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別世界の道化師  作者: あかひな
四章
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第五十三幕 道化師と持ち家騒動

「……それで、他に行く先が無いから妾達の国の土地を売ってほしいと?」


 現在、俺はネイトにある城の一室であるカトレアの私室で、ベットに腰掛けるカトレアの方を向いている。

 理由は言わずともかな。マウの意見で出た館を建てるための土地を買うための交渉に来ているからである。最初は謁見の形式をとった方がいいかと思ったが、この前に俺がやらかした事を考えるとまともに謁見する気になれなかった。

 それにしても、仮にも一国の姫様がベットに腰掛けながら、けだるそうに人の話を聞くと言うのはどうなんだろうか? 相手が俺だからという事もあるのかも知れないが、それでもいつ見られてもいいような状態を整えているというイメージのある俺からすれば、割と大きな衝撃だ。


「刺のある言い方だけど、そうなるな」

「……自分が先の戦争で何をしたのか分かっておるのか?」

「さて、何の事だろうな?」

「とぼけても無駄じゃ。こちらの軍の被害は皆無。にも関わらず相手の軍を壊滅させるなど、お主か藍雛くらいにしかできぬじゃろうに」


 まあ、それはそうだろうけどさ……。


「龍がやったって可能性だってあるだろ」

「今、龍達を統べているのはお主じゃろう」


 ……そうでした。いや、統べていると言ったら正確ではないが、ある程度支配している事は確かだろう。それすら忘れていた。やっぱり、ほどほどに頭を使わなきゃいけないな。


「あー……。そうだな。それに関しては反省してるよ」

「全く、それのどこに反省の態度を見いだせと言うのじゃ……」


 俺の言葉を聞いたカトレアが深くため息を吐く。俺だってため息でもなんでも吐きたいって……。


「まあ、とりあえずそういう事なんだ。領地を寄越せとかそういうのじゃあなくて、交渉だから相場分の金額は出す」

「とは言ってものう……。妾とて、自由に出来る事はあまり多く無いのじゃ。ギルドの件でも大きな動きを見せてしまったし、父上ならまだしも妾にはどうにもならん」

「そうかー……」


 んんー……。どうするべきかな。カトレアに断られたし、やっぱり自力で捜すしかないか。


「カトレア、この世界じゃあ家とか館ってどうやって買うんだ?」

「む? 一般的には国で管理している土地を使用目的を明確にして買い、目的に準じたものを建てると言った感じじゃな。それと、間に国に土地と建築物の購入許可をとる事が必須となるはずじゃ。国で管理と言っても、村や街毎にいる管理の者に申請をすればいいのじゃがな」


 ふむふむ。となると、とりあえず国中を見て回って気に入ったところに住めば言いわけだ。思ったよりも簡単で助かる。


「了解。それじゃあ、ちょっと国のなか見てくる」

「国をなど……いや、緋焔じゃしの。もはや口に出すのが間違いじゃな」

「ひでぇ」


 俺はそう言いながら靴の爪先で床を叩いて転移用の魔法陣を展開。それと同時に光が俺を飲み込み、天龍の巣に転移する。転移にはもうなれたもので、随分と早く魔方陣を展開できるようになったな。まあ、元々遅くも無かったが。



−−−−−



「とまあ、そう言うことになったわけだ」


 天竜の巣に帰ってきた俺は、みんなが集まっていた食堂に行き、さっきのカトレアとのやり取りを要点だけかいつまんで説明する。


「そう……。この世界に来ていやにすんなり言っていたから、いつかはつまづくだろうとは思っていたけれど」

「でも、その間どうするの?」


 お菓子を作っていたらしいマウが、大き目のパーティー皿のような物にカップケーキを入れて俺の後ろから現れる。


「あ、美味しそうだな」

「そうかなー。あ、ヒエンもひとつどうぞ!」

「ありがとうな」


 美味しそうなカップケーキの匂いにつられてそれをひとつ手に取ると、空いているもう片手でマウの頭を優しく撫でる。……そういえば、こうやってのんびりとした雰囲気でマウの頭を撫でたのは久しぶりだな。


「我ももらって良いかしら?」

「うん。あ、ちゃんと全員分あるから大丈夫だよ。あとで飲み物も持ってくるね」


 ちなみに、マウの言う全員分とは俺達いつものメンバーと、館組の数人のことだ。マウは人数分といっているが、お皿に載っているカップケーキの数は明らかに人数分のそれよりも多い。きっと、何人かが複数個食べる事を想定しての事だと思うが、ずいぶんと計算してるな。気が利いているとも言うが。


「ああ、それなら我が用意するから、マウも座って一緒に食べましょう」

「いいの? ありがと」


 藍雛はそういいながら片手を空間に突っ込んでティーポットと人数分のカップを載せたお盆を取り出す。中ではすでに紅茶が出来上がっているようであり、紅茶のいい香りが漂う。


「お姉ちゃん、紅茶にするの?」

「そうよ、スイ。スイは紅茶好きかしら?」

「うーん……。お姉ちゃんとお兄ちゃんが好きなら好き!」

「うれしい事言うわねー」


 藍雛はそう言ってスイに抱きつきながらも、片手で魔法を使って紅茶を淹れている。……抜け目無いな。


「で、だ。俺は館探しもかねてこの国を回ろうと思うんだが、来る人はいるか?」

「我も行きた――」

「藍雛はここで留守番な。ここの人たちの身の安全もある」

「……仕方がないわね。行きたかったけれど、ほんっとうに行きたかったけれど」


 藍雛は本当に行きたそうに俺の方に期待をこめた目線を送っているが、もちろん承諾はしない。いや、ホントに安全面が心配だからな。それに、俺と藍雛が一緒にいたとしても二人必要になる事なんて早々無いだろう。……この世界で何回か死に掛けた気がするけど、もう無いと信じる。


「それじゃあ、スイかマウが残って欲しいわ。癒してくれる人が欲しいもの」

「分かった。だけど、元奴隷の人たちは何人か来て欲しい。館のお手伝いさんになるんなら内装を見て決めなきゃならない事もあるだろうからな」

「そうだね。俺達にもかかわる事だし……」


 俺が獣人の男性の方を向いてそう言うと、尻尾をゆらゆらと動かしながら腕を組んで唸っている。

 ……そういえば、獣人の男性を含む元奴隷の人たちの識字率はどうなっているんだろう? 少なくともこれからお手伝いさんとなって色々やってもらう以上、覚えきれない事とか出てくるだろうし、そうなるとどこかにメモをする必要がある。それと、お使いに行ったときにお釣りを誤魔化されないようにするためにも計算も多少は教えておく必要があるな。まあ、旅の途中で教えていけばいいか。


「よし、俺と最年少は残るよ。俺は文字も計算も出来るからその子に教えよう。他の子はそっちに任せても大丈夫かな?」

「まあ、何とかなるだろう」


 獣人の男性と話の折り合いがついたところで、行くメンバーを再確認。俺、マウかスイのどちらか、獣人の男性と最年少の子を除く元奴隷組が、俺と国周りの仲間になるわけか。


「そういえば、スイとマウはどっちが俺と行くんだ? 早めに決めないと支度もろくに出来ないんだが」

「うーん……わたしも行きたいけど、今回は遠慮するよ。つれてきた以上、わたしが小さい子の面倒を見てあげなきゃ!」


 マウは意気揚々とこぶしを握り、胸元でガッツポーズをする。と、言う事は……。


「スイ、一緒に来るか?」

「うん! お兄ちゃんと一緒に行く!」


 スイも俺と一緒に旅が出来るという事でノリノリの様で、藍雛の横にいたのに翼だけを出して文字通り飛び上がって俺に突っ込んでくる。が、正直勢いは洒落にならないほどついているので……。


「ぐっふぉ!」


 ……と、せっかく展開した四重の結界すらもあえなくぶち抜かれて俺は背中から地面にのめり込む。こら、藍雛もざまあみろという表情をするんじゃない。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 正直、あばら骨の何本か逝ったんじゃないかと思うのだが、すでに回復しているのかそれを確認する手段は無い。俺としてはちょっと厚めの結界を四枚もぶち抜いたスイの頭の方が心配なのだが、見た限りそんな様子全くといって良いほど見受けられないので、スイを安心させるために出来る限りの笑みを浮かべる。


「す、スイ。大丈夫だからちょっと離れてくれるかな? 起き上がれない」

「あ、ごめんなさい……」


 俺の体からゆるゆると離れていくスイの表情があまりにも悲しそうだったので、慰めるために頭を撫でて立ち上がる。


「さて、と。それじゃあ俺は荷物の準備にかかるか。えぇっと……」


 準備を手伝ってもらうために元奴隷の俺と同じくらいの男を呼ぼうとするが、ここではたと名前が無い事に気がつく。


「その前に、全員の名前を教えてもらえるかな?」


 大事な事なのにすっかりと忘れていた。帰ってきてからも忙しかったし、仕方ないといえば仕方ないんだけど。

 俺がそう言うと、獣人の男性が思い出したように手を叩く。……この人も忘れてたのか。


「そうだったね。俺の名前はライカ」


 獣人の男性は改めてよろしくと付け加えて、握った俺の手をぶんぶんと縦に振る。

 その元気っぷりに若干引きながらも、それを表情には表さないようにして、次へと促す。


「次は赤髪の君ね」


 俺達と同じくらいの男に俺の代わりに藍雛が自己紹介をするように言うと、若干顔を赤らめて話し始める。が、顔は赤らめてはいるものの表情はそんなに変わりは無い。というか、無表情で顔を赤らめるってむしろ難しい気がするんだがな……。


「私、名前無い。生まれた時、奴隷」


 そう言う男の言葉は文というよりも単語をたどたどしく繋ぎ合わせただけのもので、今までの奴隷の人達の様子からは掛け離れていた。それと共に、自分の中の奴隷というものの認識が甘かったと考え直す。これよりもまだまだ酷い状況に置かれている人もいるかも知れないが、少なくとも奴隷という扱いの現状認識を改めなきゃならない。


「そうか……。じゃあ、名前がいるよな」

「そうね。ライカ、この世界ではどんな名付け方をするの?」


 内心、今更な質問だとは思うが、やはりこの世界で生まれてこの世界で生きていく人なんだし、そこにあった名前にしないと後々面倒になる事もあるだろう。


「基本的には特にどうこうするという事も無いよ。親によっては自分の名前の一部を付けたり、過去の英雄なんかの名前にちなむ人もいるみたいだけどね」


 ふむふむ。という事は名前の付け方は元の世界とそう変わらないな。それなら、ためらい無く名づける事ができる。


「そうかぁ……」


 とは言ったものの、俺には名付けのセンスというものが無い。スイの名前をつけるときもそうだったが、あの時も俺と藍雛は共に褒められるようなネーミングセンスを持ち合わせていなかったせいで、低レベルな命名合戦が行われていた。


「緋焔、なにかいい名前は無いかしらね?」

「よりによって俺に聞くか?」

「よねぇ……」


 まさかの難題。しかも、いざ支度をしようという時に、下手をすれば何時間もかかるかもしれない問題が出て来るなど、露ほども思わなかった。


「ライカも考えてくれよ……」

「いやー。俺にはそんな感性は無いからね」


 俺もだよ。と、言いたいのを飲み込んで、もう一人の頼みの綱であるマウの方にもアイコンタクトを送る。笑顔で首を傾げられた。何あれ超かわいい。って、そうじゃない。


「マウは何か無い?」

「うーん……。いきなりそんな事を聞かれてもわたしには……あ」


 始めは渋っていたマウだが、何か思い付いたのか耳がピンと立つ。


「フィルマっていうのはどう? 夕焼けって意味があるんだけど、髪の色も赤いし、ちょうどいいんじゃないかな?」

「あら、いいわね」

「私、気に入った」

「それじゃあ、本人も気に入ったみたいだし、それでいいか」


 当の本人も気に入ったようでそう言うが、いかんせん無表情でいまいち感情の機微が読み取れない。そのあたりも、こちらが見て分かるようになれば良いだろう。幸いというか、これから言葉も教えていくし、いざとなれば藍雛に頼んで表面的な考えだけを読んでもらえば良いだろう。安易な考えではあるが、いけるだろう。と、ここまで考えたところではたと気がつく。


「……俺、荷造りしなきゃじゃないか」

「ああ、そうだったわね。それじゃあフィルマ、手伝ってあげて頂戴」

「分かった」

「じゃあ、あとの二人の名前をつけるのを頼むよ。それじゃあフィルマ、行こうか」

「分かった」


 俺とフィルマは支度の為に部屋に向かって歩き出し、俺はそれと平行して頭の中で何が必要なのかを考える。


「それにしても、この子達可愛いわね。女の子みたいね」

「ホントだねー。女の子と服着せても似合いそう!」

「あら、いいわね。……クリンの為に作った服があったわね」

「確かにあるけど……」

「丈合わせなら任せなさい。一瞬で終わらせるわ」

「なら、私が寝室から持ってくる」

「じゃあ、頼むわね。クリン」

「わ、分かった!」


 ……若干後ろ髪引かれる思いではあるが、俺に出来る事は出来るだけ早く支度をして、あの子達を助ける事だろう。


「フィルマ、急ごう」

「……分かった」




 どうも皆おはようございますこんにちはこんばんは。神薙でございます。


 最近学校が始まりまして、またも少しずつ更新速度が遅くなってきてしまっている様子。気を付けていきたいと思います。


 さてさて、物語のほうも少しずつ、亀とウサギの亀のように少しずつ進行しております。そのため、訳の分からない台詞や「あれ? 文章これでいいの?」と思うような感じの微妙な言い回しが増えてくると思いますが、そこは伏線だと思ってお見逃しください。でも、明らかな文章の間違いや、誤字誤用はきっと私の間違いです。気をつけているつもりですが、私自身物探しが苦手なのと読み方がストーリー重視の流し読みがメインなので、そこはご指摘いただけると大変ありがたいです。大変ありがたいです。大事な事なので(ry


それでは、感想とか感想とか批評とか評価とか感想とか気楽にしてくれるとありがたいです。


フランかわいいよフラン。

……以上です。

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