第四十一幕 道化師と開戦
「……やっと帰って来たわね」
「おかえりなさい、ヒエン」
「ただいま、マウ。黒りゅ――」
「――ストップ。呼び方コクって変えて」
転移を使い、数日振りにギルドに帰って来た。やっとの事で帰ってこれた上に、魔力を大量に使って疲れていた為、久しぶりの挨拶すらぞんざいだ。もっとも、そのぞんざいな挨拶すら途中で遮られて、我慢の限界に達してしまいそうだったが、深呼吸をして落ち着く。
最近、ストレスが溜まり気味とはいえ、かなり怒りっぽくなってるからな、気をつけないと……。
「我は先に依頼を終了させてくるわよ」
「ああ、頼んだ」
藍雛はそう言って、オークゴブリンの骨を弄びながら受付に向かう。途中で、ナンパと思しき男達が、下品な笑いをしながら声をかけるが、一人の例外も無く、骨で殴られて気絶しているのは気のせいだと信じたい。
「で、マウは大丈夫だったか?」
「何が?」
俺が問い掛けると、不思議そうな顔をして首を傾ける。ものすごく可愛いです、はい。そして、横にいるスイからの殺気と怒気が混ざった気配がものすごく怖い。
「今みたいな奴らに、言い寄られなかったかって事だよ」
「それなら黒り……コクがどこかに連れていって、どうにかしてくれたから大丈夫だったよ」
マウはそう言って、満面の笑みを浮かべる。やっぱ可愛……って、今はマウじゃないって。俺はマウに釘付けになる視線を無理矢理動かし、黒り――コクの方に向ける。
「だって、マウに何かあったら巣を落とすって藍雛に言われてたし」
あいつのせいか。だがグッジョブ。
「呼んだかしら?」
心の中でサムズアップしていると、ちょうど件の藍雛がスイの横に座る。噂をすればなんとやらって奴だな。
「あ、そうそう。なんかレイアが呼んでいたわよ? 依頼に不備があったから、お詫びをしたいらしいわ」
「不備? お詫びって事は俺達に問題があった訳じゃあないんだよな?」
「多分そうじゃないかしら? どちらにしろ、まだ報酬を支払われていないから、早く行ってちょうだい」
俺は軽くため息をつき、藍雛達に見送られて受付に向かう。
受付では、既にレイアさんが待っており、事情を話す前に奥の部屋に通された。
そこは会議室。5メートルはあろうかという超縦長のテーブルと、この世界では恐らくかなり上等な椅子。どっかの国の重鎮が並んでいてもおかしくない位の、立派な会議室だった。
その一番奥の、一番装飾過多の椅子に180センチはあろうかという、しかし女性のようにしなやかな体つきをしている人影が座っている。
「ようこそ。座ったままですみません。そんな所に立っているのも難ですし、どうぞこちらへ」
その人はそう言って、すぐ右前の椅子を指差す。ちょうど逆光になっていて姿はよく見えないが、声からするにやっぱり女性らしい。声はおっとりとしている、というのが一番あっている。が、なんだか違和感がある。強いていうなら、藍雛が猫を被っている時の違和感に近い。しかし、声からするに、猫を被っているって感じでも無いしな。
……まあ、いいか。言われて座らないのも失礼だし、近くに行って話せばわかるだろ。そう考え、言われた通りの席に座る。
「初めまして、私はウ゛ェナルディー冒険者統括ギルドの総統括ギルド長です。訳あって……というより、名を知られてはまずいので伏せさせていただきます」
彼女はそう言って、俺に軽くお辞儀をする。
あー、はいはい。この世界の冒険者統括ギルドの一番偉――
「はあ!?」
いやいやいやいや。つまり、この人はこの世界の冒険者の全ての頂点だと。俺の上司なのか? それ以前に、なんでそんな人が俺の所に……。いや、よく考えたら俺の地位も本来なら相当だよな。別にいらないけど。
「どうかいたしましたか?」
「ギルドマスター、普通はいきなりそんな人が出て来たら驚きますよ」
俺が言葉に詰まっていると、レイアさんが助け舟を出してくれる。それを聞いたギルドマスターさんはキョトンとした顔をする。
「でも、この方は普通の人じゃないと聞きましたよ? 王都騎士団の精鋭四人を瞬間で倒したとか、お伽話の大陸を見つけたとか、竜を常に最低一匹従えているとか、世界中の魔法使いを集めても届かない程の魔力があるとか、他にもいろいろと」
教えた奴、ちょっと表に出ろ。
いくらなんでも普通じゃないとかひど過ぎるだろ。第一、そう言うのは噂で尾鰭とかが付く……あれ? 全部事実じゃないか?
「ギルドマスター、そんな人が普通にいたらこの世界はとっくに終わってますよ。ねえ、緋焔さん」
「そ、ソーデスネー」
突然話を振られた俺は、とてもぎこちない片言な言葉でそう返す。内心どころか、ほとんど全体的に冷や汗がやばい。
「あら? 緋焔さん、汗がすごいですね。ここ、そんなに暑いですか?」
暑いんじゃなくてプレッシャーです。なんて言える訳も無い。
「ところで、どうして俺を呼んだんですか? 依頼の不備なんて建前でしょう」
そもそも、依頼の不備なんて理由で、こんなお偉いさんが出て来る訳が無い。だったら、そこには裏があると考えるのは当然だろう。
「ああ、そうでした。先ずは、依頼の不備からです。本来なら、一体の討伐となっていましたが、藍雛さんから聞くには20以上の群れだったとか。一体の討伐で済ませてもよかったという意見もあったのですが、それではギルドとして申し訳がたちません。なので、今回は報酬の上乗せと直接の謝罪という事で如何でしょうか?」
……あー。大体話が読めた。まず、向こう方が防ぎたいのはギルドとしての格が落ちること。世界中を纏めているなら尚更だろう。しかし、だからといっていきなりトップが出るのはおかしい。だが、それは相手が俺という事を考えれば納得がいく。
俺は恐らく、ギルド内の冒険者としては最強だろう。まあ、実際最強だが、多分いくらなんでも総統括ギルド長には勝てないだろうって事で、もしもの時は武力行使に出るつもりだったんだろうな。よく見てみれば、部屋には多くの鑑賞目的には作られていないであろう武器がかけられている。なるほど、これを見えづらくするための逆光か。結構手が込んでるな。
「緋焔さん?」
「ああ、それでいいですよ」
まあ、元々上乗せについては断る気は無いし、別に問題は無い。あるとすれば、本題の方だろうな。
「で、本題は?」
「少しは待って下さいよ。こちらが謝礼金を含めた報酬金の金貨5枚です」
俺がそれを受け取ると、ギルドマスターさんの横でレイアさんが目を見開いて驚愕の表情をあらわにする。
ちなみに、こっちの世界では全世界共通で紙幣は無く、全て硬貨で支払われる。下から順に銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっている。白金貨何て言うのはホントに一部の国しか保有されず、一生に一枚見たら死ねるレベルらしい。 一番価値が低い銅貨が日本円にして100円程。それが100枚毎に一つ上の硬貨の一枚となる。つまり、今回支払われた金額は日本円にして、大体500万という訳だ。
俺は《ジッパー》を開き、その中に金貨を放り込みアルトさんに向き直る。
――と、同時に音すらも遅れる速度で、マウ程はあろうかという大きさの斧が、俺の胴に向かって振り下ろされる。
「あー、やっぱりか」
俺はそれを掴み、止める。
「なん……で……」
俺は驚愕の声を上げるギルドマスターさんを無視し、手刀で斧の柄を叩き折る。実は手刀でなくてもいいんだけど、手刀の方がカッコイイしな。
「《マジックロープ・捕縛》」
俺は魔力でロープを作り、それでギルドマスターさんを縛り上げる。強度は魔力の量によって決まるので、スイにも破られない自信がある。とは言っても、今はかなり弱っているためスイは縛れそうに無いが。
「全く、ギルドの偉い人なのに奇襲とは褒められた事じゃないな」
「…………」
黙秘か……。まあ、奇襲かけて捕まったからには、相当な恥もあるだろうけど。しかし、奇襲ってのは相手を潰すかなり有効な手段だしな。それが卑怯か否かは別として。その辺りが分かってる辺り、流石ギルドの統括長といえる。だが、今回は先を読まれてたのがいけなかったな。
あれだけの大金を渡されれば大体の人が油断するし、付け加えるとすれば、俺はまだ若いし舞い上がるとでも考えたんだろう。結局は、無駄に終わったけどな。
「で、本題は――っ!」
本題を問おうとした瞬間、背後から爆発的に現れた殺意と風を切る音が飛んでくる。俺はそれをかわそうと、身をよじる。が――
「隙だらけですよ」
レイアさんの短刀が、俺の胸に吸い込まれる様に落ちる。
「全く、どちらが隙だらけなのかしらね?」
――直前、藍雛が俺と短刀の間にギィィィイイイという不快な音を立てる、黒を基調としたマーブル模様の、見ているだけで精神を破壊されそうな球体が、短刀を粉々に破壊する。
それを見たレイアさんは跳びずさり、俺達から距離をとる。
「レイアさん……それが本題ですか」
俺は弱っている体に鞭を打ち、魔力を練り上げる。隣からは万全の状態の藍雛が魔力を撒き散らしており、《神具の宴》とまではいかなくとも、かなり空間に魔力が満ちている。すると、レイアさんは両手を上げ降参の意を示す。しかし、それを見て尚、藍雛は魔力を撒き散らすのを止めず、レイアさんに問い掛ける。
「ホントかしら?」
「もちろん」
「証拠は?」
「神とギルドマスターの名にかけて」
レイアさんがそこまで言って、やっと藍雛は魔力を撒き散らすのを止める。
「ならいいわ」
藍雛はそう言うと、ピントがぼやけた写真の様になると、次の瞬間には煙の様に消える。
後には濃い魔力が残っていた事を考えると、魔力で分身でも作っていたのだろう。よくもまあこんな使い方を思い付くもんだ。
「さて、レイアさん」
俺は久々に、ミリアンからもらった神の能力を使い、魔力の量を半分まで戻してレイアさんに向き直る。
「話してくれますね?」
承諾というより、確認寄りの一声をレイアさんに問い掛ける。すると、レイアさんは無言で書類と思しき紙の束を渡してくる。俺はそれを受け取り、読み上げる。
「極秘につき、他者への閲覧を禁ずる。
カレーラーメンの美味しさについては筆舌に尽くしがたい。何故なら、カレーは単体で子供にも大人にも人気が高い食物であり、故に世間にも深く浸透しており、多大な経済的利益をもたらしている。
ラーメンに関しても、我が国に伝来した時は古く、カレーに並ばずとも及ばない人気がある。認知度に関しても同様。故にカレーラーメンは至高の食物といって、間違いは無いであろう」
……………………。
「なんじゃこりゃぁぁぁあああ!」
何かと思えばただのカレーラーメンに関しての、しかも主観しかない考察じゃねぇか!? てか、これの何処が極秘書類なんだよ!? というか、なんでこの世界にカレーラーメンがあるんだよ!
すると、レイアさんは今度は俺の手から書類をとり、読み上げ始める。
「極秘につき、他者への閲覧を禁ずる。
一昨日、隣国、アイガス国よりわが国に対し宣戦布告が行われた。よって、わが国は全兵力等をもって此れに抵抗する。ゆえに、我が国内所属の全ギルドは此れに従う事。
尚、ランクB以上のギルド要員を緊急収集とし、国の依頼を優先すること」
作者「おはこんにちばんわ。神薙です」
エセ「久々の登場でテンション上がりまくりのタフナやで!」
作者「うっさい」
エセ「酷っ!」
作者「更新遅くなってしまって、申し訳ありません。もういっそ、不定期更新ってタグつけようかな……」
エセ「そのほうがええやろ」
作者「まあ、その辺は置いといて」
エセ「おい」
作者「えーっと、テストです。定期テストの真っ只中です」
エセ「アホかお前は」
作者「で、テスト終了が月曜日なんですが、それが終わると次の日には修学旅行です」
エセ「予定日びっしりやな。書けるんか?」
作者「たぶん無理、なので、次の更新が著しく遅くなる可能性が非常に高いです」
エセ「ホンマなら、書いたほうがいいんやろうけど、さすがに此ればっかりはどうしようもできへんのや」
作者「なので、こんな駄文ながらも待ってくださっている方々には申し訳ありませんが、次回は遅れそうです、すみません」
作者は、誤字脱字誤用、ご意見ご感想、などなど常時お待ちしています。