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別世界の道化師  作者: あかひな
四章
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第五十九幕 道化師と勘違い


「……どうするかな」


 顔のほてりは冷めた。幸い、腕の中のフィアも目は覚めていないし、現状としては良い方だろう。だが、一つ問題がある。降りたときに、このフィアをどうするか、という問題である。あんな事をして無理やり気絶させた手前、普通に起こしたとしても先ほどよりも多大な被害が俺に一点集中するだけだろう。しかも、今度はスイではなくて俺なのだから、手加減など欠片も期待できない。というか、したら比喩でなくて死にそうな気がする。


「ん……んぅ……」

「うお!?」


 起きたのか!? と、思って戦々恐々だったが、起きたわけではなくただの身動ぎであった。し、心臓に悪い……。


「……あ、フィアがいるなら騎士団の誰かがいるんじゃね?」


 よく考えれば、今現在のフィアは王都騎士団高位魔法隊第二部隊隊長という、長ったらしい上にすごい役職についている。つまりは、フィアの部隊の誰かもいる。という事になるのだ。ならば、そいつのところに行けばフィアも帰せて、上手くいけば宿まで見つけられるのかもしれない。上手くいけば万々歳。上手くいかなくても、フィアを預けて来るぐらいなら余裕で出来るだろう。


「よっしゃ。そうと決まれば直行だな」


 やることが決まれば話は早い。俺は目の前に防風用の結界を張り、羽を折りたたんで滑空する。滑空とはいっても、結局は落ちているのとほぼ同じなため、方向の微調整以外は出来ない。しかし、そこは化け物レベルの身体能力を有した俺。目の制限(リミッター)だけを外すという器用な真似をして、以前見た王都騎士団の服装をした人物を探す。

 探すとは言っても、上空数百メートルはあろうかという高さから眺めればそれは航空写真を見ているのと同じ。探すのは難しい事ではなく、始めてすぐに高級そうな建物から出てくる見覚えのある人物達を捕らえたので、そこに向かって落ちる、ではなく滑空する。

 上空五十メートル位になったところで羽を広げて減速。地面に着くころには、エレベーター程度の速度になり、悠然と地面に降り立つ。端から見たら上空から落ちてきた悪魔という光景だろうか。まあ、俺は悪魔ではないので、目の前の人物達に久しぶりの挨拶を交わす。


「久しぶり、ミーラ。レニー」

「緋焔さん、僕。僕もいますよー。自然な流れで無視しないでくださいよー」

「お、お久しぶりです緋焔さん!」

「お久しぶりです」


 上記の通り、見覚えのある人達とはミーラとレニー。そしてリックの三人である。幸い、俺のことを忘れている人はいなかったようで、嬉しい限りである。


「なんだ、リックもいたのか」

「いましたよ! そんな今分かったみたいなノリで言わないでくださいよ!」

「ま、まあまあ隊長。お久しぶりの再開なんですし、そう怒らずに……」

「そうですよ隊長! そんなことより緋焔さん、いつか魔法のご教授を願いたいのですがよろしいでしょうか?」


 ……いや、リックを無視したのもちょっとは悪かったと思う。もちろんただの冗談だが。魔法に関しても、俺に教えられる事ならいくらでも教える。だがしかし……。


「もっと先に突っ込むべき事があるだろう……」

「「え?」」

「そういえば、緋焔さんはなんでフィアさんを抱えてるんで――うわ、なに二人とも!?」


 レニーとミーラが惚けたように聞き返す反面、本当に自然な流れで気づいたようにリックが俺に件の話をしようとして……ミーラとレニーに建物の影に連れ去られた。


「ちょっと隊長! 何で言っちゃうんですか!?」

「え? 何でって、どう考えても不自然じゃあ……」

「レニー、隊長は鈍感だからきっと分かってないのよ。そもそも、男の子なんてそんなもんでしょう」

「そっか……。リック隊長、いいですか」

「は、はい……」

「フィア第二部隊長と緋焔さんは、きっと逢引(あいびき)してたんですよ!」

「あ、逢引?」

「そうですよ! 最近、毎日フィアさんがいなくなっていたので、不思議に思ってたらそう言うことだったんですよ!」

「「キャー!」」

「フィアさんが緋焔さんと逢引ねぇ……」


 ……ほんの出来心だった。何を話してるのかが、ちょっとした野次馬根性が出て気になってしまい、目の制限(リミッター)をかけ直して聴力の制限(リミッター)を少しだけ開放して聞こえた会話がこれだった。


「……お前ら、そんな訳無いだろ」

「あ、聞こえてましたか?」

「バッチリな」


 俺と付き合っているなんて嫌疑をかけられては、美少女であるフィアがかわいそうだ。確かに、ちょっと自惚れる程度の容姿はあっても、それは決してフィアに釣り合うようなものじゃない。なんだかんだで、俺は髪色が珍しい程度の一般人なのだ。身体能力とかは別として。


「怒ってはいないから、安心しろ。そんなことより、フィアを早く宿にでも連れてきたいんだ」

「……経緯は知りませんが、確かにその状態のフィアさんが起きたら、緋焔さん――」

「言うな」


 分かってる。分かっているから、辛い現実に目を向けさせないで欲しい。だから、さっさと宿にでも連れて行って、身の安全を確保したいのだ。


「わ、分かりました。今、騎士団の魔法隊が遠征に使っている宿があるので、そこに行きましょう」

「そこなら、フィア第二部隊長の部屋もありますしね」

「ああ、頼む」

「とはいっても……」


 リックはそう言うと振り返り、目の前の建物を指差していった。


「宿、ここなんですけどね」

「まさかの新事実!」


 ……って、遊んでる場合じゃ無いな。

 ネタを言って遊んでいる俺を無視して、さっさと宿の中に入っていくリック達。見失わないように後を追って入っていく。


「おぉー、結構いいところに泊まってるんだな」


 宿、というからには質素な所を想像したのだが、全然そんな事は無かった。元の世界のホテルのように高くは無いが、内装はそれに勝とも劣らないくらいの綺麗な内装をしている。


「ええまあ、遠征費用として渡された額がそこそこ多かったので、いい機会だし上げて落とす作戦で少し鍛えようかなと思ったんです。だから、後は野宿か安宿に泊まりますよ」

「上げて落とすって……」


 確かに、いつ魔物に襲われるとも分からない状況なら鍛えられるだろうが、あんまりにも極端じゃないかと思う。


「ちなみに、今日は遠征何日中何日目なんだ?」

「そうですね……流石に、二週間空けるのはまずいでしょうから、キリよく十日か、十二日程度ですね」

「ふむふむ。で、今日は何日目だ?」

「一週間かちょっと足りない程度ですね」


 ……おぉっと。予想よりも大分厳しいんじゃないだろうか。その証拠に、さっきから黙り込んでいるミーラとレニーの顔色がすぐれない。


「……流石に少し厳しくないか?」

「上げて落とすんですから、これくらいがちょうど良いんですよ。それに――いえ、やっぱりなんでもないです」


 他に聞こえているかは知らないが、俺にはしっかりと聞こえていた。リックがぼそぼそと、最近やけに子供扱いをするからみたいな事を言っているのを。

 ……まあ、自業自得って事で。というか、リックはまだまだ子供だと思うんだがな……確か、歳もまだ十代半ばだったはずだし。そんな子供が、二十を越すような集団にいれば子供扱いも受けるだろう。


「で、フィアの部屋は何号室なんだ?」

「フィアさんの部屋は二○一号室ですね。案内しましょうか?」

「いや、そこまではいい。流石にこれ以上迷惑かけられないしな」


 それに、宿から出ていたという事は、出掛けようとしていたんだろう。既に遅いかも知れないが、邪魔になるのは避けたい。


「分かりました。それじゃあ、僕たちは出掛けて来ますけど、くれぐれも街を壊すような事をしないでくださいね」

「俺は破壊神か何かかっ!?」


 冗談だと思い突っ込んだが、リックの目が笑っていない。……出来るけどさ、流石にそんな事はしないって。だからそんな目で見ないで下さい。俺のチキンハートが四散します。


「そんな事しないっていうのは分かってますけど、フィアさんの全力を止めようとして、ならありえますから」

「……返す言葉が無いな」


 絶対にありえない、と言えない分リアルだ。やる気が一切無い上、望まない未来だけにそうならないよう心の片隅にでも置いておく。


「じゃあ、緋焔さん。フィア第二部隊長をよろしくお願いいたします」

「お願いします」


 ミーラとレニーはそう言うと、リックを引きずって外へ出ていってしまう。その様子は、まるで仔牛を載せていく車のようだ。そしてリック、そんな助けてほしそうな表情をしても俺にはどうにもならない。


「さて、さっさとフィアを連れていくか」


 リック達が見えなくなり、フィアが気絶してからそこそこ時間も過ぎている。一刻を争う事態だ。

 時を止めれば、と言う人もいるかも知れない。だが、非常に残念な事にそれは不可能だ。理由は簡単で、俺の鍛錬不足の一言に過ぎる。そもそも、時間を止めると言うのは簡単だが、普通から見れば非常に狂った事だ。

 時が止まるとはつまり、次元ごと纏めて固定されるという事。それは大気であっても例外ではなく、例え術者が自由に動けたとしても、周りが動かなければ意味が無いのである。そこで、時を止める際には自分の周囲を時を止める対象から外す必要がある。しかし、問題はそこからだ。

 さっき言ったように、時を止めた場合には空間が次元ごと固定されてしまう。その際にそれを捩曲げて思い通りにするには、スイのような『《時空》を操る』と言うことが必要で、本能的に受け継がれた種ならとにかく、俺は生身の人間で、『《時空》を使う』事は出来ても操る事は出来ない。

 簡単に言えば、刀を武器だと認識していても、鞘から抜く事を知らなければ意味が無いのである。それを補う為に鍛錬があるのだが……。


「忙しいからって、サボったのがまずかったか……」


 サボっていた。いや、やりたいのは山々だったんだが、ホントに時間が無かったんだ。でも、今考えればその鍛錬だって、スイにでも空間を切り離してその中の時間を遅らせてやればいいわけで、結局はサボった事になるのだろう。

 強いて言えば、そのツケが今回って来たという事だ。


「とにかく、起きない様に……尚且つバレずに急ぐ!」


 俺は心の中でガッツポーズをして、揺らしたり周りを壊さない程度に全力で走りだした。


暑い。


今年中には終わらせたい。

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