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別世界の道化師  作者: あかひな
四章
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第六十二幕 道化師と聖女と神話


 砂埃がもうもうと立ち上る中、払うように手を振ってみるが、当然というべきか意味は無い。だが、少し時間が経つと、砂埃は風に流されて、地面の下へ続いていく階段が姿を現した。


「はいはい、テンプレ乙」


 ある程度予想がついていた。というか、自分で台座を切った以上、そこまで驚く事でも無い。むしろ、ゲームでありそうな展開だ。そんなことを考えながら、そこそこの歩調で歩みを進めていると、暗くなってきていたはずの足元が、申し訳程度に照らされるようになっていた。

 使われていない場所なら、間違いなく光なんてあるはずがない。だとすれば、やっぱりここで当たりだろう。


「さてはて、次に出て来るのは牢屋か。もしくは古臭いドアと読ん−−だっ!?」


 突然、足元が滑るような感覚がしたと思った次の瞬間、既に靴は地面から離れていた。つまりは、落とし穴だろう。多分、侵入者迎撃用とかそんな感じの。


「ちょまぁぁぁあああ!」


 叫んでみるが、時既に遅し。体は重力に引かれて落ちていき、声はこだまして消えていく。

 俺、ここから帰ったら、スイを抱きしめて、頭を撫でるんだ……。


「あ、死亡フラグ」


 そう気付いた瞬間、腰に着けていた《勝利をもたらす剣(エクスカリバー)》を抜いて、壁に突き刺した。

 速度は徐々に落ちていき、下が見えるくらいになったところで止まった。


「……あっぶねぇ」


 下を向くと、まるで剣山のように無数の槍のような物が刺さっていて、汚れた布切れや、白い骨のようなものまでのぞいている。こんなのは冒険家のやる事な気がしてならない。と、思ったところで、親父が冒険家であることを思い出す。なるほど、嫌な血筋だ。


「よっと」


 《勝利をもたらす剣(エクスカリバー)》を足場にして、飛び上がり、同時に《勝利をもたらす剣(エクスカリバー)》も引き抜く。英雄の剣を置いていく訳にもいかないからな。ただ、やろうと思えばいくらでも作れるけどな。


「さてと、仕切なおし−−いぃっ!?」


 穴から上がり、一歩前に進んだ瞬間。目の前を黒光りする何かが通り過ぎ、俺の前髪を数本切り落とす。思わず下がり、前を見ると三日月状の刃が右へ左へと振り子のように動いている。

 もはやインディー○ョーズの世界である。


「鬱陶しい……駆け抜けるか」


 見たところ、この道は一本道。限界の速度で駆け抜ければ大体の障害は無視して抜けることが出来るだろう。最悪、羽を盾にして身を守っても良い。


「よっしゃ、制限(リミッター)は……三十パーセント位でいいか。で、羽に《防護壁》をかけて……ついでに前面に円錐状の《防護壁》っと」


 コレだけやれば大丈夫だろう。藍雛のような存在がいない限り、これなら問題ない。そう考えた俺は、埃臭いのを我慢して深呼吸をして、道を一気に駆け抜ける。

 さっき目の前を掠った大鎌など、すでに遥か後ろ。俺の駆け抜けた後では多種多様な罠が起動する音を立てている。轟音や風を切る音、爆音や何かが突き刺さる音に金属音。聞き分けをすればきりがないが、もはや何かの最重要金庫でもあるのかというほどの罠の数である。その上、すでに相当な距離なのに道が終わらない。いくら聖女の末裔がいるからといって、これはどういう事なんだ? そう思い始めたころ、前方から僅かだが光が見えた。俺はもう罠が仕掛けられていないのを確認してから減速し、羽もしまう。

 普通の速度で歩いていると、光源は松明であることが分かり、松明にはさまれているような形になっている扉が、ゆらゆらと揺れる光に照らされていた。これは、開けろということだよな?


「失礼します……」


 扉を開けた先、俺の目に入ったのは目に痛い黄緑の修道服を着た女性が、胡座をかいてティーカップに口をつけながら本を読んでいる姿だった。



−−−−−



「いやー、ホント済まんかったね。人にあったのはかれこれ何年ぶりだか」


 俺の姿を目に入れた女性は、何故か俺をテーブルを挟んで向かい合う様に座るように促し、そう言った。


「いや、それはいいんですけど、あなたが聖女の末裔ですか?」

「つれないねぇー。ま、それはとにかく紅茶飲むかい?」

「スルーですか」

「うちのいれた紅茶は美味いぜ? つっても、何年も飲んだ奴はいないけどな」


 そう言って、人の話も聞かずにカラカラと笑う女性を見ながらため息を吐く。その間、女性は宣言通り手慣れた様子で紅茶を入れていき、ティーポットにお湯を入れた所で、テーブルの上にそれを置いてさっきと同じ場所に座り直す。


「で、質問に答えるとうちは聖女の末裔なんかじゃねえ」

「じゃあ、あなたはなんでこんな場所に?」


 俺がそう言うと、女性はティーカップに入っている紅茶を煽るように飲み干し、俺の目を見つめて言った。


「うち自身がその聖女だからさ」

「……は?」

「……うん? 難聴かい?」

「違います。てか、聖女本人?」


 このやたらたゆんたゆんで、藍雛が見たら揉みしだきそうなブツをつけた女性は何を言ってるんだろうか? いや、理解はしているが、感情が追い付かない。

 この胡座で、黄緑で、話を聞かないたゆんたゆんが聖女? は?


「だからそう言ってるだろうかよー」

「いや、だってこの国は建国からかなり経っていて、それをやったのだって聖女の孫かひ孫の辺りじゃあ……?」

「おう、そうだな。やったのはうちの孫だな」

「じゃあ、あなたがここにいるなんておかしいじゃないですか!」


 つい声を荒げてしまったが、仕方ない。建国したのはかなり前。千年とはいかなくても、かなりの年数が経っている事は確かだ。それにも関わらず、当の本人が存命? 一体なんの冗談だ?


「あー、そうかっかしなさんなって。そうだな、とりあえず昔話からスタートしなきゃならねえな」

「昔……話……?」


 キョトンとした俺を尻目に、女性は獰猛な笑みを浮かべて頷く。


「おう。ただし、神話時代のとびっきり昔の話だ。誇張も、捏造もない事実。そんな昔話を語ってやんよ」



−−−−−




 今から数千、いや、途中の記憶が曖昧だし、日数の細かくなんて覚えてすらいねえから、もしかしたら万を数えるかもしれねえな。とにかく、常人の感覚では分からないほど途方も無い昔、その時代ではこの世界はもっと狭かった。どれぐらいかっつーと、人間が一年無いうちに歩いて一周できるぐらいだ。

 ただ、狭いからつって今みたいにそこら中が争いの火種でいっぱいって訳じゃあなかった。どこもかしこも平和で、全員が協力して暮らす。そんな理想な、楽園みたいな世界だったのさ。

 しかし、ある一人の人間が生まれて世界は一変した。ガキの名前は言いたくもねえが、とにかくあいつはそれまでと違った。そいつは、その世界の神に反逆したんだ。

 それまでの世界では、神は創造神で、敬わなければならない存在っつー事になってた。ひとつの集団でそれぞれ供物を作ったりしてな。無論、誰一人としてそれを疑いもしなかったし、異論を唱える奴もいなかった。だが、あろうことかガキはそれを否定した挙句、神に刃を向けると言いやがった。しかし、なぜか神はこれに対して何も言わなかった。だからといって、そいつを許す事はできねえ。だから、全員一致で追放が決定した。

 思えば、それが失敗だったんだろう。そいつを世界の端に追放するまでの間、衆人監視の元で数日間拘束という事になったんだ。だが、ある日の晩、そいつは脱走した。誰かが手引きしやがったんだ。

 もちろん、誰が手引きしやがったという事になった。だが、誰一人として言うやつはいねえ。

 疑心は不和を呼び、不和は諍いを呼び、諍いは争いを呼ぶ。そんな世界はもはや楽園とは呼べない、些細な事で近しくて親しい相手を憎しみあうような汚い世界だったのさ。

 そして、誰しもが世界に失望していた時だ。あいつがノコノコと帰ってきやがった。だが、皆が疲弊しきった世界じゃあ、誰もそいつの事を捕まえる気力すら沸いていねえ。そして、そいつはこう言い放ったのさ。


「誰がこんな世界を望んだ? 人が人を憎みあい、家族を家族とも思わないような事を強いられる世界を、誰が創った?

 皆。もし、天上に居座る傲慢な創造者をその地から引きずり降ろす方法があったら、どうする? 助けを求める? 疑問を投げかける? それもいいだろう。でも、その『創り出す能力』を奪い取れるとしたら、どうするかい?

 もし、その力の一端で持って、この世界を戻したいと願うなら、俺と一緒にあの傲慢な創造者をその手で殺そうじゃないか」


 うちは憎しみではらわたが煮えくり返るかと思ったね。どの口がそんな事を言いやがると言ったさ。だが、そいつを非難する声の中で、誰かが言ったのさ。


「僕は……。僕は、こんな世界は嫌だ! お父さんもお母さんも兄貴も妹も! 皆と一緒に仲良くしたい!」


 どこのボウズかは知らない。だが、そいつはきっと、また皆で仲良く暮らしたかった。願いはそれだけだったんだろうさ。

 その声に押され、一人。また一人と声が上がっていき、気が付けば非難する声は無くなり、怒号のような雄叫びだけが世界を包んでいた。それはもう、誰にも止められないような、大きなものにな。

 ガキだったあいつは、世界を率いる大軍の統率者だ。そいつがまず必要としたのは、うちの集団で作っていた、神酒だった。神酒は、神だけに許された飲み物で、供物としては絶対に欠かすことの出来ないものだった。しかし、そいつはその神酒には不老不死の効能があるとか言い出しやがって、そいつを寄越せとのたまいやがった。だから、飲んでやったね。あんな奴にくれてやる位なら自分で飲んだほうがずっとマシだと思ったからだ。

 飲んだ瞬間には変化は無かったし、あのガキもうちが飲んだとは気づかなかった。ざまぁみろって気持ちでいっぱいだったよ。

 それから数日もしないうちに、うちの集団の誰かがガキに神酒を渡した。あいつはそれを満足そうに飲むと、確かめるといってその場を離れた。数分の内に帰ってきたあいつは胸を血で赤く濡らし、成功だと言った。そして、これ以上精製をしないように堅く禁じると、その場で神降ろしの戦を始めると宣誓した。

 うちら神酒の生産ができる唯一の集団は、そいつの手で牢に幽閉されて長い時間を過ごした。幽閉つっても、ちゃんと食事ももらえるし、軟禁に近いもんだった。

 一年程経ったころ、突然牢が開けられて、空を見るように監視の兵に言われた。何事かと思ってみれば、翼が真っ黒に炭化して体中に血をつけた神様が、あのガキを掴んで空に立っていた。そして、神様は言ったのさ。


「この者、『神殺し』は死することは無い。わが供物を飲み、屍になる事なき命をえた。

 人々よ、この度の戦で、私は元のようにいる事はかなわなくなった。もう、この地で神として君臨する事は出来ぬであろう。この地は恩恵も無くして、人々の手でのみで残していくのだ。最後に、私の最期の力を持って、人々を悪しき方向へと導いた『神殺し』をこの世界から追放し、人々が生きやすいように世界を広げて去る。

 さらば、わが最愛の子供達よ」


 そう言って、神様は『神殺し』と共にこの世界から去ったのさ。

 聖女さんの登場。思い返してみればロリキャラが多かったこの小説に数少ないお姉さんキャラの登場。なかなかサブキャラが栄えないのをどうにかしたい。


 常時、感想等お待ちしています。

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