第四十六幕 道化師と蹂躙
なんやかんやで、一周年です。
今思えば、最初は自己満足の為に投稿した小説です。一人でもいいから見てもらい、辛口でもいいから評価していただきたいと。……まあ、好評価に越したことはありませんが。
とにかく、一周年です。おめでたいです。それでは、長い前書きはこれまでにして、本編にいきたいと思います。
皆さん、これからもよろしくお願いします。
俺と藍雛が空中に浮かんでいるその真下。俺達が初めてこの世界に着いたときにいた国、アーデイベルグが纏う真紅の鎧と、宣戦布告をしてきた隣国、アイガス国が纏う、目に痛い黄緑の鎧の軍がぶつかり合っている。剣で切り合い、魔法をぶつけ合っているのが上空からでも視認できる。
「……派手にやってるなぁ」
「……………そうね」
「心配か?」
「そんな訳無いじゃない。そう言う緋焔こそ、ずっとそわそわしっぱなしじゃない」
「藍雛だって、さっきから翼の動き方がおかしいぞ」
そう言って、俺達はしばらく顔を見合わせて睨み合っていたが、突然下から轟音が聞こえ、二人揃って真下を向く。すると、今までは両軍がぶつかり合っていたはずの所には、小さなクレーターの様なものが出来ていた。
「フィア達の方の新兵器……じゃないな」
今回の戦争の前には城の中の出入りが自由になっていたため、誰にもばれないように国家機密レベルの情報を見て来た。だが、その中にはこれだけのクレーターを作るような武器も、魔法も存在していなかった。
「となると……向こうが先遣を切り捨てて砲撃したのかしらね?」
「……いや、違う」
俺は出来るだけ高く飛び上がり、戦場を一望し確信する。
「あれが射程距離の限界だ」
クレーターのある場所は10分前までアーデイベルグの軍のど真ん中だった。今こそ巻き返されてしまっているが、さっきまではそうでは無かった。そして、この時勢に情報を得るとなれば、戦場においては戦況報告しかない。風の魔法は、使っても人が動き回っているから、遮られてしまうからな。
「そうなると、あれを使った目的は……士気の低下を狙ったのかしらね?」
「多分な」
こちらには無く、そしてあの高威力な兵器の存在があるのを知らせて、士気の低下を狙っているのが一つ。もう一つは遠距離に共通する、射程距離という弱点がばれないように敵軍のど真ん中にぶち込むのが一つ。こちらは失敗しているが、勘の鋭い人しか気付かないだろう。
適当に見える戦い方でも、一歩下がって冷静に眺めてみれば、中には多数の綿密な作戦が見え隠れしている。誰だかは知らないが、向こうの国の軍師には素直に称賛をしたくなる。ただ、一つだけ問題があったとすれば――
「それでは、中枢を麻痺させてくるわね」
――俺達が敵として参戦していた事だろう。
−−−−−
「……そんな条件飲めないわよ」
俺から条件を聞いて数秒ほどはぼんやりとしていたが、理解したのかハッとした表情で重々しく答える。
「なんでだ? こんな好条件、普通ならありえないぞ?」
「分かってる。そんな事分かってるけど……」
フィアは何かを言おうとしては口ごもり、また言葉を選ぶように考えながらぽつりぽつりと話す。……一切関係ないが、藍雛がフィアのベッドに寝転んで本を読み始めたんだが、どうすればいい?
……よし、無視しよう。
「狡い……じゃない。相手だって、命をかけて私達と戦うつもりなのに、私達だけが緋焔達に頼るなんて」
……狡い、か。
フィアにはフィアのポリシーがあるんだろう。例え、それが間違っていても、俺達には口を出す権利は無い。だから、俺は黙るしかなかった。
「で、どうするの?」
藍雛はぶらぶらと脚を揺らしてつまらなそうにマンガを読みながら、フィアに問い掛ける。
「確かに、我もあんな言い方をしたのは悪かったわ。けれど、実際負け戦よ。
我達程でなくても、何かしらの手を打たなければここは向こうの国の領地になるわ」
藍雛は言い終わると同時にマンガを閉じ、真剣な眼差しでフィアを見つめる。
「……分からない。けど、これは私達の国の問題だから、私達が何とかしないといけないと思う」
「そう」
藍雛は短く了承の旨を伝えて、またマンガを読み始める。
「……フィアは後悔しないんだな?」
「……うん」
俺が聞いたとき、フィアの目は今までのような不安げな目ではなく、確かな決意の炎が灯っていた。
……もう、折れることは無いな。俺はそれを確認して、転移用の魔法陣を展開する。
「藍雛、俺はカトレアに協力しない事を伝えてくる」
「分かったわ。適当に帰るから、好きにしていてちょうだい」
俺は藍雛に了解の旨を伝え、フィアに向き直る。
「フィア。お前の決意、しかと受け取った」
そして、俺はフィアの前から消えた。
−−−−−
「……だからって、大事な家族が殺されるかもしれないって状況で指をくわえて見てる訳無いだろ」
俺はこうなった経緯を思い出しながら、誰に伝えるわけでもなく一人呟く。
「あら、緋焔。最近独り言が増えているのではない?」
何時の間にか、さっきまでの様に音もなく俺の横に藍雛が並んでいた。
「ずいぶんと早いお帰りで。終わったのか?」
「ええ、仕事はしっかりと終わらせてきたわ。吐きそうだけれど」
そういう藍雛の顔はいつもよりも少々赤みは増しているが、傍目には十分健康そうに見える。……が、忘れてはいけないのは、藍雛は《破壊》の魔法を使えるということ。大方、《破壊》で顔色は変えてあるんだろう。
「大丈夫……じゃないな。無理はしないでゆっくり休め」
「……そうさせてもらうわ。緋焔も、無理はダメよ」
そういうと藍雛はガラスを割るような音と共に空間を開き、中に入っていく。……何だあれ? どうやってるんだ?
「……まあいいか。俺も、やることを終わらせてさっさと次の仕事に移らなきゃならないしな」
これからやろうとしていることを、仕事と言えてしまう自分に嫌気と吐き気を覚える。が、そんなことを言っていられないし、言いたくもない。
抑えていた魔力を5割まで開放する。同時に、1対しかなかった純白の悪魔の羽が2対になる。
「悪気はない。悪意も、恨みもないが……次の生は幸せに生きてくれ」
俺は羽を羽ばたかせ、隕石のように地面に突っ込んでいく。
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「まだだぁぁぁあああ!」
一人、また一人と、わが軍の兵士たちが倒れていく。にも関わらず、アーデイベルグの兵士は一人も倒れず、それどころか士気を回復させているようにも見える。
それもこれも、全ては天災のせいだ。
突然、真っ白な隕石が我が軍の真ん中に落ち、周りの兵を吹き飛ばした。何があったのかと驚愕しようと思ったが、それをする暇も無く、兵士達が木の葉の様に吹き飛ばされていった。
それは、あたかも意思を持っているかのように、我が軍だけを蹂躙し尽くしていった。一人、という単位ではなく、秒を数える間に百、もしくは千近い数の兵が吹き飛ばされ、地にたたき付けられていく様は、もはや天災と言うしかない。
仮に、これが何物かによる行いだというのなら、それはもはや化け物だ。この世の生物であることを疑う程の。
何分、いや秒なのかもしれない。だが、そんな事は関係ない。俺が明確かつ冷静に意識を保てるようになった時には、周囲は地獄だった。
いないのだ。視界に入る範囲に誰ひとりとして、立っていられる者が。
「嘘……だ……」
口から弱々しく漏れる否定の言葉。だが、それすらも溶けて消える。
近くにいた兵士の口元に手を当て、息を確認したところ、どうやら気絶しているだけの様だった。
「何故、どうしてこんな……」
出陣の際に、これは聖戦であると教えられた。
国教の頂点の教皇が王と共に出陣直前に、我等の前に現れ、この戦は神のお告げの元に行われる聖戦だと。確かにそうおっしゃった。
「だというのに、この惨状は……」
口からはかすれた言葉が漏れ、冷静だった頭の中では、何故という疑問だけが渦を巻き、溢れた。そして、次に口に出た言葉は――
「神は、我等を見捨てたのか……」
「そうなのかも知れないな」
後ろから、翼がはためく音と共に返答の声が返る。そして、振り返った先には純白の悪魔の羽をはためかせる、無表情な青年がいた。
「……俺は、その質問に対する正しい答えを持ち合わせてない。だが――」
「……ぁ」
俺はまるで抜け落ちた鳥の羽の様に、空を舞い、そして――
「――信じるんなら、とことん信じきれ。じゃないと、心を保つなんて出来ない」
――眠るように、静かにまぶたを閉じた。
−−−−−
前書きであれだけぺらぺら喋りましたが、言葉に出来ないぐらい嬉しいです。
口下手なので、上手く言葉に出来ませんが、ここまでやってこれたのも、皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。
あ、この小説、シリーズ物にする事を決めました。