第三十四幕 道化師とギルド
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「私は――残る」
「……確認と、俺の自己満足の為にもう一度だけ聞く。いいのか?」
出来ることなら、嫌だと。その言葉が出るのを心の底から願う。
「残る……わよ」
しかし、次もフィアの口から出たのは拒否の言葉ではなく、王都騎士団に所属するという言葉だった。一度聞いて納得がいかなければ、二度聞いて納得するはずもない。やろうとすれば、俺も藍雛も心を操作して今と反対の意見にさせる事だってできる。だが、フィアの決めたことを否定する義務も権力も、俺には存在しない。
「そうか」
俺は微笑み、椅子から立ち上がる。
「どこへ行くのじゃ?」
「帰るんだよ。マウはどうする? フィアと残るか? 俺達と来るか?」
「私はヒエンに着いていくよ」
マウはもう少し考えるのかと思ったが、即答で着いてくると言った。嬉しいには嬉しいが複雑だな。今更だが、マウが俺に依存するんじゃないかと心配になる。
……まあ、俺が言えた台詞じゃないな。依存した時は……その時に考えるか。
「《転移、魔法陣展開》」
俺は転移用の魔法陣を行く人の足元にそれぞれ展開する。
「それじゃあ、またな。その内にまた遊びに来るから。あと、カトレアは今回の事をギルドに報告しておいて欲しい。報酬は……この城で保管しといてくれ」
俺が必要事項だけを早口で伝えると、ちょうどいいタイミングで魔法陣から光が溢れてくる。また遊びに来るとは言ったが、さすがの俺も城にむやみやたらに出入りする気はあまりない。もし次に来るのはしばらく時間が経ってからになるだろうから、フィアとは当分別れる事になるだろう。
「うむ、分かったのじゃ」
「いい返事で安心した。じゃあな、また会おう」
「体に気をつけるのよ、フィア」
「バイバイ、フィア」
「じゃあね、フィアお姉ちゃん」
それぞれが自由にフィアに別れの挨拶を告げる。そして、スイが挨拶をすると同時に魔法陣から出ていた淡い光が、俺達を包み込む強い光に変化する。
そして、光が俺達を完全に包み込む直前。
「またね、緋焔、みんな」
そうフィアが言い終わったのと同時に、魔法陣から溢れていた光が俺を包み込む。
―――――
「緋焔」
俺は真正面のソファーに座り、テーブルに肘をつけている片割れに、どうしたと問う代わりに元の世界から持ってきた本から目を離さないように、少しだけ顔を向ける。
「退屈よ」
それはそうだろう。あれからというもの、約1カ月ほどはここ。つまりは、天龍の巣に引きこもっているのだから。しかし、引きこもっているというのは若干聞こえが悪いのでここでは外に出なかったと言っておく。
「とはいっても行く理由もないしな……」
どうしたものかと、本から顔をあげて軽く思案にふけっているとエプロン姿をしたマウが俺の前に立つ。うん、エプロン姿も大いにアリだな。
「ヒエン、食料の補充が足りないんだけど」
食料関連は基本的にマウに一任してある。あまり話が分からない龍達に任せるわけにもいかないし、大体、龍達は地上の魔物たちを餌にして勝手に行って帰ってくるので、食事をするのは基本的に俺達だけだ。基本的に、というのは白龍や黒龍が、時々俺達と一緒に食事を共にすることもあるからである。最初の内はマナーのマの字も分からなかったが、今は俺と藍雛の調教により改善されている。と、これはあまり関係ないな。とにかく、俺達の分の食料がないというのは危機的だ。俺も好んで腹を空かせたままでいる気は無い。
「緋焔」
頭の中で買い出しメンバーを選んでいると藍雛が、これ以上ないのではないかと思うようなキラキラとした笑顔を俺に向ける。ぶっちゃけ、痛い感じまでするがそれを口に出してボコボコにされるほど馬鹿ではないので黙っておく。
「はぁ……分かったよ。じゃあ、買い出しメンバーは俺と藍雛とマウ。黒龍とスイと白龍は留守番だ」
「お兄ちゃん……スイの事嫌い?」
「訂正。スイもだ」
おい、藍雛とマウ。なに、人の眼の前でため息をついてるんだ。大体藍雛は今この瞬間もスイを撫でているのだから人の事は言えないだろう。俺は半ば呆れながら《ジッパー》を開き、中にある所持金の確認をする。が、中は元の世界の荷物だけで他の品物は一切入っていなかった。これが意味するのは……。
「あー……。盛り上がってる所悪いんだが……、金が無い」
「ええっ!?」
俺が苦々しい表情をしながらそう言うと、マウは目を見開いて驚く。
「それじゃあ……、お出かけは無いの?」
対して、隣のスイは買い物が出来ないからというより、出かける事が出来ない方がショックみたいだ。ちなみに、俺としては食事も出かけるのもどちらも問題だ。片方は生命に関わり、片方は癒しに関わる。つまり、どちらも欠けてはならない。
「金塊でも創造すればよいのではないかしら?」
「それでもいいんだが……」
さすがに1ヵ月も引きこもりをしていたから、大分体も鈍ってるだろうし。久しぶりにギルドにでも行って依頼でもやってみるか。
「よし、金を集める為にギルドに行くぞ」
「ギルドとは随分懐かしいわね。いいわ、行きましょう」
藍雛の承諾も得たところで、俺、藍雛、マウ、スイ、黒龍の足元に魔法陣を展開する。
「え?」
「黒龍は、着いたと同時に人型になれよ。《転移》」
俺が言うのと同時に魔法陣からは光が溢れ出し、俺達5人を包み込んだ。
俺達を包んでいた光が収まった時、木製の椅子に座りながら、これまた木製のテーブルに乗っている料理にがっついている、鎧を着たむさ苦しいオッサンやら、何やらが光の代わりと言わんばかりに俺達の周りにいた。
「うん、やっぱり記憶にある所なら大丈夫だな」
「随分と懐かしいわね」
俺達が約1ヵ月半分の感傷に浸っていると、後ろから肩を叩かれる。
「あ、あの……もしかして、緋焔さん?」
そのどこか聞き覚えのある声を聞いて振り返ってみると、そこにいたのは俺が初めて依頼を受けたときに受付嬢をやっていた、レイア=ランクフォードその人だった。
「レイアさん! お久しぶりです」
「こちらこそお久しぶり。長い間どこに行ってたんですか?」
「いやー、拉致られたりSランク以上の依頼受けたりといろいろあったんですよ」
「なるほど……。私には一割も分かりませんが、こちらで暮らすんですか?」
まあ、そりゃああんな説明で100%わかったらそっちの方がよっぽど怖い。
「いえ、ちょっとギルドカードの更新と、藍雛のギルドカードを作るのと、依頼をいくつか受けて帰ろうかなと」
「更新ですか? 分かりました、ちょっと待ってて下さいね。えっと、藍雛さんと言う方はこちらの紙に記入をお願いします」
「分かったわ」
レイアさんは、そう言うと俺のギルドカードを片手にカウンターの奥の扉に入っていく。その間、隙なので近くにあった適当なテーブルに座り、読み途中だった本に目を向ける。
横にはマウとスイが座り、反対側には人型になった黒龍と藍雛が座る。そして、藍雛が腰に着けていたポーチから、いつものティータイムセットとお茶菓子のクッキーを取り出す。
ポーチに入っていた物の大きさと、ポーチの大きさが釣り合っていない所を見ると、大方時空魔法で中の空間を弄ってあるんだろう。そんな事を頭の隅の方で考えながら、お気に入りのライトノベルを読み続ける。
昔からそうだったが、俺は物事に集中すると集中し過ぎるようで、よほどの事で無ければ情報が入ってこない。つまり、そのおかげでゆったりと読書が――
「なァ、ネェちゃん達よォ。俺達と一緒に依頼に行かねェか? 帰れるのは明日の朝だけどよォ」
――ブチン。と、情報が入らないはずの脳に一つの情報が入り、俺の脳内で勘忍袋の緒が真っ二つにぶった切られた。
「我達に近寄らないでちょうだい。この下種が」
「スイの認めた以外の下等生物に話し掛けられるなんて気持ち悪くて吐き気がする。今すぐ空間ごと消すよ」
と、勘忍袋の緒が切れたものの、藍雛とスイのおかげで行動に移す事は無かった。
このままキレるって言うのは得策じゃないな。よし、まずは落ち着こう。
………………よし、落ち着いた。
ふと、思ったんだが、どう見ても25を越えているお兄さん達が10代の女の子を口説くって、どう考えてもロリコンだな。末期か否かは別として。
「おォ、怖えェなァ。そっちのねェちゃんは随分とキツイなァ?」
「もしかして、若く見えるだけでとっくに20代にいってんじゃねェの?」
男達はそう言いながら、うざったく耳に纏わり付く笑いをしながら藍雛を見る。見られている藍雛はというと、なにやら顔を下に向けて肩をプルプルと震わせている。
「ん? どうしたよねェちゃん。もしかして怒っちゃったかァ?」
「《言葉の重み》。《ひざまづきなさい》」
藍雛がそう言うのと同時に、男達はそれが自身の意思で行ったかのように、自然な動作で藍雛の目の前にひざまづく。
「なんだァ!?」
だがしかし、この魔法はあくまでも行動を本人の意思に関わらず強制させる魔法の為、目の前の男から驚愕の声が発せられるのはある意味当然と言える。そして、その魔法を使った藍雛はというと、その目には若干の怒りと愉悦の色が浮かんでいる。
「20代ねぇ……。この我がとっくに20代に到達しているおばさんというのかしらね……?」
藍雛からは、黒を通り越して闇色なオーラが吹き出す。全く関係ないが、レイアさんがショックを受けている。
閑話休題。
それを見た男達は顔を真っ青になり、首をもげそうな勢いで振りながら何かを言おうと、口を開く。
「《黙りなさい》」
だが、藍雛の《言葉の重み》により、口は開き空気を漏らすだけで声を発する事は出来ない。
それを見た藍雛は更に愉しそうな表情を浮かべる。
「さて、どうしてあげようかしら? 土下座? 何かを貢ぐ? それとも定番の靴舐めでも……やっぱりダメね。他人の唾液なんて汚いもの」
……いや、藍雛にSっ気があったのは前から分かっていたが、ここまでとは思わなかった。普通の人ならもはやどん引きレベルだろう。
「落ち着けって藍雛」
「あら、我は最初からずっと冷静よ? さあ、緋焔。肩に乗せた手を退けてちょうだい、今からこの下種達に苦痛の果てにたどり着く快楽を刻むのだから」
「……その時点で冷静じゃないだろ」
俺は冷静にツッコミを入れる。と、その時、いつの間にか集まっていた野次馬の壁を切り開く様に通る人影がいた。
「ちよっとごめんなさい。通してください。あぅ……押さないでください……」
……あまりにもかわいそうだったので、野次馬達にちょっと通る道を作るように指示をする。優しい野次馬達が指示通り道を作ると、そこからは俺のギルドカードを持ったレイアさんが出てきた。
「や、やっと……。緋焔さん、これが更新したギルドカードです……。ランクは一番下のランクから、新設されたエクストラランクとなりました……。藍雛さんのカードはこちらになります。緋焔さんと同じくエクストラランクとなっています……」
レイアさんは疲弊しきっており、服も所々乱れてはいたが、恐らくマニュアル通りであろう対応をこなした。……疲れ具合は別として。
「ありがとう。質問が二つほどあるのだけれどいいかしら?」
「はい……」
「まず、なんで我のカードがあるのかしら? 書類も出していないのに」
「えっと、緋焔さんがカードを更新する際に一緒にカードをお渡ししろと、国から全ギルドに伝令が……」
……国から全ギルドって……やり過ぎだろう。確かに、藍雛は権力は使うものとは言っていたが……。
「分かったわ。二つ目の質問はエクストラランクとは何かしら?」
「えっと、国並びに全ギルド長からの同意があった場合になれるそうです。……ただ、別紙に表記されていた無理難題をこなした上でだけだそうですが……」
「無理難題?」
国並びに云々はまだ分かるが、俺達には無理難題をこなした記憶は全くない。いや、同意をもらえるような事をした覚えも無いけどね。
「えっと、天龍の巣を発見し、尚且つ龍達の8割以上を支配下におく……だそうです」
…………心当たりバリバリだよ。いや、実際発見もしたし、龍達の玉座にも座ってたが8割以上を支配下に置いた覚えはなぁ……。そう思った俺は、ふと黒龍の方に顔を向けた。が、そこに黒龍はおらず、代わりに野次馬に紛れようとゆっくりと移動していた。
……ほぅ?
「黒りゅ「《対象、黒龍》。《止まりなさい》」……まあ、いいか」
「さあ、黒龍。《ここに正座しなさい》」
藍雛がそう言うと、顔は必死の形相で首をぶんぶん振っているのに、体はスタスタと歩いてきて男達に並んで正座するという、シュールな黒龍がいた。
「あなた達はもういいわ。興が冷めたわね。《早く行きなさい》」
藍雛が男達にそう言うと男達は、全速力でギルドの外に駆けていった。一方残された黒龍は、目に涙をにじませながら未だに嫌々と言いながら首を振っている。もちろん、正座の体勢で首から上だけだが。
「言う事は無いかしら?」
「ぁ……」
黒龍は何かを言おうと口を金魚のようにぱくぱくさせるが、恐怖のせいなのか言葉が出ないらしい。それを聞いた藍雛は呆れたようにため息をつく。
「どうしようもない遺言だったわね」
「ちょっと待っ――!」
黒龍が何かを言う前に藍雛が指パッチンをする。そして――
タライ(水入り)が黒龍の頭に直撃し、キューっと言いながら黒龍は気絶した。
「……黒龍はいつからオチ要員になったんだ」
「それはいつもの事よ」
「痛そうだね、お兄ちゃん」
「実際痛いと思うよ……。大丈夫かな、黒龍さん」
マウの質問に分からないと答え、黒龍を見てから、そっと心の中で合掌する……。
作者「まず始めに、80万PV&10万ユニーク達成しました!」
エセ「まさかここまで行くとは思わんかったわ……。みんな本当にありがとうな」
作者「本当にありがとうございます!駄文で誤字脱字も多いですが、これからも頑張るのでよろしくお願いします!」
エセ「で、今回はなんでこんなに遅くなったんや?」
作者「えー、めでたい事の後で非常に言いづらいんですが…………ネトゲにはまりまして……」
エセ「ええ加減にせんかい!」
作者「グフォッ! ちょっ、アッパーカットは止めぃ!」
エセ「阿呆か!? 阿呆ちゃうか!? 期末テストの勉強無視しといてそれかいな!」
作者「だって……マビ○ギが予想以上に面白くて……」
エセ「ええ加減にせんかい!」
作者「グエッ!」
作者はご意見、ご感想、誤字脱字報告などなど常時楽しみにお待ちしています。