第五幕 脇役と道化師
「さて……、どうしようか」
仕事を探すために、街に出て来たのはいいが、俺はまだバイトすらやったことが無く何にも分からない。
「どうしたんだい、ぼーっとして歩いて」
話しかけてきたのは、昨日も俺に声を掛けて来た露店のおばちゃんだった。
「いやー、昨日のあの娘を連れて帰ったんだけどね、家計が厳しくなったから働きたいんだけど…。いかんせん、何にも分からなくてね」
俺がそう言うと、おばちゃんは少し考え込んでいたが、何かを閃いたように表情を明るくして言った。
「兄ちゃん腕っ節には、自信あるだろ」
「まあ、そこそこには」
「だったら、ギルドで依頼でもしてくるといいよ」
おばちゃんは一人で、うんうん頷きながら言った。
「ギルド?」
「そう。最近、世界中で魔獣が活発になっててねぇ」
「うんうん」
「それをどうにかしようと、ギルドを創立したわけさね。あたしらでも倒せるような、雑魚を相手にしたり、護衛をしたりといろいろあるんだよ。
あたしは関係者じゃないから細かい話は分からないけど、そこは実際に行ってみるといいよ」
おばちゃんはとても親切に教えてくれた。いい人だ。
「ふーん、分かった。細かく教えてくれてありがとうね」
「気にしなくていいよ。報酬が出たら、あたしの店で買い物してくれればいいさ」
おばちゃんは、そう言ってニッコリと笑った。
「そうさせてもらうよ」
俺も、出来る限りの笑みを浮かべ手を振ってその場を後にした。
「おらぁ、道開けろや!」
「邪魔じゃいボケぇ」
……なんでこうなってるんだろ。うん、こういうときは回想だね。
―――――
俺は、おばちゃんから教えてもらったギルドを目指してそこら辺をうろうろしていたのだが…。
「いやー、迷った迷った」
「んじゃ、わりゃあ?! こっちの話も聞かんかい!!」
「ちったぁ、反応しろやぁ!!」
絡まれてます。
いや、どこの世界でも突っ掛かって来るやつっているんだな〜。
……昨日、盛大にぶっ飛ばしておいて、言う台詞でも無いけど。
「はいはい、お兄さん達落ち着いて〜。何を言ってるのか、さっぱり分からないから」
と、俺は親切に教えてあげたのだが……。
「てめぇ、俺達のこと馬鹿にしてんのかぁ!?」
「ふざけんのも大概にせぇや!!?」
うん、だって分からないんだからしょうがないでしょ。……なんて、口に出すほど馬鹿じゃないから抑えたけど、一体どうしようかな。
とりあえず、当たり障りの無いところから…。
「で、お兄さん達は俺に一体何の用なの?」
「てめぇがよぉ、アニキの肩にぶつかって肩の骨が粉々に砕けちまったんだよぉ。どうするつもりなんだよ、あぁ!!?」
……吹いていいですか。だって、いつの時代だよ? 今なら堕ちた奴でももうちょっと、マシな事言うよ。
と、考えてる内に相手はどんどんテンションが上がっているみたいだ。
「こりゃあ、もう使い物にならねぇよ。一体どう落とし前つけてくれんだよ!?」
「金寄越せよ。金」
やっと、本音が出たようで。それにしても、ホントに前時代だな……。
「いやー、俺今全然金持ってないんだ。所持金0なんだよね」
「んだとこらぁ!」
「ならしゃあない。俺達の気が済むまでサンドバックになりやがれ!!」
と、言い終わる直前にぶつかった方の男が殴り掛かってくる。
「使い物にならないんじゃなかったのっと」
俺はそのパンチを避けて足を引っ掛ける。すると、面白いように顔面から地面にダイブしていく。
「おごぉっ!」
「ぶっ」
面白くて吹いてしまった。いや、だってスライディング土下座みたいな体勢で地面に突っ込んでいく様を見たら……ねえ。
「てめぇ!」
「おっと」
もう一人の方も殴り掛かってくるが、たいしたスピードも無く鳩尾に軽く一発入れるだけで、相方が寝そべっている地面に突っ込んでいった。
「お兄さん達、ギルドの場所知らない? 道に迷っちゃったんだよ」
「う、うるせ……」
俺はいい加減めんどくさくなってきたので、相手の言葉を遮ってもう一度聞く。もちろん、満面の笑みをオプションで。
「ギルドの場所知らない?」
「あ、あっちだ…」
と、腕を伸ばして通りの曲がり角を指差すが……、イマイチ分からない。
「案内頼めるかな」
「あぁ!? なんでてめぇのために……」
「案内頼めるかな?」
「……分かったよ」
うんうん。やっぱり人間は素直じゃないとね。
―――――
「お兄さんたち、そんなことしなくていいから」
「でも……」
「いいから……ね」
「……分かりやした」
相変わらず古いなあ……。
「ここがギルドです」
案内された場所は酒場のような場所で、中では昼間にもかかわらず酒を飲んでいたり受付の緑の髪の毛の綺麗な女の人を口説こうとしているおっさんがいる。
「すみません、依頼を受けたいんですが」
俺は、その間に割って入って言った。横ではおっさんが、苦い顔をしてこっちを見ているが気にしない。いや、お姉さんが嫌そうな顔してたし、いいと思う。
「あ、はい。それでは、ランクと本人確認をさせて頂きます」
「……? すみません、初めてなもので何が何だかわからないんですが」
「あ、そうですか。では、初めに登録をさせていただきます」
「お願いします」
「ご登録人数は……3人でよろしいですか?」
3人というのはきっと、俺の後ろにいる2人を指しているんだろう。俺は2人の方を向き、聞いてみる。
「お兄さん達も登録する?」
「いえ、俺達は登録してあるので遠慮させていただきます」
意外と言ったら失礼だけど、とっても意外だった。一見、ただのゴロツキだからあんまりちゃんとした事はしてないのかと思ったけど……まあ、これを機会に考え方を改めたほうがいいかな。
「では、こちらにお名前を」
受付嬢が差し出したのは赤みがかった紙で、そのうちの一番上の空欄を指差しているんだが…。
「すみません、俺のいた所と文字が違うんですが…」
「構いませんよ」
俺はその空欄に自分の名前を書き、受付嬢に渡した。というか、なんで文字が違うのに会話が成立してるんだか……。あれか? 異世界補正か? 神様の不思議なパワーで会話が成立するようになってるのか?
「では、最後に名前の読み方と、血をいただきます」
「血?」
「はい。一滴でいいので」
よく分からないが、そういう物なんだろうと自分を納得させ、お兄さんにナイフを借り指をちょっと切り、紙に垂らす。指から滴る血が紙に染み込んでいく。
「はい。これで登録は完了です。
初めは、Gランクから始まり、依頼をこなすごとに順に上がっていき、行う事の出来る依頼も増えていきます」
「分かりました」
「あとは、仲介料として報酬金の内の一割をいただきます。
表記額は仲介料を引いた額となっておりますので、心配なさらず。それと、依頼を行う前に報酬金の一割をいただきます」
「分かりました」
俺は使ったナイフを拭いて返し、受付嬢がくれた切り傷に効果のある軟膏を塗りながら話を聞いていた。
「以上が、ギルドの大まかな説明となります。それでは、こちらをお持ちください」
そう言って、受付嬢は小さなメモ帳のような物を俺に渡した。
「これは……?」
「これは、身分証明書です。依頼を受ける時や、国と国を移動する際に使用できます」
中を見てみると俺の名前と、その上にこっちの世界の文字で何か書いてある。
「では、依頼を受けたいと言う事でしたね」
「はい」
俺が答えると、受付嬢は棚から書類を取り出した。
「この中からお選びください」
どうも、神薙です。
緋焔はまたもや絡まれてしまいましたね。
銀髪ならいやがおうでも、そうなると思いますが…。
さて、次回は初の戦闘シーンが入ります。
下手くそかも知れませんが頑張ります。
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