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別世界の道化師  作者: あかひな
四章
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第四十三幕 道化師と異次元


「ねー、お兄ちゃん」


 俺、藍雛、スイの三人は、空中を浮遊する天龍の巣。その、だいたい中心辺りに建てられたラピ○タ顔負けの城の、リビングに相当する一室。そのソファーに深く座り込み、俺は読書を、藍雛はアニメ鑑賞を、スイは俺の読んでいるライトノベルを横から覗き込んで見ていた。

 何故そんな事をしているのかというと、数日間食事をしていなかった俺達の為に、マウが手によりをかけてご飯を作ってくれるのを待っているのである。

 それを始めてから1時間程経った頃、本を覗き込んでいたスイが、突然俺に話しかけてくる。


「んー? どうした?」

「このあきひさって人は、お兄ちゃんと同じ男の人なのに、なんで女の子の恰好してるの?」

「それはかわいそうな人だからだよ」

「ふーん」


 それからスイは静かになり、また俺が読むように、本を覗き込む。分かる人は分かるかも知れないが、今俺が読んでいる本はバカとテ○トと召喚獣という本だ。これは、結構なお気に入りだったりする。主に明久の馬鹿っぷりとか、その回りの環境とか、秀吉の可愛さとか、秀吉の可愛さとか、明久の馬鹿っぷりとか。

 ……ちなみに、俺はホモやバイじゃ無いからな。


「……そうだわ!」


 俺がどっかの三流レビューみたいな事を考えながら本を読んでいると、生徒会を見ていた藍雛が、飛び上がるように椅子から立ち上がる。


「どうしたんだよ? そんな大きな声を出して」


 俺が顔をしかめてそう聞くのと対照に、藍雛はにんまりと、さながら、世界を半分ずつにしないかと交渉するような2流魔王のような笑みを浮かべる。……どう見ても、ろくなこと考えてないよな。


「ねえ、緋焔?」

「……なんだよ」

「我達は、世界を行き来出来るのよね? 制限は無く」

「制限が無いかは知らないが、あの……オレンジ髪がいる中間地点を経由すれば、どこにでも行けるんじゃないか?」


 もっとも、移動っていうからには、その世界が存在するっていう制限があるだろうけど。


「なら、2次元の世界に行けるのではない?!」

 ……あー。確かに、考えようによってはそうかも知れないけど……、どうだろうな?

 というか、藍雛の目がやたらキラキラと光ってるんだが。まるで、面白いおもちゃを買ってもらった子供みたいだ。


「さあ? 大体、世界を移動してるだけなんだから、前提として、その世界が無きゃいけないんだからな? それに、今の世界をほうり出す訳にはいかないだろ」


 俺が軽くため息をつきながらそう言うと、藍雛は急にしょんぼりとした顔になり、アニメすら見ずにソファーに深くもたれかかる。


「そう……。せっかく、夢にまで見た2次元に行けるのではないかと思ったのに……」

「行けるんですよー」


 藍雛が、ずーんという擬音がつきそうなほど落ち込むと同時に、聞き覚えのあるロリ声が聞こえてくる。すると、目の前の空間が縦に裂け、中からアホ神ことミリアンが飛び出し――


「きゃう!」


――俺の額に直撃した。


「――ってえええぇぇぇ! このアホ神が! いきなり目の前に出てくんな!」

「だ、誰がアホ神ですー!? 第一、好きで目の前なんかに出ないです! なんで久しぶりの登場でいきなりあなたの顔なんか見なきゃいけないんですー!?」

「久しぶりの登場とか、メタな発言してんじゃねぇよ! てか、何しに来たんだよ!? まがりなりにも神様だろうが!」

「そ、そんなのあなたには関係無いですー! ただ他の神からの申請を許可するなんて事務仕事、私にはむいてないんですー!」

「要は仕事サボったんだな!?」


 俺は、最後の一押しとして、神様としてどうかと思うような傷口をざっくりと切りにかかる。すると、予想通りミリアンはそれ以上は反論出来なくなった。まあ、その代償にしては、口喧嘩で使った体力の方が圧倒的に高いだろうけど。ミリアンも俺と同じく、その年齢不詳とは裏腹な小さい体で、肩で息をしている。


「それで、2次元に行けるというのはどういうことかしら?」


 そんな俺達をよそ目に、いつの間にか超がつくほど元気になっていた藍雛が、今にもくっきそうな勢いでミリアンに顔を近付けている。

 対するミリアンはというと、とりあえずと言って藍雛から少し離れ、呼吸を整えてから話し始める。


「さっき緋焔が言ったように、あなた達がやっているのはあくまでも移動なので、無い世界には行けないですー」

「そう……」


 と、さっきの俺と同じ返答が帰って来た藍雛は、さっきと同じか、それ以上にテンションが下がっている。


「で、でもですー。世界には平行世界。いわゆる、パラレルワールドという物があるんですー」


 と、それを見たミリアンは、わたわたと焦った様子で話を続ける。


「パラレルワールドって、行動には無数の選択肢があって、選ばれなかった世界っていうあれか?」

「そうですー。じゃんけんでグーを出したとすれば、そのグー以外の手を出した世界。それがパラレルワールドですー」

「なるほど、それなら確かに……」

「ちょっと、二人だけで話を進めないでもらえないかしら?」


 俺が納得して頷いていると、藍雛が少しだけ不機嫌そうな顔をしながらにじり寄ってくる。多少不機嫌とはいえ、藍雛の顔はやっぱり可愛――って近い近い! 藍雛しか視界に入ってないから!


「あ、藍雛。ちゃんと説明するから離れて。近すぎて会話すら出来ないから」

「はぁ、分かったわよ」


 藍雛はため息をついて、やれやれと言いながら離れる。全く、こんなに女子に近付いた事なんて無いって分かってるだろうに……。なんか顔が赤くなってる気がするぞ。

 そんな事を考える頭を無理矢理切り替える為に、多少強引だが話を始める。


「まず、パラレルワールドの事は理解したか?」

「ええ、大丈夫よ」

「オッケー。さっき説明した通り、パラレルワールドっていうのは過去の何かしらの選択肢で、選ばれなかった世界だ。だから、極端に遡れば地球が誕生しなかった世界や、果ては宇宙が誕生しなかったっていう世界もパラレルワールドな訳だ」

「ええ、そうね」

「つまり、過去に遡った時に、とある人物が生まれるという選択肢と、生まれなかった選択肢が発生するですー」

「この考え方でいくと、俺達はあくまでも2次元のキャラクターが生まれなかった世界に生きているだけで、過去の選択肢に遡れば本やアニメになっている事が起きた世界にも行けるわけだ」


 俺がこう説明を終えて、ミリアンが補足として、まあ、実際に2次元という訳では無いんですー、と付け足した。確かに実際に2次元に行くというよりは、2次元が現実になった。という方が正確だろうな。

 そして、それを聞いた藍雛の反応は――予想がついた人もいるかと思うが――いわゆる、歓喜という表情しかない。というか、それしか見られない。そんな藍雛は、ずかずかと俺に近寄り、襟元を掴み思いっきりがくがくと揺すり始める。


「行きましょうよ緋焔! あぁ、どこがいいかしら!? ゼロ魔? バカテス? 東方でもいいわね? 行きましょう! 今すぐにでも!」

「ちょ! 痛い痛い! 揺らしすぎ! とりあえず落ち着けー!」




 藍雛に首を振られ続けること数十分。疲れたのかは見た目では一切分からないが、とにかく、落ち着いて首を振るのを止めた藍雛は、今はスイを抱き抱えてソファーに座っている。

 それに比べて疲れ切った俺は、藍雛が全力で首を振ったせいで鞭打ちになったんじゃないかと勘違いするほど、疲れて痛みも蓄積している。まあ、藍雛も落ち着いてくれた様だし、しばらくは安心――


「では、最初はどこからがいいかしらね?」


――俺の休息はどこに行った。


「いや、まだ行かないだろ? 大体、スイとかマウとかフィアはどうするんだよ」

「連れていけばいいじゃない。フィアは分からないけれど、マウとスイは着いて来てくれるでしょう」

「うん! スイはお姉ちゃんとお兄ちゃんがいるなら、どこにでも行くよ!」


 藍雛は、さもそれが当然で、確定事項であるかの如く堂々と言い放ち、スイにしても――本人からしてみれば当然かもしれないが――同じ様に、尚且つ笑みをたたえている。どちらも美少女で、本当に当然だと考えているから余計にたちが悪い。これは、説得には時間が掛かるか、何か大きな要因が無ければ……。


「ヒエンー。アイスー。スイちゃんー。ご飯出来たよー」


 と、この二人をどうやって説得しようかと考えていた所に、エプロン姿のマウが飛び込んでくる。

 うん、ものすごくかわいゲフンゲフン。


「あら、ありがとう。それでは、ご飯にしましょうか」


 藍雛は、そう言ってテレビの電源を切り、ソファーの目の前に置かれているテーブルにテーブルクロスをかける。その間僅か2秒。全く持って能力の無駄遣いであることは、もはや言う必要も無いだろう。




「それじゃあ、いただきます」

「「「「いただきます」」」」


 マウから一歩遅れて料理を持ってきた白龍が、藍雛と協力して料理を並べ終えた所で、少し足りなかった分の椅子を《ジッパー》から出し、全員が落ち着いた所で食事を始める。


「ねえ、マウ?」


 皿でピラミッドでも造るような勢いでご飯を消費していくスイの横、のんびりとトーストをかじっている藍雛がふとスイに話し掛ける。


「なにー?」

「マウは別の世界に行ってみたくはない?」

「ぶはっ!」


 あまりに突然の事で、ついつい飲んでいた牛乳を噴き出しそうになり、激しくむせる。まだ諦めてなかったのか……。


「私はいいや」


 と、嬉々とした表情でマウの答えを待つ藍雛に対し、マウは苦笑いをしながら答える。


「なぜ? 楽しいわよ?」

「アイス達が楽しいって言うなら、きっと楽しいんだと思うよ。けど、私はここでやりたい事があるから」

「……そう」


 藍雛はそう言うと、今までの表情を隠し、いつものように落ち着いて食事を続ける。


「……聞かないの?」


 一旦の沈黙の後。マウが、落ち着いてトーストをかじる藍雛に問い掛ける。


「どうして? マウが決めた事だもの。反対することなんて無いわ」

「そうだな。それに、必要なら協力するぞ」

「……ごめんなさい」


 トーストを食べ終えた藍雛が紅茶を飲む一方で、緑茶を飲んでいる俺達がそう言うと、マウは俯き加減でそういう。


「なんで謝ってるのかしら? 別に悪いことをした訳ではあないのだから」

「だって……。心の中だと、緋焔達ならそう言ってくれるって分かってたのに……。それなのに、こんな言い方……狡いもん」


 マウは一つ一つの言葉を探るように細かく切りながら、声は怯える子供の様に言う。


「あのな、マウ」


 俺は食事の手を止め、俯いているマウの傍に行く。


「前に言っただろ。マウも家族なんだって。家族が何かしたいって、そう言ってるなら手伝ってやるのも家族なんだぞ」


 俺はなんでも抱え込んでしまう、大切な家族にそう言い、頭を撫でる。




「……ねえ、聞いてくれるかな」


 しばらくの沈黙の後、マウが静かに口を開く。


「もちろん」

「愚問ね」


 マウは俺達がそう答えたのを聞き、何も言わずに目を擦る。


「あのね、私は……。私は、今までの私と同じ状況の人達を助けてあげたい」



どうも、神薙です。

いやー、書いておいてすっかり更新するのを忘れ痛い痛い殴らないで下さい。


しかも、その上趣味全開で内容が展開早過ぎて付いていけるのかという程の展開。これは酷い。


まあ、待たせてしまうのもアレなので更新しましたが、ホントに酷い出来……。



作者は誤字脱字誤用ご意見ご感想などなど、常時お待ちしています。

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