第三十六幕 道化師と再起と発散
更新遅くなって済みませんでした。
リアでいろいろとありまして……。
ま、なにはともあれまずは本編へ。
数秒、数分、数時間。あるいは数日間かも分からない。とにかく、快楽と愉悦。それ以外の邪魔な感情を捨てて、我は笑い続けた。そして、やっとまともに近い状態に戻れた時にはいつも丁寧に整えていた白い髪も乱れ、人に見せられるような恰好では無くなっていた。幸い、体や服は何もしなくても常に綺麗な状態であるように、ごくわずかに魔力を纏っているため、綺麗なままを保っている。
「ふふ……。髪を梳かなくてはならないわね。《櫛が無いという事実を破壊》」
パリン、と。いつものガラスが割れるような音と共に、手の中に櫛が現れる。我は後ろの髪をそのまま前に持って行き、いつものように自然な動作で髪を梳く。……その間も、胸に燻るごくわずかな快楽は消える事は無かったけれど。
この《破壊》を使い、またあの極上の感覚を味わう事が出来るのでは無いか。そんな考えが、ふと頭に浮かぶが、すぐに振り払う。
そんな事をしてしまえば、きっと留まる事を知らず、文字通り全てが無くなるまで突き進んでしまうであろう。そんな確信に近いものがあったから。
……気を紛らわす為、地面に寝そべっている片割れに近寄り、我と同じ色の髪を撫でる。
それは予想よりもさらさらとしていて、少しだけ羨ましく感じてしまうほどだった。しかし、それとは裏腹に緋焔の顔は少しだけ苦悶の表情を浮かべている。
「……優しいわね。優し過ぎて不器用な程に」
誰が聞くのでも無い、そんな紛れも無い本心を漏らす。
「……こんなに優しいのに、こんな地面ではかわいそうね。《この場にベッドが無いという事実を破壊》」
我は破壊によって生み出したベッドに、緋焔を寝かせ、我もその横に入り込む。疲れた――という訳では無いけれど、理由を言うとすればただの気まぐれで。しかし、流石我の生み出したベッドだけあって、とても寝心地がよく、ついつい眠くなる。
どうせなら、寝てしまおうと、緋焔の表情がほんの少しだけ和らいだのを確認してから、緋焔の腕を抱き枕代わりにして眠りにつく。
side 緋焔―――
目は閉じたまま、その状態で目が覚める。
俺は眩しさを感じないことに違和感を抱きながらも、右腕で目を擦る。そして、両手を伸ばして伸びをしようとするが、左腕が全く動かない。また、体の下にして寝たせいで血が止まってるのかな?と、思ったが、体は上を向いているらしい。
そこで、めんどくさいが目を開けて左側に向かって寝返りをうつ。
「……すぅ」
360°どこからどう見ても藍雛が俺の腕を抱き枕にして寝ています。
俺はそのまま腕を引き抜こうとするが、腕は思いっきり抱きしめられていて抜けない。というか、正しく指一本動かない。こんな時に限って腕に血が行ってないとかなんなんだよとか思いながら、仕方が無いので残った右腕と体のみで藍雛を起こさないように脱出をはかる。
「よし、イケる!」
「……緋焔? 起きたの?」
あえなく失敗しましたとさ。
「あー……おはよう」
「……おはよう。まだ眠くてしょうがないわ。済まないけれど、もう一度横になってくれない? 意外と抱き心地がよかったの」
HAHAHA。冗談はそこまでにしてくれ藍雛よ。寝起きで麻痺してた頭とは違って、今の頭は覚醒状態なのにそんな事をされたらオーバーヒートを起こすじゃないか。
「無理」
「……言うと思ったわ。仕方が無いわね」
藍雛はそう言ってからため息をつくと、いやいやながら腕を離してくれた。まあ、どちらにしろ動かない事に変わりは無いんだけど。
「うわー……。腕が重い」
「我が治してあげましょうか? 元々は我のせいみたいだし」
「いや、いい。どうせすぐに治るし」
俺は藍雛が集めていた魔力を散らしてから、腕を軽く振るう。まあ、動かないから反対の腕でぶらぶらさせてるだけなんだがな。そういえば、これが治るときに腕が痺れるんだよな……。あれは苦手だ。原因が分かってるのにどうしようもない感じが余計に嫌だ。
「そんな事より、早く結界を解こう。外にいるスイ達が心配だ」
「心配性ね……。スイなのだから、怪我なんかするわけ無いじゃない。ちゃんと我達の言い付けを守っているわよ」
「分かってはいるんだけどな……」
なんだかな……。いつもいる人がいないのは不安になるというか……。
「分かったわよ。我もスイを抱きたいし、早くしましょう」
藍雛の場合は理由がおかしかった。普通、早く抱き着きたいからって理由じゃないだろ、そこは……。まあ、藍雛らしいといえば藍雛らしいけど。
「はぁ……分かったよ。《解除》」
俺が周囲を守るために張ってあった結界を解除すると、同時にその上を覆うようにかけられていたらしい結界も消失する。
そして、適当に周囲をぐるりと見回して、結界の中以外に守れなかった部分が無いかを確認してから隣にいるはずの藍雛の方を向く。……が、当然というべきかそこには藍雛はおらず、恐らく力任せに移動したために発生した衝撃波によりえぐれた地面があった。
「どこを向いているの? 我達はこっちよ」
声のする方を見てみると、そこでは嬉しそうにスイを抱いて撫でる藍雛と、目を潤ませながら気持ち良さそうに撫でられているスイがいた。
「お兄……ちゃん」
「ただいま、スイ」
俺は空間をちょっと弄ってスイの頭を撫でられる位置に一瞬で移動する。するとスイは、藍雛の腕からするりと抜け出して俺と藍雛に同時に抱き着く。
「パパも……ママも……えぐっ。スイ頑張ったよ……ぐすっ。パパもママもいなかったけど……頑張って、ちゃんと言うこと聞いてたよ……」
スイは時折、鳴咽で言葉を詰まらせながらも、この数日間会うことの許されなかった悲しみと、やっとの思いで会えた喜びを噛み締めるように更に俺達に強く抱き着く。
……すっかり忘れていた。スイは、見た目としてはそれなりの年齢で、ある程度の事なら任せても自身で考えて行う。実際、俺達がこうやって結界の維持を頼んでもきちんと成果を上げている。
しかし、それはあくまでも見た目の話。
いくら外面が成長していて頼まれた事もしっかりこなすとはいえど、スイはまだ生まれてから1ヶ月と数週間程度しか経っておらず、精神面はまだまだ子供なのだ。そんなスイが、今まで一度も離れた事の無かった両親に突然、何日も会うことが出来ないと言われたらどれだけ悲しいだろうか。しかし、スイはそれを分かっていて頼みを受け入れ、こなした。
「……一人にしてごめんなさいね、スイ」
「悪かったな。よく頑張った。偉いぞ」
俺と藍雛は、そうして抱き着くスイを慰め、褒めながらスイの頭を撫でる。俺は少なくとも、スイが泣き止むまではこうしていようと、心に留めながら……。
それにしても、ここまで親離れが出来てないとな……。
黒龍によると、龍種は子供の内に親離れを始めるらしい。ついでに言うと、時空龍は成人――この場合は龍だから成龍か? ――になるのにも100年近くかかるらしい……が、その代わりに人でいう幼児期が極端に少なく、精神年齢は1ヶ月程で中学3年くらいに相当するらしい。つまり、スイは他と比べると成長速度が著しく遅いという事だ。てか、中学3年辺りって反抗期真っ盛りだよな?それなのに、スイは俺達にべたべたと……やばくないか?
当然だが、今まで子供を育てた経験なんて無いしな……真面目に藍雛と考えていかなきゃならないな。
「ブゴォォォォォ!」
藍雛と共にスイを必死に宥めていて、ようやく落ち着き始めた頃。突然、聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。
「ブルゴォォォォォ!!」
「あーもう煩いんだよ!《聖なる光》!」
あまりの煩さに堪えられなくなった俺は、苛々を減らす目的も含めて範囲を広げる代わりに威力を極端に落とした《聖なる光》を放つ。それは俺の狙い通りにオークゴブリンと共に、辺りにうざったく茂っていた木々も消し飛ばしてくれた。
「はぁ……やっと落ち着いて「「ブゴォォォォォ!!」」……は?」
俺はため息をつきながら下を向くのを止めて、もう一度さっきまで木々が茂っていた場所を見る。
「「「ブゴォォォォォ!!」」」
そこには見るだけで怠くなるような大量のオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリンオークゴブリン。
――プツン。
俺の中で今までのストレスを必死に抑えていた勘忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしろ!!」
制御? そんなの知るか。今はこの胃に穴を開けるくらい溜まりに溜まったストレスを、どうにかして放出する方が先決だ。
「お兄ちゃん!」
「全く緋焔は……。スイ、空間を隔離してちょうだい」
「うん……」
藍雛達が何か言ってるが聞こえないフリだ。スイのおかげで周りの空間を残して、他は全て隔離されたようだ。ご丁寧にオークゴブリン達は一匹残らずこの空間内にいるようだし、今なら一ヶ月の引きこもり生活で思い付いた中二病フルパワーを出しても問題無いだろう。罪悪感? 知った事か。
「《神具の宴》」
俺はリミッターを解除した状態で5割以上の魔力を使い、自分を中心とした半径1キロの範囲に巨大な円形の魔法陣を構築する。魔法陣はその状態で俺から魔力をどんどん吸い取っていく。
1番隅にいるオークゴブリンが異常を感じ取り、すぐさま魔法陣から出ようとするが、透明の壁に阻まれて出ることは出来ない。
「ブゴォォォォ!」
そのすぐ直後、俺に1番近いオークゴブリンが悲痛とも取れる雄叫びをあげた瞬間。
その場から消える。
消えるのは当然で、本来空間内の魔力が高密度な場合はわざわざ他から魔力を集める手間がかからず、そのため魔力の回復量が上がるのだが、行動を少しでも阻む程の超高密度の魔力が漂う空間内に居続ければ、身体が魔力に負け、崩壊して消失してしまう。……まあ、全部黒龍と白龍から教わった事の受け売りなんだが。
まあ、確か引きこもり生活はしていたが、何もしないで自宅警備員をしていたわけじゃあない。この1ヶ月は、白龍と黒龍に頼んで上手い魔力の使い方を中心に魔法関係の事を教わっていた。その結果、新しい中二病魔法を思い付き、使用するまでに至った。もちろん、俺や藍雛しか使えないようなチート魔法だが。
それこそが、この《神具の宴》。その効果の一つ目は、さっきのように大量の魔力を持って辺りの空間に魔力を満たし、相手の動きを鈍らせる。さっき消えてしまったのは……まあ、あくまでも副作用だ。
「さあ、舞おう。死の国へ誘ってやる」
そして、魔力の吸収が終わるとガラスで引っ掻くような嫌な音と共に、数々の武具が現れ始める。もっとも、一投げすると必ず相手を殺すといわれる北欧神話の神の槌《投げ撃ち殺す雷の槌》、投げれば必ず相手を貫き、なお且つ手元に戻ってくるといわれる同じく北欧神話の神の投槍《一投回帰の槍》、投げれば30の鏃となって降り注ぎ、突けば30の棘となって破裂するケルト神話の神の槍《増え突く槍》、生きていて意思を持ち、自動的に相手に向かって飛んでいったり、5つの切っ先から光を放つなどと言われているケルト神話の神の槍《生き意思を持つ槍》などなど、現れるのは全て神話に登場したり、伝説となって伝えられるような神具ばかりだが。
これが二つ目の効果で、俺が知る限りのありとあらゆる武具を生みだす。この二つの効果こそが、この今のところ俺の中で最強の魔法《神具の宴》。ただ、――今まで気づかなかったが――創造魔法の燃費が最高に悪いせいで俺の魔力量をもってしても――武具の数にもよるが――合計6、7割の魔力を持っていかれる、最強且つ燃費最悪の魔法だ。なぜわざわざこんな魔法を使ったかって?
そりゃあ、さっきから言ってるようにこいつらのせいで溜まりに溜まった俺のストレスを発散するためだ。
どうも皆さま、お久しぶりの神薙です。
今回も更新が遅れて済みませんでした。夏休みに入りはしたものの、毎日が部活バイト部活バイト部活バイトバイト(以下エンドレス)の毎日で、ちょっとずつしか書く事ができなかったり、幼馴染が夏休み中泊まりに来たり、中々アイディアが思いつきませんでした。
ただの言い訳ですね、はい。
まあ、そんなこんなで次回のアイディアもすっからかんなのでかなり更新が遅れてしまうかもしれませんが、そんな神薙をどうか見捨てないで冷たい目でもいいので見守ってください。よろしくお願いします。
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