊子くらいの量になっていた。 俺はその中からお兄さん達に、適当な依頼を選んでもらい、それを受付嬢に渡した。
「はい、ハウンドウルフの討伐ですね。それでは、身分証明書をこちらに」
俺は身分証明書を受付嬢に渡した。
「ハウンドウルフ?」
「はい。ハウンドウルフって言うのは、ようは、ただの狼が魔力にあてられて、少しばかり能力が高まった奴です」
「普通の狼とは違い、群れを作らずに個体で行動しています」
「へぇ〜。……そんなの俺が倒せるの?」
「大丈夫です。野犬退治とそう変わりませんし、何より、俺達が付いていますから」
「……そうだね。その時は任せるよ」
俺が聞くと、お兄さん達が親切に答えてくれた。 ……カツアゲしようとした奴とは、思えない。しばらくすると、受付嬢が身分証明書を返してくれた。
「今回は民間の依頼なので、先ずは依頼主の所へ行き、詳しい話を聞いてください」
「分かりました」
「あ、あと、これをどうぞ」
受付嬢はそう言って、俺にナイフを手渡した。
「あまり役には立たないかも知れませんが、無いよりはマシかと思います」
「ありがとう」
俺はナイフを受け取り、ニッコリと微笑んだ。気のせいかも知れないけど、このお姉さん、さっきよりも顔が赤い気がする。
「顔赤いけど、風邪ですか?」
「だ、大丈夫ですから! 依頼頑張って下さい!」
そう言うと受付嬢は、奥へと走っていってしまった。
「うーん、嫌われたかな」
走って逃げて行ったし。
「アニキ……」
「天然……ですかね」
キコエナイナー。
―――――
「あなたが、依頼主さんですか?」
俺達は、依頼書に書いてあった場所まで行くと、けっこういい体つきをした人が丸太の椅子に腰かけていた。
「……あんた達が依頼を受けた人かい」
めっちゃ不審がられています。まあ、当然と言えば当然だな。子供一人に、いかにも悪い道すすんでますよーな大人が二人だし。
「いえ、受けるのは俺だけです」
「……あんたが?」
もっと不審がられてます。俺はそんなに不審ですか。……倒せるかどうか不安なのも確かだけど。
「俺が倒せるかどう不安でしょうが、今回の依頼を受けたのは俺ですから。詳細を教えていただけますか?」
「……まあいい。今回は、ハウンドウルフを討伐してもらいたい。殺すかギルドに持っていくかは、あんたが好きにしてくれ」
依頼主のおっさんはそう言うと、丸太椅子から立ち上がって家のほうに向かっていった。
「分かりました。他に伝えておきたいことは?」
「……無い」
「分かりました。では、朗報をお待ちください」
俺は依頼主にそう伝えると、踵を返して生息地である森の中へと歩いて行った。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね。お兄さん達の名前は?」
思い返すと、今までずっとお兄さんと呼んでいたから名前を聞くのを忘れていた。
「俺はキリと言います」
と、肩が当たった方のお兄さん。
「俺はカイです」
フムフム、キリさんとカイさんか……。
「カイさん達は自分達の依頼を受けなくてよかったんですか?」
「……いいんです」
……? なんか含みがあるけれど……、何だろう。
「カイさん達は……」
俺が話そうとした瞬間、右側の茂みが大きく動き、がさっという音がする。
俺は様子を伺いながらゆっくりと茂みに近づいて……。
「アニキ!!」
「は……?」
キリが叫んだ直後に大型犬ぐらいある大きさの何かが跳び掛かって来た。
「おわっ!」
俺は慌てて真横に跳んだ。すると元いた場所の地面が爪でえぐれていて、近くには大型犬ぐらいの大きさをした狼が喉を唸らせている。
「グルルルル……」
ハウンドウルフが唸り声をあげながら、間合いを取り直している。
「アニキ!」
「来るなっ!」
「っ!」
直ぐさま、俺のところにキリさんとカイさんが走り寄って来ようとするが俺はそれを止めた。
俺の武器はナイフ一本。それを握りしめ、呼吸を整える。
「おらぁ!」
俺は、一気に間合いを詰めハウンドウルフの頭部にナイフを一閃する。が、ハウンドウルフはその場から飛びすさりナイフは空を切った。
「ちいっ!」
「ガウッ!!」
ハウンドウルフは飛びすさった勢いをそのままに、俺に向かって爪を立てて飛びかかってくる。
まずい……体勢が崩れていて立て直せない。
爪は、俺の腹に向かってまっすぐに向かって――。
「アニキ!!」
「ギャイン!」
ハウンドウルフの爪が俺の体に突き刺さる直前。キリがハウンドウルフの腹に思いっきりタックルを決めた。
おかげで、ハウンドウルフは俺には当たらずに吹っ飛んでいき、木に背からぶつかっていった。
「アニキ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ。ありがとう。……あ、ハウンドウルフは?」
俺が少し左を向くと、ハウンドウルフは頭部から血を流してピクリとも動かない。
「死んだ……のかな?」
俺がそうつぶやくと、カイさんが注意をしながら近づき、拾った木の枝でハウンドウルフの瞼の辺りをつつく。
が、反応はない。それを確認したカイさんは、ハウンドウルフの首筋あたりに指を当てている。
「気絶しているだけのようです。今なら、簡単に殺せますが……どうしますか」
「連れて行こう。ギルドまでに目が覚めたりしないよね」
「おそらく大丈夫でしょう」
「そう……」
俺は、ハウンドウルフを肩に担ぐとギルドへ向かって歩いて行った……。
―――――
「はい。依頼の遂行を確認しました」
俺は、あのまま依頼の完了を依頼主には告げずハウンドウルフをギルドへ連れて行った。どっちにしろ、俺自身で動物を殺せるほどの勇気はなかったし、キリさんやカイさんに迷惑をかけたくなかった。
「これが、報酬となります」
受付嬢はそう言って、俺に小さめの袋を手渡してきた。中を見ると、十枚前後の銀貨が入っていた。
「あ、そう言えば名前を聞いてなかったですね」
今後もここのギルドは使うつもりだし、名前ぐらいは聞いておいた方がいいだろう。何より、このお姉さん美人だし。だがナンパのつもりはない。聞けたら役得程度にしか考えてないしな。
「ふぇ? わ、私ですか?」
「はい」
他に誰がいるんだろうなー、なんて失礼なことを考えながらも今度は怖がらせないように、満面の笑みで……。
「れ、レイアです。レイア=ランクフォード」
「よろしくお願いしますね、レイアさん」
「ひゃ、はい!」
やば……。この人の真っ赤になった顔がめちゃめちゃ可愛い。なんというか……小動物系の愛らしさとでも言うのだろうか。
「レイアさん」
「はい?」
俺がレイアさんの顔にボーっとしていると、奥の扉から手術服(みたいな服)を着た人が出てきて、レイアさんに何かを渡した。
「ヒエンさん……であってますよね」
「はい?」
「ハウンドウルフのお腹の中からこれが出てきたらしいのですが……心当たりはありませんか?」
レイアさんはそう言うと、俺にネックレスのようなものを渡してきた。
ん~……。どう見ても心当たりは無いよな……。
「残念ですが、俺には心当たりは無いです」
「そうですか……。ではいつも通り、廃棄処分に……」
俺はネックレスを、しばらく弄っていると飾りだと思っていた部分が開き、中から絵が出てきた。
「……すみません、やっぱり心当たりありました」
「ホントですか!?」
驚愕するレイアさんが質問してきたので、俺はそれにうなずく事で肯定する。
「はい。これ、もらってもいいですか」
「ええ。構いませんよ」
「あと、依頼主への報告も俺が行ってきます。ちょっと用事があったので」
俺はそう伝えて、依頼主であるごついおっさんの所へ向かった。
どうも、神薙です。
なんと、一万PV突破しました!これも一重に皆さまのおかげです。ありがとうございます。
駄文ではありますが、今後ともよろしくお願いいたします。
作者は常に皆さまからの、ご意見、感想を募集しております。