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別世界の道化師  作者: あかひな
四章
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第四十四幕 道化師と告発と覚悟


「それは、奴隷になってる人達を開放したいって事でいいのかな?」

「……うん」


 俺は、マウの言っている事の要点を聞き直し、確認を得た所で自分の席に戻って、深く座る。


「はぁ……」

「……ヒエン! やっぱりこんな事――」


 マウは、俺が深いため息をついたのを聞き、身を乗り出して撤回しようと声を荒げる。

 俺はそんなマウの目を見、わざと遮るように口を開く。


「なんでそんなに大事な事を言わなかったんだ?」

「――っ! ……だ、だってヒエン達に迷惑が「嘘ね」


 藍雛が、マウが言おうとした言い訳(・・・)を遮る。


「もちろん、そういう理由もあったでしょうね。心優しいマウだもの。けれど、迷惑をかけたくないと思うくらい一緒にいたのと同じくらい、我達が異常に強いと分かる期間はいたのだもの。まあ、本当に分かっていなかったのだとしたら、少し悲しいわね」


 藍雛はマウに二の句を継がせない様に、素早く言い切る。


「――違うっ!」

「ほら、違うんじゃない」


 マウの、ほとんど叫びの返答を聞いた藍雛はとても楽しそうにニコニコと笑う。しかし、それとは対称にマウの表情は苦い。まあ、上手く乗せられたんだから当たり前だろうけど。


「…………」


 マウはその表情のまま、また俯き黙り込む。藍雛は藍雛で、依然ニコニコとしたままマウを見つめている。

 空気は俺達の周りだけ緊迫していて、少し離れた位置では、白龍とスイがこちらには気にも留めず食事を続けている。


「ただいま。いきなりだけど話が――……って、何やってるの?」


 そろそろ思考を読まないで話を続けるのも厳しいかなと、そう思い始めた所に若干焦り気味のコクが入ってくる。


「いや、ちょっと話をしてただけだ」

「何かあったのね?」


 俺がコクの質問に答えると、それに続くように藍雛が質問をする。……なんかすごく嫌な予感がするな。これは――


「……隣国が宣戦布告をしたらしい」


――フラグだ。




−−−−−




 俺と藍雛は、王城の中を、メイド長を名乗る恰幅のいいおばさんに先導してもらい、とある一室にたどり着く。焦りのためかノックをする事すら忘れ、扉を開ける。


「失礼します」

「失礼するわ」


 室内は、糸の中の繊維を張ったのではないかと思うほどの緊張感に包まれている。

 そんな中、カトレアとフィア、ファンネルやリックといった王都騎士団のメンバーと……。後はごてごての服を着た知らない太ったおっさん達が椅子に座ってこちらを睨んでいた。まあ、睨んでるのはおっさん達だけでフィア達は待っていたという感じだが。


「久しぶりじゃの。二人をここへ」


 カトレアは手早く挨拶を済ませ、メイド長にカトレアのすぐ近くの椅子に俺達を座らせるように指示する。


「カトレア様、その様な身なりをした者達を傍に置くというのは少々奇行が過ぎるのでは無いでしょうか」


 失礼な。と、一瞬は思ったが、藍雛は黒を基調としたゴスロリだ。白い髪が際立ち、とても綺麗に見える。ついでに俺も上下共に真っ黒の服だ。ちなみに、元の世界の時から変わっていないので、変な服と言われたら反論しがたい。それに、怒るほどの事でもないしな。

 カトレアの指示でフィアを挟んでカトレアの横の方に座った俺達を見て、対面に座っている頭が禿げで、指には見たことも無いような大きな宝石を付けた指輪を着けた太ったおっさんが声を上げる。それを聞いて何人かのおっさんは笑っているが、カトレアはというと、そのおっさんを睨みつけている。


「今は内輪揉めをしている場合では無かろう。口を慎め」


 俺と藍雛が珍しいカトレアの気迫に感心する一方で、言われたおっさんはたじろぎ、黙り込む。それに伴い、さっきまで笑っていた他のおっさん達もいつの間にか黙り込む。

 全く……嫌になるな。

 俺はそう思いながらも、藍雛に念話を飛ばす。


(なあ、あいつら何を考えてるんだ?)

(わざわざ見なくても分かるでしょう)

(だよなぁ……。やっぱり、自分の利権か?)

(ええ、戦争を利用して今の王達を失脚させて、自分達はその後釜に就くつもりね。何人かは組んでいるみたいだし。ただ、計画はずさん過ぎて目も当てられないわね)

(そうか……。分かった)


 俺はそう言ってから念話を切り、始まってすらいない会議の内容を先行して考える。

 まずは、現在の状況。コクの言うことが正しければ、宣戦布告をしたのは向こう側。つまり、相手の準備は万全で、タイミングも誤ってはいないだろう。兵力差は分からないからとりあえず置いておくとして、そう考えるとこちらはかなり厳しい。この張り詰めた空気も加味すると、やはり厳しいんだろう。


「はぁ……」


 俺はあまりの状況に椅子に体重を預け、思考を中断する。あまりにもひど過ぎて、ため息しか出てこない。


「ふむ、それでは会議を始めるのじゃ。まずは現状報告を頼む」

「はっ!」


 カトレアの一言を皮切りに、会議が始まり、ファンネルが現状報告を開始する。

 淀みなく読み進められていく書類とは裏腹に、内容は厳しいものばかり。

 兵力差はこちらが約10万。向こうは約20万程。どう考えてもこちらが劣っている。しかし、それは総力戦の話で、向こうは実質的には15万程らしい。

 スパイである間諜からの報告では、僅かに兵の質では勝っているものの、人数差を覆せるかというと恐らく厳しいだろうという事。

 こちらは既に徴兵を始めているが、国王と王妃の考えから条件が比較的緩い。増えても数万程度だという。ただし、戦争にかかる費用に関しては心配は要らないらしい。なんでも財務大臣が優秀で国が金関係で傾く事は無いとか。一体どれだけあるんだよ……。


「報告は以上です」

「分かった。下がってよい」


 俺が軽く落ち込んでいる間に報告は終わる。何個か聞き逃してしまったものがあるが、俺達にとってはたいしたことじゃあないだろうからいいだろ。

 隣の藍雛が深いため息をつき、深く椅子に座り込む。そして、俺を除く全員を一瞥し、一言。


「負けたわね」


 深い沈黙が室内を包み込む中で、それを言った当の本人は、またもいつの間にか出したお気に入りのティーカップで紅茶を飲んでいる。

 それを見かねたファンネルが藍雛に近づき、あまり周りには聞こえないように声のトーンを落として話す。


「……藍雛。あまりそのような事は――」

「あら? 事実を言ったまでじゃない。戦力差は明らか。財源はあるといっても無限では無いわ。

 持久戦に持ち込むとしても、国民からの、それも今のままの徴兵制度では、こちらがじり貧になるのは火を見るより明らかよ。

 それに、財源にしても、徴兵にしても、使えば消費するのよ? 今の生活に慣れ切った国民に不満が溜まらないとでも? そう考えているなら、随分と汚い花が咲いたお花畑をした頭ね」

「藍雛、一言余分だ」


 あまりにも白熱し過ぎた藍雛を俺が制すと、事実だものと一言言って黙る。すると、対面に座っているごてごてのおっさんが、顔を真っ赤にして唾を撒き散らしながらなにやら喚き始める。


「貴様ぁぁぁ! 私の国に何と言う侮辱だ! 今すぐつまみ出せぇぇぇ!」


 いきなり叫ばれた当の本人はというと、退屈そうにあくびを噛み殺しながら切り返す。


「あら? 私の国とは随分気が早いわね。クーデターでも起こすのかしらね? それと、唾が汚いわ」

「ふ、ふざけるな! クーデターなど起こすわけ無いだろう!」

「そうよね。あなたの計画は、敵の間諜に見せ掛けた暗殺者に王と王妃を暗殺させる事だものね」


 藍雛がそう言うと、おっさんの顔はみるみる青ざめていき、今までの勢いも一気に落ち込んでいく。


「そ、そんな、そんな訳ないだろう。私の唯一の主君はこの国の王――」

「我はそんな事を聞いているのでは無いのよ。《言葉の重み(ミエザルボウリョク)》。《真実を語りなさい》」


 藍雛がそう言うと、おっさんは咄嗟に口を塞ごうとするが、もう遅い。というか、それは自白してるようなものだろ。

 魔法をかけた藍雛はというと、何か質問をするように、カトレアに目を向ける。


「……何故じゃ。何故お前程優秀な者が……」

「仕事をしたのは私ではない。私の従順な部下が、確実な仕事をしていてくれたのでな。もっとも、手柄は全て私にまわっているがな」


 口に手を当てているせいで、声は大分篭って聞こえづらいが、その程度だ。それを言っている財務大臣は顔を真っ青にし、首を振っている。だが、その行為は嘘臭く、そして、俺達には通用しない。


「……この者を牢へ」

「……はっ」


 カトレアは悲痛な面持ちのまま、一言だけそう言った。それを聞いたファンネルが何人かの兵を呼び、青い顔で脱力したおっさんを連れ出す。

 藍雛はその光景を退屈そうに眺めてから、死んだ様な空気の中で仕切るように声を出す。


「さて……、とりあえず今除かなくてはならない人物はもういないわね。それでは、続きを始めましょうか?」


 死んだ空気の中、藍雛の綺麗な声はよく通り、とても無常に部屋に響く。その声以外の音は発せられず、沈黙が流れる。


「……会議はこれで終わりなのかしら? もしそうなら、我は帰るけれど」

「済まぬ、いろいろありすぎて混乱しているのじゃ。……一時休憩を挟んだ後、再開ではダメかの?」

「構わないわよ。緋焔もそれでいいわよね」

「あ、ああ。それでいい」

「では、各々休憩をしてくれ。1時間程経過した後、再開とする」


 カトレアがそう言った直後、今までずっと黙り込んで静かに会議を聞いていたフィアが、藍雛に歩み寄る。


「……藍雛ちょっと私の部屋に来て」

「構わないわよ」


 藍雛は質問に答えた後、席を立ち、思い出したように俺の肩を叩いた。


「緋焔も来てちょうだい。フィアも、いいかしら?」

「……勝手にすれば」

「分かった」


 俺はそう答えて、藍雛と共に席を立ち、フィアに着いていく。




−−−−−




「適当に座って」

「分かったわ」


 俺達はフィアに先導され、部屋に案内されて中に入った。中は結構スッキリとしていて、ごく僅かなアンティーク系の小物が置いてある程度だ。ハッキリ言うと、年若い女の子の部屋とは思えない。


「何か言った?」

「いや、何も」


 ……次からは気をつけよう。


「で、話は何かしら?」


 俺がしげしげと部屋を眺めている間に、仲のいい友達の家に上がったかのようにベッドでくつろいでいる藍雛が、暇そうながらもそれなりに真剣な表情をしてフィアに話を促す。

 フィアはそれを見て若干嘆息したが、余程大事な件だったのか、すぐに真剣な表情になる。


「なんで、あんな事を言ったの?」

「あんな事とはどの事かしらね」


 藍雛がニコニコと、まるで楽しい遊びの最中の様に笑いながら答えると、フィアの表情は一層険しくなる。


「『負けたわね』と、言ったじゃない!? なんでそんなに簡単に言ったのよ?! みんな、その事は分かってるのに、自分達の国を護るために頑張ってるのよ! それを簡単に無駄の様に扱われて! みんながどんな気持ちだったか、分からない訳じゃ無いでしょう!」


 怒鳴り付ける様に、心の底からの言葉を藍雛に叩き付ける。当の本人はというと、涼しい顔をして未だにベッドでくつろいでいる。

 俺はというと近くにあった机の椅子に座り、二人の様子を眺めている。

まあ、こんな事をしているのを眺めているだけではあるが、心の中ではどうするかは決めている。そして、恐らくではあるが、藍雛も同じ事を考えているだろう。藍雛も素直では無いから、多分フィアにそれを言わせようとしているはずだ。


「まあ、考察してる時点で俺も藍雛と同じか……」


 ぎゃあぎゃあと、叫ぶ様に藍雛に対して説教をしているフィアと、それを目の前で聞いている藍雛では聞こえる筈の無い声量で、一人呟く。




「緋焔、フィアに何か言ってくれないかしら? このままでは会議が始まってしまうわ」


 しばらく時間が経った頃。二人の様子をぼーっと眺めていると、いきなり藍雛が話を振ってくる。言われて携帯を取り出して時間を確認すると、あと20分足らずで会議が再開する時間になっていた。


「……俺が言っても同じだろ。大体、聞きたい事があるならハッキリ聞けばいいのに」


 俺がそう言うと、フィアは今までの表情から一変させ、不思議そうな顔をして藍雛に問い掛ける。


「聞きたい事……?」

「……全く、緋焔のおかげで楽しみが減ってしまったではないの」

「知るか」


 そんな事、一々気にしていられないだろ。時間もおしているんだし。


「ねえ、藍雛。聞きたい事って?」

「早くしてくれよ、時間も無いんだ」

「……はぁ、仕方が無いわね。こういう台詞は緋焔が言うべきなのだけれど……」


 藍雛はそう言うと、真剣な表情をしてフィアに向き直る。


「フィア、あなたを代表として問うわ。……この国を護りたいかしら?」

「当たり前でしょ! ここは、私達の大事な国なのよ!」


 ……フィアにも、代表として問うという言葉はしっかりと聞こえたはずだ。それでも、一切の躊躇いもなく国を護りたいと言った。……うん、フィアらしい。


「だそうよ、緋焔」

「なんで俺に話を振るかな……。それと、聞こえてる」


 俺は藍雛に呆れ、ため息をつきながらもフィアの方に目を向ける。


「俺達は、この戦争に協力する。ただ――」

「本当に!?」


 ……あれだな、やっぱり美少女といえど、話を途中で切られたら多少イラッとするな。まあ、すごく嬉しそうなフィアの顔が見られたからいいけど。


「ただし、条件がある」

「条件?」


 俺は何かが抜けたような顔をしたフィアの目の前に、一本だけ指を立てる。


「俺達は、俺は能力、もしくは《創造》と《時空》魔法を、藍雛に関しては《破壊》、もしくは《幻惑》を使う。ただし、一度っきりだ。作戦に組み込むなり何なり、好きにしろ。

 それ以外の協力はしない。加えて、始まった瞬間に相手を全滅というのは無しだ。あとは俺達の好きにさせてもらう」


 俺は出来るだけ息継ぎを極力少なくし、出来るだけ冷たく言い放つ。



 フィアはそれを、目だけを驚愕に見開き、凍り付いた表情のまま聞く。



−−−−−



「それでは、会議を再開する」


 重く、沈み込んだ沈黙の中で会議の再開を告げる、カトレアの声が響く。全員がそれに沈黙で答え、それを見たカトレアの目にも曇りが浮かぶ。しかし、カトレアはそれを見ても、臆する事なくつらつらと続けていく。


「まず、先程の件じゃが……藍雛達の言っていた通りじゃった。自供もしておるし、間違いなかろう。二人にはこの国を代表して礼を言う」

「別にいいわよ。気に入らなかっただけなのだし」

「俺に至っては何もしてないしな」


 俺と藍雛は軽く流して、早く次の件に移るように目で合図をする。分かったかどうかは知らないが。


「それでは、元の話に戻す。……最初の会議の通り、妾達の国はこのままでは負けるであろう」


 ……随分とストレートに言ったな。周りを見ても、絶望的な空気を尚悪くしたようにしか見えないが……。

 というか、俺達はもう帰っていい気がするんだがな……。






 もう、関係無いんだし。




突然、元四十四幕を消してしまい、すみません。


四十五幕になる予定だった物が、どう考えてもくっつけた方がいい文量だった為、迷惑かとは思いましたが、このような処置をとらせていただきました。


尚、この処置に対するご意見等は、直接作者にメッセージとして送っていただけるよう、よろしくお願い致します。


ご意見、ご感想、誤字、脱字、誤用、などなど、常時お待ちしています。

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