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別世界の道化師  作者: あかひな
四章
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第五十七話 道化師と門番

「大事なお兄ちゃんと、いなくなっちゃたお母さんたちを探す途中だったんです……。でも、悪い人たちに馬とか、とられちゃって、それで、お兄ちゃんたちが守ってくれて……」


 車を降り、街門の門番と相対するのは、えぐっという嗚咽を時折漏らしながら悲しみにくれる表情で話す白雪。それと同じように、ただただ黙って涙を流し続ける若葉。若葉をなだめるフィルマ。そして、唯一呆然とした表情でその全員を眺める俺。


「そうか……。随分と辛い目に遭ったんだな……」

「それで、お兄ちゃんが私たちに食べ物とかを分けてくれて……。食べられるものはなんでも食べたから、私たちだよって分かるものは、何も……」

「わかった! 分かったからもう言うな、な? そんな事情があるなら仕方がないんだ。あ、そうだ! 少ないが、これが持ち合わせの金だ。これでどこかの宿にでも止まるといい」


 どこから学んだのか、絶対に心とは真逆の表情をである苦悶の表情を浮かべる白雪に対し、同情の涙ぐんだ顔で懐から革の袋を取り出す門番。おい、お前騙されてるぞ。というか、こんなどこかに転がってそうな三文芝居に騙されて門番の仕事を忘れてもいいのだろうか。いや、絶対によくない。反語。

 でもまあ、フィルマと若葉がそんな事に加担しているとは思えないので、きっと若葉は白雪につられて泣いて、フィルマは本心からなだめているんだろう。証拠として、フィルマの額にはうっすらと汗がにじみ、チラチラと俺に助けを求める視線を送ってくる。だがしかし、白雪がここまでしている手前、無下に出来るわけでもないからなぁ……。


「さあ、相方が戻ってくる前にさっさと通るんだ。相方は厳しいから、そんな君達にもきつい言葉をかけるだろうが、俺にはそんな事耐えられないんだ!」


 超いい人だ……。白雪はどうか知らないが、俺の良心がズキズキと痛む。なんか、白雪が藍雛に毒されてるようにしか見えなくて、とても心配だ。しばらくは、藍雛から子供達を遠ざけたほうがいいんじゃないだろうか。いや、でも、よく考えればこの子達とあってからそんな事を教えるほどの時間があったとは思えないし。となると、白雪の自力という事か……。


「白雪……恐ろしい子っ」

「ご主人様、早く、行きましょう」


 おっと。またいつの間にか思考の深みにはまっていた。フィルマに言われて前を向くと、門番さんになだめられながら門を通る白雪と、人は違うが、同じくフィルマになだめられながら通る若葉の姿。フィルマはというと、なだめながら大変そうな表情で俺を呼ぶ。


「ああ、すまん……」

「ちょっと、君」

「は、はい?」


 済まなそうな顔を浮かべながら、フィルマについていこうとすると、門番さんに声をかけられる。不味い、バレたか? そう思ったが、門番さんは俺の方に優しく手を置いて、悲痛そうな表情で言う。


「辛い事もあるだろうが……絶対に、あの子達を幸せにしろよ。君ならきっと出来ると信じてるからな」

「あ、ありがとうございます……」


 ついつい、落ち込んだような表情を浮かべながらそう返事をしてしまい、しまったと思った時には門番さんは既に定位置と思われる場所でビシッと立っていた。俺は、その背中に言い知れぬ後悔と罪悪感を感じ、背を向ける門番さんに聞こえないであろうほどの小声で謝罪をして先を行くフィルマたちの元へ走る。

 だが、門番さん…………立ち寝をするのはいかがなものかと思うぞ。



−−−−−



「それにしてもちょろかったね。あの門番」


 大通りに面したその一角。高そうではなく、なおかつまずそうでも無い、いわゆる普通のレストランっぽい所を見つけ、とりあえず腹ごしらえ。時間の心配をしようにも太陽は真上で爛々と輝き、腹の虫も叫び声をあげている。

 そんな中で見付けたのがこのレストランで、今は適当にオーダーをして、料理を待っている所だ。

 話の話題に困ったのか、それとも本心からか。白雪の口から出たのは、そんな気になるような言葉であった。


「…………はぁ」


 対して、俺の口から漏れるのはため息。もうああいうのは止めて欲しいものだが……きっと、長く旅が続くのならそうも言っていられないだろう。


「ご主人様、大丈夫、です?」

「うん、大丈夫。少し疲れただけだ」


 ため息に反応して、俺の体調を気遣ってくれるフィルマが、今はマウくらいにありがたい。


「むー! スイだって心配してるよ!」

「スイも、ありがとうな」


 疲れているのであんまり遊んだりは出来ないが、代わりにいつもの様に優しく頭を撫でる。相変わらず、気持ち良さそうにしているが、それを反対側に座っているちびっ子コンビが羨ましそうに見ていることに気付いた。


「撫でて欲しい?」

「そ、そんなわけ――」

「うんっ!」


 俺が苦笑いをしながら一応そう言ってみると、白雪は顔を真っ赤にして机を叩いて反論しようと声荒げる。が、それよりも大きな声で、若葉が肯定の返事をしたのでその声はかき消されてしまう。その様子が少しだけおかしくて、くすりと笑いながら若葉の頭を撫でる。その間、白雪は不満そうな表情をしていたので、少しで交代する事を忘れない。


「多少甘えたって文句は言わないぞ。特に、俺と藍雛は出来ない事なんか少ないからな」

「……ふん」


 俺がそう言うと、白雪は息を荒くして顔を背けてしまう。だが、撫でられている頭から手をどけようともしないところを見ると、嫌というわけではないのだろう。

 うん。やっぱり子供は素直でなくちゃな。手遅れな気がしないでもないけど。


「……の街で……た?」

「間違……。町中の噂…………聖騎士……」


 俺がほんわかとした空気を感じながら久々に心からの癒しを感じていると、隣のテーブルから冒険者と思われる服と簡素なよろいを身にまとった、むさ苦しいおっさん二人組みがごつい声で話している。

 中々声が大きく、聞きたくないのにもかかわらず耳に入ってしまう。これでは、一種の拷問だ。俺の癒しを返して欲しい。もちろん、そんなことは思っているだけで口に出したりはしないが。


「やっぱり……原因……この前の敗戦…………」

「処刑……逃れる手は…………。他国の義勇軍……王宮に進攻……」


 何とか意識を逸らそうとするものの、中々簡単にはいかずに、むしろさっきよりもよく聞こえてしまうせいで話の内容までおぼろげながらに聞こえてしまう。だが、その中で俺の耳に残る、非常に気になる話があった。だが、まだ確証には至らない。そこで、藍雛に念話を繋ぎ気になった話を聞いてみる。


(藍雛、クロか白龍はそこにいるか?)

(あら緋焔。少し連絡が早すぎるのではない?)

(そんなことはいいから。で、どうなんだ?)

(つれないわねぇ……まあ、マウ達がいるからいいけれど。白龍はいないけれど、クロならいるわ)

(俺達が戦争で一軍をを潰した前後に、他の国に侵攻しようとして負けた国とかはあったか?)

(……どうしたのかしら? 急にそんなことを聞いて)

(いいから)


 苛立っているのだろうか? 自分でも気づかないようなわずかな心境の変化があるのかもしれない。だがしかし、そんなことを気にかけている暇は無い。


(……ちょっと待ちなさい。…………無かったそうよ)

(分かった、ありがとう)


 それを聞いた俺は予想が確証に変わり、もう念話を切ろうとした。だが、それを遮るように藍雛が念話を送ってくる。


(緋焔、何かあったのね)


 藍雛の質問の答えとして、俺が選んだのは無言。藍雛に余計な事を言って心配させたくなかったのと、また、藍雛に無理をさせてしまうのではないかという、俺自身の不安があったからだ。


(……無言、ね。いいわ。もう聞かないから)


 藍雛は呆れたような声を漏らすが、それに対しての答えもまた無言。見えない会話ではあるが、見えるものがいたのなら、これは藍雛の独り言にしか見えないだろう。ただ、相手が異常なほど真剣な眼差しをしておらず、二人の間に重苦しくも取れる不思議な雰囲気が流れているのを無視すれば、という前提の話だが。


(ただし、帰ってきた時に我達に心配をさせたらただじゃおかないから、そこを忘れないようにね)


 藍雛もあきらめたのか、さっさと念話を切ろうとするが、最後に念を入れる事を忘れていない。


(善処する)

(頼りにならない返事ね。まあいいわ。信じてあげるとしましょう)


 藍雛はそう言うと念話を切り、俺の耳に周囲の喧騒が戻る。

 俺が意識を元に向けると、そこには俺の顔を心配そうに覗き込むスイとフィルマが目に入った。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「具合、悪い……ですか?」


 俺は心配そうな顔のその二人に真剣な眼差しを返し、口を開く。


「大丈夫だ。フィルマ、スイ」


 二人の名を呼ぶと、今度は不思議そうな顔で俺の顔を見る。よく表情が変わるなぁ……。


「今から適当な場所で宿を取るから、お前らはそこで今日は休んでろ。俺はちょっと出かける」

「出かけるって……お兄ちゃんお散歩でも行くの?」


 生後数週間らしい可愛らしい答えをしたスイが少しだけ面白くて、ついつい苦笑いがもれる。


「まあ、そんなところだ。じゃあ、待っててくれるな?」

「嫌!」

「やだ!」


 そう叫んだのはスイと若葉の二人組。スイに至っては子供のような満面の笑みを浮かべている。その可愛らしさと扱いの難しさに少し頭痛がするが、とにかく今はこの二人をどうにか説き伏せなきゃならん。そうじゃないと、あたふたと慌てているフィルマも可哀想だ。余計な心労が溜まってそうだな。


「スイと若葉は何で嫌なの?」

「お兄ちゃんがお散歩行くならスイも行く!」

「だって……」


 若葉はつぶやくようにそう言うと、もじもじとし始めてしまった。これじゃあ、説き伏せる以前の問題だ。

 どうしたものかと思っていると、困っている俺とフィルマを見かねた白雪が若葉に小声で話しかけている。それを聞いた若葉は、チラチラと俺のほうを見ながら顔を寄せて白雪に話しかける。生憎、体の制限(リミッター)をしかけている俺には聞こえないが。

 それを聞いた白雪は納得したように頷き、俺達のほうへ顔を向ける。


「若葉はひえんと遊んで欲しいんだって」

「ゆ、雪ちゃん! いま、いわないっていったばっかりなのに!」


 小さい子がいたずらを友達にばらされた様に、いや、限りなくそれに近いんだろうけど、若葉はそんな様子で白雪の事を両手でぽかぽかと叩いている。もっとも、白雪はそんなことを一切気にしていない。それどころか、楽しんでいるようにも見える。


「分かったよ。帰ってきたら遊ぶ。スイも、その時に一緒に遊ぶ。だから、ちゃんと待ってな」

「うん!」

「むぅー……分かったー……」


 若葉はうれしそうに、それに対してスイは若干どころか大分不満そうに肯定の返事を返す。不満そうな表情も、それはそれで可愛かったが、やっぱり笑っている方が可愛いので頭を撫でる。すると、予想通り不満そうな表情は消えて、嬉しそうに笑ってくれる。


「よし、それじゃあ、ご飯を食べたら宿探しだな」





 題名とは裏腹に、門番さんは早々と退場です。名前も無いモブキャラでもちろん今後も登場する予定はありません。ちなみに、寝てしまう門番の元ネタはあります。そして、作者の完全な趣味です。


 さて、シリアスパートです。ここまで読んでいただけた方ならわかると思いますが、シリアスです。シリアス(笑)とか、シリアスじゃなくてシリアルとか言われないように頑張って生きたいと思います。

 次回はまだ書けていません。ええ、もう笑えるほどに真っ白です。プロじゃないのに長々とあとがき書いてんじゃねぇよゴルァとか、思う人がいるかもしれませんが、いいじゃないですか。お願いですから息抜きをください。


 でもまあ、読んでくれている人もいるようですし、出来るだけ早く仕上げたいと思います。

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