第三十七幕 道化師と神具
「名の通りの働きをしろ。《生き意思を持つ槍》」
俺は手近な《生き意思を持つ槍》に指示を出す。伝承通り、生きてるんならこれで十分だろう。
『御意。使い手の意志のままに』
「喋った!?」
突然、槍がカタカタと揺れたと思ったら、思念を繋いで俺に語りかけて、俺が返事を返す前にすぐに一体のオークゴブリンに向かって飛んでいった。ここまで伝承通りだと、あのオークゴブリンの結末は見る必要は無いと感じた俺は左にあった《増え突く槍》を掴み、投げる。
制限を解除した状態で放たれたそれは天高くへと飛び、弧の頂点に着いたと思った次の瞬間。数多の鏃となって雨の如く降り注ぐ。その数は、伝承の30という数では決してなく、傍から見ればまるで鏃の形をした雹が絶え間無く降り注ぐようだった。
ここまでの攻撃とその余波で見渡す限りの数だったオークゴブリン達は、頑張れば数えられる程度になっていた。後は近くにいるオークゴブリンだけなのだが、怯えてしまったのか近くにいても攻撃する構えだけしかしていない。
一息ついて、集中を緩めると右側にはいつの間にか《生き意思を持つ槍》が戻って、ちょうど座ったときに俺のひじ掛けになるような位置に突き刺さっていた。初めて魔力を大量に使っていくらか疲れたので《ジッパー》を開き、中から椅子を出してそれに座る。やっぱり、ちょうどいい位置に《生き意思を持つ槍》がきていたのでひじ掛けにさせてもらう。若干硬いが、気にする程ではなかった。
「お疲れさま」
『使い手の命に従ったまで。武具である己に疲れ等はございません』
半ば社交辞令的な挨拶を投げ掛けるが、対する神槍は本気なのか否か――恐らく大まじめだろうが――きっちりとした返事を返してくる。俺はその返事に内心でため息をつき、ひじ掛けにされている神槍を指先で突いて遊び始める。
『あの……使い手? 一体何をしているのでしょうか?』
「いや、あんまりにも真面目だったからなんか面白い反応しないかなと思ってな」
あんまりにも真面目だとつまらないからな。俺はギャグを振って気付かれないようなボケにはなりたくないし。
『その程度、命じてくだされば……』
「それじゃあつまらないから、こうしているんだろう」
『むぅ……』
なんだか不満そうだが、これも使い手の命って事で我慢してもらおう。
そんな風に《生き意思を持つ槍》と遊んでいる間にほとんどのオークゴブリンは高密度の魔力に耐えられなかったようで、死体も残らず消えてしまった。副作用の筈の効果がメインになってないか?まあ、別にどっちでも構わないけどな……。
『使い手。楽観なされている所申し訳ありませんが、厄介なのが残っているようです』
あまりに数が減ってしまったオークゴブリン達に対して緊張を解いてしまっていたが、裏を返すと今残っているのはオークゴブリンの中でもかなりの実力の持ち主である事を《神具の宴》をもって証明している。その上、魔力が充満しているこの空間内では――魔法使用者の俺は別として――魔力は漲るし魔法は使い放題の状況である。冷静になってきた今では、オークゴブリンが馬鹿で万々歳だ。
『……使い手? 聞いているのですか』
「いや、聞いてなかった」
『悪びれもしないで言わないで下さい。大体、使い手は自分の力を過信し過ぎかと思われます。確かに、神話の時代にしか登場しないような我等をこれだけ使用出来る使い手はかなり実力を持っているようではありますが、戦闘においては実戦をろくに積んでもいないヒヨッ子である事に変わりは無いのですから、それをもう少し自覚して頂き己からの忠告をもう少し聞いていただきたいです』
「フムフム、なるほど。何て言っているのか全く分からなかった。もう一回」
話が長いって。集会の時の校長じゃないんだからもう少し短く纏めて欲しいもんだ。まあ、可哀相だから後一回だけ聞き流すが。
『悪びれもしないで言わないで下さい。大体、使い手は自分の力を過信し過ぎかと思われます。確かに、神話の時代にしか登場しないような我等をこれだけ使用出来る使い手はかなり実力を持っているようではありますが、戦闘においては実戦をろくに積んでもいないヒヨッ子である事に変わりは無いのですから、それをもう少し自覚して頂き己からの忠告をもう少し聞いていただきたいです』
「……正直、済まなかったと思っている」
『いかがしたのですか? 使い手』
「いや、何でもない」
もしもここで「話なんて聞いてなかったんだZE☆」なんて言おうものなら、さらなる説教の渦に巻き込まれていただろうことは目に見えてるしな。なんか、ここまで来てやっと学習したって感じだな……。
「で、お前が言ってた厄介なのってどれだ?」
『あれです。残り少ない中でも一際小さく、なお且つオークゴブリンらしからぬ格好をしている一番奥の奴です』
《生き意思を持つ槍》のいう方向を注意深く見てみると、そこには身長が約120センチ程のボロボロのローブをまとった人型の『何か』がいた。
「確かに、他のとは随分と違うが……。どこが厄介なんだ?」
『使い手は魔力の量が見られないようなので分からないとは思いますが、他のオークゴブリンの魔力量がそこらへんの石ころと変わらないのに比べ、あの一個体のみ使い手の一割にも達するかというほどの多量の魔力を有しているようです』
「簡潔にまとめると?」
『アレは魔法を……それも人間ですら扱えるものが限られるような上級魔法を使用する可能性が大きいです』
なんで《神具の宴》なんて使ったんだ過去の俺……。
とにかく、相手の中にも魔法を使う奴がいると分かれば、のんびりしている場合ではない。遊んでいるつもりはなかったが、そろそろ遊びは止めにしてさっさと片を付ける。
「《生き意思を持つ槍》は周りの普通の奴を頼む。《投げ撃ち殺す雷の槌》よ左手に、《一投回帰の槍》は右手に」
『御意。使い手の意思のままに』
《生き意思を持つ槍》は指示を受けると同時に敵陣の元へ弧をえがきながら飛んでいく。俺はそれぞれの手に神具を持ち2組だけ羽を出し、他とは違うらしい『アレ』に向かい一直線に低空飛行で飛ぶ。もちろん魔力を纏って風の抵抗は無くしてある。そうじゃなければ、とっくに音速の壁にぶち当たりミンチになっているだろう。
「《アースニードル》!」
俺が空中で急停止し、いざ『アレ』に向かって《一投回帰の槍》を投げようとした瞬間に、そうする事が分かっていたかのようなタイミングで地面から四角錐状の岩が突き出し、俺に命中する。しかし、俺の纏っていた魔力にぶち当たると同時に阻まれ、砕け散る。
それを見た『アレ』は後ろに跳び距離をとろうとするが、それを阻止するように追撃として《投げ撃ち殺す雷の槌》を掲げる。それを見た『アレ』は何かを呟き、空中にいる状態にも関わらず真横に向きを急変更する。
掲げた《投げ撃ち殺す雷の槌》の効果により『アレ』が着地する筈だった地面に落雷が落ちるが、当然、真横に跳んだ『アレ』に命中する事は無い。そして『アレ』は本来着地する場所とはかなり違う地点に着地する。が、着地した時に少しではあるが体勢を崩したのを俺は見逃さなかった。
「《重力操作》」
大勢を崩した瞬間に範囲内の重力をある程度操作する《重力操作》で相手の位置の重力を倍増させる。
「ぬうっ?!」
案の定予想外の攻撃で体勢を完全に崩した『アレ』は着地すらままならず、そのまま地面に倒れ込む。これ以上の隙は無いと思った俺は、そこに再度雷を撃ち込むべく《投げ撃ち殺す雷の槌》を掲げる。
「くっ! 《アースシェル》」
しかし、『アレ』は立ち上がる事は無く、地面に寝そべったまま新たな魔法を発動させる。すると、地面が『アレ』を中心として覆うように盛り上がり巨大な甲羅のような物を形成する。
一拍遅れて雷が土の甲羅を直撃し、無残にも土の甲羅は砕け散るが、まともに喰らっていない以上、無傷とまではいかなくても無事ではあるだろう。中の様子を伺おうにも土の甲羅を砕いた時に出た粉塵のせいで中はろくに伺えないし……散るのを待つしか無いか。まあ、向こうも見えないしおあいこってところだろう。そう思い、緊張を解く。いや――
――解いてしまった。
「《エアスラッシュ》」
粉塵の中から短縮された呪文が聞こえるのと同時に全身に鳥肌が立つ。それが自分に向けられた脅威だと認識出来たのは、呪文で発生したカマイタチによって喉から生暖かい液体が溢れた後だった。
どうも皆様、神薙でございます。
いや、予告はしていたましたが自分で読み返して思った感想。
「これはひどい」
今更ですが何と言う出落ち……いや、出落ちですらありませんね。
バトル大変ですねバトル。自然に指は進みますが後で読み返すと修正点が多々あるという……。
しかも主人公の喉[未R指定なので自主規制]なんて何やってるの俺? これ、公開して大丈夫? とか30秒くらい悩みませんでしたよ。
え? そこは悩めって? この小説はノリとテンションと妄想で描かれているため不可n(殴
すみません、自重します。
とりあえず、次回は早めに書き上がるように努力はするつもりです。ので、どうかよろしくお願いします。
……でも、夏風邪でダウンなんですよね、俺。
作者はご意見、ご感想、誤字脱字誤用報告などなど、多数お待ちしています。