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別世界の道化師  作者: あかひな
三章
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第三十三幕 道化師と少女と決断


「緋焔、もう少しそっちに寄りなさい。狭いわ」


 藍雛はそう言うと自分は右側にスペースがあるのにも関わらず、俺を押してくる。


「んな事言ってもこっちも限界だ」


 左側にはマウがおり、これ以上寄ったらマウと密着する事になってしまう。撫でるときならいいが、この場合は俺の理性がロケットに載せられたかの如く吹き飛んでしまう。


「スイがお兄ちゃんの膝の上に乗ればいいんじゃないかな」

「スイちゃん、抜け駆けはダメだよ」


 ただいまのスイの発言のせいで鼻から愛情が出そうになったが、ぎりぎり踏み止まる。まあ、マウがいなかったらやばかったが。


「……お主らはなんなのじゃ」

「言わないで……私だって苦労してるんだから」


 そのテーブルを挟んだ反対側ではフィアとカトレアが呆れながらティーカップに口を付けている。

 いまさらだが、今いる場所は城の中庭で、その真ん中に近い辺りにテーブルと椅子を出して堂々と占拠している。

 しかも、気付きたくなかったから今までは無視していたが、所謂修羅場という奴だ。


 何故、俺が昨日の今日で修羅場を迎えなければならないか。それを知るためには、昨日までさかのぼらなければならない。




――――――





 意識にもやがかかったかのように目が覚める。眠りについた最後の方の記憶が曖昧だが、腹の辺りに違和感があることからフィアに殴られたんじゃないかという予想がつく。

 ……起きるか。なんか騒がしいし、元々自分の意思で寝た訳じゃないし。


「あー、よく寝た」

「「「…………」」」


 え?なにこのスーパードライな空気。ツンドラ地帯よりも冷たい空気なんだが。


「あの、俺なんかしましたか?」

「「別に……」」


 フィアとマウがジトーっとした目で俺を見る。……いくら二人が可愛くてもさすがに恐怖が先を行くぞ。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。何にも悪いことしてないから」

「あ、ああ」


 そんな空気の中で唯一スイだけが、優しく微笑んでくれる。うん、やっぱり癒されるな。

 さっきの3割増しで視線が痛いが。と、その時。閉じられていた部屋の扉がノックされる。


「失礼するのじゃ」

「失礼って分かっているなら帰れ」

「緋焔かの!?」


 部屋に入って来たのはカトレアだった。5日近くいなかっただけで、幽霊みたいに扱わないで欲しいな。


「ここにいると言うことは……」

「ああ、依頼の事でな。とりあえず、城の中で一番開けた所に行こう」

「……うむ。分かったのじゃ。一番開けた所は中庭かの」

「じゃあ、そこへ行くか《転移》」


 俺は場所を中庭にセットしてから、全員の足元に魔法陣を展開し、発動させて中庭に転移する。


「ちょっと緋焔。いきなり過ぎよ。一言くらい行ってくれてもいいじゃない」


 あのスーパードライな空気な中で話しかけてこいと言いやがりますか、この女王様は。無理です。ヘタレスキルを保有している俺には、そんな事はできません。


「で、依頼の話しとはなんじゃ?」

「ああ、とりあえず、ぐちぐち言うより見た方が早いと思ってな。百聞は一見にしかずって言うしな。という訳で、黒龍」

「了解だよ。《変化・龍型》」


 俺が黒龍に合図の目配せをする。そさて、黒龍は呪文を呟く。すると、さっきまで人型をしていた黒龍が、瞬時に龍型に変化する。


「なんじゃと!? 龍種が人の形を成すとは……」

「それについては後で説明してやる。ほら、黒龍。自分で言えよ」

「分かってるよ。えっと……なんて名前?」

「彼女はカトレアよ」


 黒龍の間抜けな表情を見て、藍雛が呆れながら名前を教える。相変わらず締まらないな……。


「街道で馬車を襲ったのは僕だよ。と言っても、悪意があった訳じゃ無くて興味本位で近付いたら、逃げられて……。しょうがないから食料だけ食べてたらいつの間にか襲ったって事になってて……悪かったね」

「そういう事じゃったのか……。しかし、食料とは言っても馬まで……いや。龍にしてみれば同じかの」


 黒龍から理由を聞いたカトレアは考えこむように一人でぶつぶつ言っていたが、しばらくするとさっきとは打って変わった晴れやかな表情をして顔をあげる。


「うむ、仕方がなかろう」

「言ってることと表情があってないぞ」

「ありがとう。お礼というか、お詫びにこれを……」


 黒龍はそういうと、鱗を数枚と、牙を一本引き抜きカトレアに手渡す。でかいから重いのかすぐに地面に置いてしまったが。


「良いのか? こんなに貴重な物をもらったりして……」

「うん。どっちみちすぐに生えてくるしね」

「ふむ、では遠慮無く頂こう」


 カトレアはそう言うと近くにいた兵士を呼び、宝物庫に運ぶように指示する。まあ、何はともあれ無事に話し合いが終わってよかった。


「そういえば、カトレアはフィアに用事があったのでは無いかしら?」


 それまで、ゆったりと紅茶を飲んでいた藍雛が唐突にそんな事を言いだす。それを聞いたカトレアは何かを思い出したように手を叩く。


「そうじゃった。フィア、そろそろ会議の時間じゃ」

「え? もうそんな時間だったの? ごめんなさい、急いで支度するわ」

「よい、どうせ見たくもない豚っ腹の口喧嘩があるだけじゃ」

「会議って……豚っ腹って、貴族相手だろう? なんでそんな大事そうな会議にフィアが参加しなくちゃならないんだ?」


 てか、この国の中でそこそこ位の高い貴族を豚呼ばわりな……。まあ、王女様だし、問題無いといえば、問題無いが。

 仮に、カトレアの進言で会議に参加してるとしたら、邪魔でしか無いし。なにより、フィアに政務のうんぬんなんて分かるとは全く思えないしな。


「あれ? 言ってなかったっけ? 私、王都騎士団の魔法隊の第2隊の隊長になったのよ」


 あー、王都騎士団の魔法隊って言うと、エリートしかなれない王都騎士団の中の魔法部隊か。確か、リックが所属してたはず。って―――。


「はぁ!?」

「緋焔、静かにしなさい」


 あまりの驚きに思いっきり叫んでしまうが、横に来ていた藍雛に黙らせられる。

 今、この国は隣の国と戦争を始める始めないのぎりぎりの境にいる。そんな状況で国の、しかも精鋭部隊に入るという事は戦争に参加するという事を意味する。


「……とりあえず、立ち話ではなく座って話しましょうか。《創造》」




――――――




 こうして、今に至る訳だ。


「で、どうして今なんだ」

「それは……」

「妾が推薦したのじゃ。緋焔、聞けばお主は別の世界から来たそうじゃな?」

「ああ、そうだけど」

「この国、いや、世界かも分からぬが、とにかく、この国には異なる世界から何かを連れてくる魔法など存在せんのじゃ」

「そんな訳無いだろ、事実、俺はフィアに喚び出されてここにいるんだ」


 もし、仮にこの世界に召喚する魔法が無いとしたら、俺がこの世界に喚ばれたのはおかしい。来る事どころか、見ることすら叶わないはずだからな。


「ふむ、緋焔。お主は魔法というものがどういう物なのか理解しているのかの?」

「魔力を使って、結果を生み出すんじゃないのか?」


 あまりに唐突な質問に、気の抜けた顔をしながら答えると、それを聞いたカトレアは呆れながらため息をついてやれやれといった動作をする。……なんか腹立つな。


「この世界は、完全ではないのじゃ。

 魔法とは、魔力を使い本来その場には起こっているはずのない現象を魔力を媒体とし無理矢理生み出しておるのじゃ。

 つまり、新たな魔法を見つけるには、新しい世界の決まりの穴を見つければよいのじゃ」

「なるほど、世界のバグを見つけて利用してる訳か。理解した。が、それとフィアの入団のなんの関係があるんだ?」

「それは、彼女が天才以上に天才だからです」


 魔法の仕組みを理解はしたが、それとフィアの王都騎士団の入団の関係が全く関係が無いように思える。その当たり前の質問をした時、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。


「おお、リックか。久しぶり」

「久しぶりです、緋焔さん。また女の人を増やして……」


 またとはなんだ、またとは。好きで女の子ばかり増やしている訳じゃないっていうのに……。まあ、嬉しいけどな。


「藍雛よ。こっちはスイ。よろしく頼むわね」

「よろしくお願いします。ところで姫様、会議が始められないんです。早く来て下さい」


 リックは、藍雛達と適当に挨拶を交わすとカトレアの方に向き直り、あからさまに困った表情をする。


「いいのじゃ、あんな奴らは。それより、リック。緋焔に今の話の続きをしてやるのじゃ」

「良くないですよ! 大事な会議だっていうのに姫様は――」


 と、リックがカトレアに説教をしようと口を開き、言葉を続けようとしたところで、スイがリックのローブの服を軽く掴み見上げるような体勢になる。


「話……教えて?」

「――っ! よ、喜んで!」


 ……リックよ。犠牲者となったか。まあ、俺もやられていたらあれ以上になっただろうから、人の事は言えないけどな。


「で、フィアが天才ってどういう事だ?」

「はい。さっき、新しい魔法を見つけるには、世界の穴を見つけなければいけないと言いましたが、それは一族の間に伝えていって早くて3代目に発見できるかどうかです。」

「ちなみに、リックのように一代で見つけるのはどのくらいの確率なんだ?」

「そうですね……。僕のは理論なら既にあったので、魔力の質と見積もって……大体、100年から500年に一人か二人位じゃないでしょうか」

「じゃあ、フィアは?」


 リックのが100年から500年なら、フィアは1000年に一人くらいか?だとしたら、ものすごい確率だな。魔力の質も必要となると、フィアが引き抜かれた理由も理解できるな。だからといって、オーケーするわけじゃあないが。


「フィアさんは……世界で唯一の穴を見つけて、なおかつ利用した魔法を使いました。今までも、これからも恐らく最低1億年は同じ魔法を使える人はいないはずです」

「1億年とは、いくらなんでも長すぎでは無いかしら? フィアをおとしめるつもりは無いけれど、いくらなんでも確率としてはあまりにも膨大よ」


 藍雛の言う通り、未来1億年にしても過去1億年にしても数字が膨大すぎる。しかし、もし本当ならフィアは正しく天から才能をもらったということになるほどの天才だ。


「なら、言い換えましょう。未だに確立されていない世界の新たな決まりの穴を見つけて、更に同一人物がその魔法を使える質であるためには、どれだけの確率だと思うんですか?」

「……そうね、疑って済まなかったわ」


 藍雛も納得したのか、軽く頭を下げる。


「それで、フィアはどうしたい? このまま騎士団にいたら、間違いなく戦争にかりだされる。今なら抜ける事も出来るはずだ」

「私は――」


 フィアは、その続きを喋ろうとするが、口を閉じ、黙り込む。その間、誰も口を開く者はいない。そして、決心が付いたのか、俺達の目を見ながら口を開く。





作者「どうも、神薙です」

エセ「タフナや」

作者「今回は更新が遅くなってすみませんでした」

エセ「毎回遅いけど、今回はどうしたんや?」

作者「書いてあったのに更新するのを忘れてt(殴」

エセ「このアホ作者がっ!なにやっとるんや!」

作者「ちょ、ごめんなさい!痛っ!爪で叩くな!地味に痛い!」

エセ「まったく……次からはちゃんとせえよ?」

作者「はい、すみませんでした……」


作者は、ご意見、ご感想、誤字脱字報告等々、常時募集しています。

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