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別世界の道化師  作者: あかひな
四章
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第六十四幕 道化師と邪気眼系少女


「そっちいったぞー」

「はい」


 セリアさんが文字通り潰し損ねた隙に、俺の元へと駆けてくる一体の骨格。ただ、その骨が明らかに一般的な人間の骨ではない事は言うまでも無い。普通の骨は駆けるどころか、歩く事や立つことすらできないのだから。

 この骨の正式な名称はホワイトボーンというらしい。俺はコレを聞いてついホワイト以外のもいるのかと聞いてしまったが、実は他にもいるらしい。ただの骨ならホワイト、鉄の生産がされる鉱山のような場所の魔力に当てられた骨ならアイアンボーン。とまあ、そんな感じで同類は多いが多種多様らしい。ちなみに、討伐証明部位は頭蓋骨。その内側に古代言語で書かれた呪文があるとか。それがあるおかげでこいつらは動く事ができるらしい。ちなみに、行動は一般人から冒険者のそれとの中間ほどだそうだ。


「よっと」


 目の前にまで迫ってきたホワイトボーンを《勝利をもたらす剣(エクスカリバー)》で首の辺りから叩き斬り、落ちてきた頭蓋骨を《ジッパー》でキャッチして収納する。頭と分離した体は灰のようになって崩れ落ち、下に砂の山を築く。


「うんうん、やっぱし腕が鈍ってたな。肩慣らししといて正解だぜ」


 セリアさんはそう言いながら自分の体にかかった砂を払い落とし、ポケットから出したハンカチで自分の血を拭く。もちろん、セリアさんはあの骨にやられたのではなく、人体の限界を超えた活動をしたからだ。

 いやはや、血を撒き散らして戦うセリアさんが痛々しかったとはいえ、どこからとも無く湧いてくる骨達に多対一の戦いをしているセリアさんは圧巻だった。

 さすがに俺も指をくわえて見ている訳には行かないと思い、戦闘に加わろうと思ったのだが、セリアさんが満面の笑みで準備運動だからこぼした奴らよろしくと言ってきた。赤く染まりかけた顔で笑みを浮かべられると怖い事この上ない。アレは絶叫系ホラーだった。


「それにしても、どうして骸骨がこんなに沢山?」

「ああ、ここは一応終身刑の受刑者が放り込まれるとこだからな」

「……そんな所に聖女を幽閉するんですか?」

「そりゃああれだ。修行ついで」


 回復の能力しかないのに修行ついでにこんなところに放り込まれる聖女はとってもかわいそうだと思う。てか、娘達を魔物がウヨウヨしているところに押し込んで修行というのもどうなのだろうか。ん? でも、回復の能力も使えないのか。だとしたら、一般人と同じ状態で押し込まれるのか……嫌な習慣だ。


「つっても、さすがもしものことが考えられるからな。親の代の聖女と一緒に入るって事が習慣になってる」

「それにしても厳しい習慣ですね」

「一族にしか伝えられない珍しい能力だからな。攫われれば一生幸せを見ることは無理だ。だから、ウチは娘達を守るためにこんなところを造ったのさ」


 確かに、今では信じているものが少ないとはいえ聖女の存在は事実だった。だとしたら、身を守るための術を習得させるのは当然といえるだろう。


「そういわれてみればそうですね」

「だろ? 幸い、ここの洞窟はウチが潜りきるのが面倒になるほど深かったからな。適当な位置に信仰の祠をおいてくればちょうどいい修行になるのさ。っと、後ろ来てるぞ」

「そうですか! っと」


 セリアさんと離している間にいつの間にか間をつめていたホワイトボーン達を一閃し、三体ほどを土に還す。しかし、本当にどこから湧いているのか、その向こうにも数えるのが面倒なほどのホワイトボーン達がこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。


「……一体どれだけの受刑者がいたんですか」

「宗教やってれば暗黒時代ってのもあるのさ。ウチが自分の目で見たわけじゃあないから知らないが、異教の徒っつー訳だな。全く、神様の教えに背いてるぜ」


 そう思うなら止めればいいのに、とも思うがセリアさんなりの考えがあってのことだろう。元々、衆人環境の中にいることすら出来ないわけだし。


「ウチにできたのは、安らかに眠る事ができるように寿命を迎えられるように体を使っただけだったさ。まあ、その過程でほとんどがウチの方の宗教に移っちまったんだけどな。ほら、置いてくぞ」


 セリアさんはそう言いながらけたけたと笑い、ずかずかと先に進んでいく。……周囲の骨達の殲滅も忘れずに。


「なんつーパワフルな聖女だよ……」


 俺はそう呟いてから、潰し漏らしを斬りつつ《ジッパー》で回収。砂の絨毯を歩いていく。



―――――



 俺は、あまりの光景に目を疑っていた。というか、目を疑うほかに何が出来るのか問いただしたい。なぜなら、俺の眼前には……。


「フゥーハハハハ! 私こそは最上位魔眼、邪気眼を持ちし堕ちた聖女なり!」


 藍雛を彷彿とさせる、中二病的漆黒ゴスロリドレス。墨か何かで染めたのか、素人目にも分かる無理して染めたであろう、セリアさん譲りの黄緑色の地毛が覗く黒髪。そして何より、無駄に尊大で自分至上主義で聖女という聖なる身分でありながらそれを無視して、魔に堕ちた風な装い。

 元の世界の懐かしさを感じる、中二病感染系聖女だ。


「セリアさん、聖女ってこんなのばっかりなんですか?」

「……確かに個性が強いのも多かったけどな、ここまでのゲテモノは初めてだ」

「この私をゲテモノ扱いするとは、身の程を知れ!」

「……ちぃっと黙れや小娘」

「ひっ!」


 ゲテモノ扱いされ、ちょっと言いすぎな位怒り狂う今代聖女に対して、本気の殺気を込めた視線を飛ばすセリアさん。俺からすればちょっと冷や汗をかく程度なのだが、やっぱり本気の殺気というのは恐ろしい。

 と、その隙を見て俺の肩をガシッとつかみ、顔を引き寄せる。


「ありゃあ、頭のネジが二、三本吹っ飛んでるわ。ちょっとばかし灸を据えて、正常に戻すぞ」

「戻すって言ったって、吹っ飛んでるんですから治るわけ無いじゃないですか」

「そこをほら……。ウチの肉ねじ込めば治るだろ」

「ダメですよ! 倫理的にアウトです」

「ええい! 何をごちゃごちゃと! わが漆黒を食らうがいい! 《|《絶対永遠氷結死》エターナル・フォース・ブリザード》」

「はあっ!?」


 今代聖女の言ったその魔法を聞いて、思わず顔を上げれば、今代聖女の腕から氷が柱のように伸びていく。いや、ただ伸びていくのではなく、こちらに向かって追尾するように氷の柱を形成していく。


「うん? なんだこりゃ。ただの氷くらい……」

「ダメです! 《雷電(らいでん)》」


 俺が魔方陣を展開し、そこから雷を召喚する。雷は俺の思ったとおりに氷の柱を通ろうとするが、途中で雷の姿が消える。


「おお、神のいかづちを消すとは、ネジが吹っ飛んでる割にはやるねえ」

「まさか、絶対零度?」


 絶対零度、というのは物質における温度の下限だ。そこでは、ありとあらゆる全ての原子の運動が止まり、完全に硬直した状態にする事ができる。恐らく、雷が止まったのもそれが原因だろう。


「くっそ! どうしろっつーんだよ」

「ものは試しか……。《創造、破壊》」


 創造で、破壊を創造する。今の俺ではろくに破壊を扱えないが、創造で創る事ができればもしかしたら……。そんな期待を抱いたが、何かを引っかくような耳障りな音を立てるだけで、破壊は発動しない。


「《破壊・槍。任意、対象・氷結》」


 どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえ、俺とセリアさんの間から黒地にマーブル模様の槍が飛んでいく。それは的確に氷だけをまるでチューブの中を通るように飛んでいき、今代聖女の手に触れたとたん消滅する。


「ふう、間一髪だったわね」

「藍雛?! 何でここにいるんだ?」


 俺が後ろを振り返ると、見慣れた白髪をたなびかせながら、藍雛がとことこと歩いてくる。いや、ほんの少しだけ地面から浮いてるところを見ると、歩いているというよりは飛んでいるといった方が的確だろう。

 しかし、助けてもらったのは嬉しいが、どうしてこんなところに?


「あまりにも暇だったから、分身と感覚を共有して緋焔についていかせようかと思ったのよ。まあ、所詮魔力の塊だから、魔力を使い切ってしまえば消えるのだけれどね」

「それにしてもいつから見てたんだ?」

「質問が多いわねぇ……。この洞窟に入ったあたりからよ。緋焔の位置を探って無理やり通り道を作ったから」


 藍雛の言う道とは、恐らく空間を破壊して無理やり繋ぐアレだろう。さすが藍雛、常識はずれだ。


「さて、緋焔。そこの邪気眼をどうにかするわよ」

「ふんっ! 人間風情が私の魔法を打ち破った程度で図に乗るな!」

「……あ?」

「ひっ」


 今代聖女……あんまり調子に乗るとセリアさんより怖いから、気をつけな。と、心の中でだけ思っておく。というか、藍雛、今「あ?」って言ってたよな。聞き間違いとかじゃないよな? 仲間なのにめちゃくちゃ怖いんですけど。


「一言言っておくわね。そこの電波系中二病邪気眼聖女」

「う、うむ?」

「……あなた、我とキャラがかぶってるのよ」


 ……お怒りの原因はそれですか。

\キャーアイスサーン/\キャーアイスサーン/\キャーアイスサーン/


 中二病系邪気眼聖女ちゃん、痛い、痛いよ!

 初代聖女にすらゲテモノ扱いされるほどの今代聖女ちゃん。どう考えてもかなり強い魔法なのに、藍雛に即滅されちゃう可愛そうなキャラ。

 これは……薄い本が出るな。(注・出るわけありません)

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