第二十九幕 道化師と孵化
一割・・・。
二割・・・。
ピシッ
そして、俺の魔力の内三割程を卵に与えた所で、ピシリと何かに亀裂が入る音がする。
ミシミシ
続いて、卵の殻全体に細かな亀裂が入り魔力が辺りに漏れ出す。
「生まれるぞ!」
白龍がそう言い、辺りに少し厚めの結界をはる。
・・・が、そこからは何も変化が無い。
「・・・白龍?」
「す、済まぬ。久方ぶり過ぎて、タイミングを誤った」
「次に間違えたら・・・分かるわね?」
「う、うむ」
憐れ白龍、と心の中で呟いた俺はもう一度卵に向き直る。それにしても、何にも反応が無いってのはな・・・。
「・・・面倒くさいわね。《創造、『鉄の剣』》」
藍雛がどこにでもある鉄の剣を創造し、俺に手渡してくる。
「・・・何か?」
「ちょっとアレの殻を剥いてきなさい」
「拒否け「あるわけ無いじゃない」・・・行ってきます」
俺は剣を片手に卵の殻を斬ろうと構える。泣いてなんかないんだからねっ!・・・スミマセン。
俺は気を取り直し呼吸を整え、殻の表面だけを狙うように剣を振るう。
バキンッ
・・・何と言う事でしょう。出来立てホヤホヤの鋭い鉄の剣が、卵の殻に当たった瞬間に柄と数センチを残して、折れてしまったではありませんか。って、ギャグやってる場合じゃない!どんだけ硬いんだよ、この卵!
「随分と硬いわね」
「そんなに軟らかくても困るがな。生半可な剣では斬る事はおろか、傷すら付けられぬだろう」
・・・白龍さん、そう言う事は早く言おうよ。あんまりにも簡単に折れすぎて、つんのめったじゃないか。
「・・・白龍。さっき言ったわよね?そういう事は、早く言いなさいと」
「済まぬ! わざとではない故、命だけは!」
「冗談よ。全く、本気にとらないでちょうだい」
いや、藍雛さん。わざわざ怒気を纏いながらあんな事を言ったら、誰だってああなるから。
「さて、気を取り直して・・・緋焔、エクスカリバーを使ってもいいから、この卵の殻を剥がしなさい。つまらないし、何より、時空龍というものがどんなものか気になるわ」
「・・・了解。《創造、『エクスカリバー』》」
俺は毎度お馴染み、超有名な聖剣エクスカリバーを創りだし、1割ほど魔力を流し込む。若干、魔力が多過ぎてエクスカリバーが震えているが、気にせずに再度、殻だけを狙ってエクスカリバーを振るう。
エクスカリバーを一振りするだけで、殻は剥がれ、辺りに魔力が満ちる。
「・・・くるわね」
俺の後ろで、藍雛は魔力の濃度から目的の生物が現れる事を悟り、思わず声を漏らす。そして、俺は最後の一振りをし、殻を斬り飛ばす。
すると、中からは尻尾が水色で頭が白のグラデーションになっている、1メートル程の龍が現れた。目がくりっとしていて、キョロキョロと辺りを見回す様は、とてもかわいらしく、今すぐにでも抱き着いて撫でたい衝動に駆られる。が、我慢する。とりあえず、危ないのでエクスカリバーはジッパーを使い、収納しておく。
「キュ?」
「よしよし。可愛いわね」
「キュ、キュイー!」
藍雛、いつの間に龍の所に移動したんだ。それと、龍が逃れようとじたばたしてるが、力加減は大丈夫なんだろうか。
「キュー!」
藍雛が力を緩めた瞬間に、時空龍はすっぽ抜けるように腕からのがれ、俺達と藍雛の間に着地し、俺と藍雛を交互に見比べている。
「キュ?キュ?キュイ?」
「・・・白龍、何て言ってるか分かるか?」
「どうやら、どちらが親か分からなくなっているようだ。お主らは魔力の質が見分けがつかぬからの」
「そりゃあ、元同一人物だからな。ほら、こっちだ」
俺は真ん中で慌てている龍の、あまりの可愛さに和んでいたが、さすがにかわいそうになったので手を叩いて呼んでやる。
「キュ!」
すると、龍は嬉しそうにちょこちょことこちらに向かって歩いて来て、俺に飛び付く。
「よしよし、可愛いな」
「キュー」
俺が撫でてやると、龍は気持ち良さそうに目を細める。にしても、可愛いな。そういえば、こっちの世界では動物はあまり飼ってなかったな。何でだろう?・・・まあ、龍が可愛いからいいか。
「緋焔、ずるいわよ。我にもその子を撫でさせてちょうだい」
「悪いんだけど、先にその子に名前をつけてくれないかな?」
藍雛が龍を撫でている俺を見て、嬉々とした表情で俺に近寄り、龍を抱こうとするが、黒龍がそれを遮るように言う。
「名前? 名前をつけるのか」
「それはそうだよ。龍じゃあ、人間を人間って呼んでるようなものだからね」
「それもそうね。・・・という事はあなた達にも名前があるのかしら?」
「もちろんだ。まだ、教える事は出来ぬがな」
「何故教えられないのかしら?」
「我等は主と名付けたものと自らしか、名を伝えてはならぬ故な。名を知られた場合は、例え人間であろうと使役されてしまう」
なるほどな。まあ、名を知るっていうのはそれだけ大事なんだろう。・・・あれ?
「なあ、人間の俺達が名付け親になっても大丈夫なのか?」
「卵からかえしたのはお主らだから、問題無かろう」
藍雛は納得したように頷くと、また、椅子に座り直し自分と黒龍のティーカップに紅茶を注ぐ。てか、すっかり黒龍も馴染んだな。
「さて、どんな名前にしようかしら」
「そうだな・・・」
「ドラコというのは「却下」・・・別にいいではないの」
「そうだな・・・。スイっていうのは?」
天龍→天→スカイ→スイってな感じで。
そこ、単純とか言わない。
「そう言う緋焔だって、単純ではないの。いっその事、本人・・・ではなくて、本龍に決めてもらおうかしら?」
「キュ?」
「そうだな」
俺は抱いていた龍を藍雛と俺の真ん中に立たせる。
「いいか、スイって名前がよかったら俺の方に、ドラコって名前がよかったら藍雛の方に行くんだぞ」
「キュー!」
俺はそう言って、龍から少し距離をとり、藍雛の横に並ぶ。
「・・・何故我の横に来るのよ」
「別に。特に理由は無い」
俺も空間から椅子を取り出し、藍雛の横に椅子を置き、そこに座る。
ちなみに、藍雛の横に座った理由はホントに無いが、強いて言うなら、なんか落ち着くからだ。
「それでは時空龍殿、選んでいただいてよいだろうか」
「キュ!」
白龍が時空龍にそう言うと、時空龍は任せろと言うように一鳴きし、俺達の方に向かってちょこちょこと歩いてくる。・・・相変わらず和むなぁ。
と、和んでいたらいつの間にか俺達の前まで来ていた時空龍が、俺と藍雛を見比べている。
「キュー・・・」
「こっちよ、ドラコ」
藍雛、既に決定してるのか。藍雛の名前になるとも限らないと言うのに・・・。まあ、幸せなのはいい事だよな。
数分ほど見比べていたようだったが、ついに決まったのか、また一鳴きしてちょこちょこと歩き出す。
「勝ったわね」
藍雛が早くも勝利宣言をし、紅茶を飲む。
「キュ!」
そして、時空龍は自らの名前をつけた方の膝に飛び乗る。
「新しい王の名前は・・・スイみたいだね」
龍ことスイが飛び乗ったのは、藍雛の膝の上ではなく俺の膝の上だった。俺はそのまま、スイの頭を撫でる。
「よしよし。お前の名前はスイだ」
「キュー!」
「・・・・・」
藍雛さん藍雛さん、怖いのでそんな顔で俺を見ないで下さいな。
今なら阿修羅だって逃げ出すよその顔。めちゃくちゃ怖いもん、腕の中にいるスイまでがたがた震えてるし。
世界最高の生物が震える程の恐怖を放つ藍雛って、一体なんなんだ。・・・あ、俺か。
「・・・まあ、仕方ないわね。こんな可愛い子に嫌がる名前は付けられないもの」
藍雛はそう言って、諦め切れないような残念そうな顔をしながら紅茶を飲む。俺は、藍雛によってびくびくしている時空龍を撫でて落ち着かせる。・・・ほんっとに可愛いなぁ。
「・・・緋焔殿、そろそろいいだろうか」
俺がまったりとスイを撫でていると、白龍が遠慮がちに話し掛けてくる。
「あー・・・。魔力の供給があったのか」
「出来れば一刻も早くして欲しい――っ!」
「どうかしたか?黒龍」
なかなか行動を起こさない俺を急かす為に、黒龍が話し掛けてくるが、突然、藍雛の方を睨み付ける。まあ、いきなりリミッターを緩めた藍雛も悪いといえば、悪いんだが。だがしかし、理由があるんだし、別に俺は藍雛を責めたりはしないが。
「どうしたじゃあないよ!藍雛は何を「魔力の供給」・・・は?」
「は? じゃないわよ。魔力、必要なのでしょう? 時空龍の代わりに我が供給するだけよ」
藍雛はそう言って、魔力を手に集めている。大体、総量の1割未満、0.5割以上といった所だろうか。
「これぐらいで足りるかしら?」
「じゅ、十分過ぎる程に足りている。それを、地中にそのままぶつけるようにさえすれば、魔力の供給は終わりだ」
「分かったわ。少し下がっていてちょうだい。《魔法石までの障害物を破壊》」
藍雛は、《破壊》を使い、魔法石までの障害になるような物を全て破壊し、魔法石までの直通の通路を作る。
中を覗き込むと、ダイヤのような形をした青い宝石のような物が、青白い光を弱々しく放っている。
「キュー!」
「そうだな。綺麗だな」
「緋焔殿、スイ殿が言っている事が分かるのか?」
俺達のやり取りを聞いた白龍が、スイを撫でながら和んでいる俺に、驚いたような表情で話し掛けてくる。
「いや、全く分からん」
「・・・・・」
ちょっ、そんな眼で見ないで。俺は痛い子じゃないから、そんな眼で見られても耐えられないから。
「・・・終わったわよ」
藍雛が、一人心の中で悶えている俺を見て、冷たい目で俺を見ながら、魔力の供給が終わったことを告げる。・・・見損ねた。
「どーもありがとう。・・・それにしても随分沢山だったね。数千年は飛んでいられるんじゃないかな」
「まあ、いいじゃない。あとが楽で」
と、藍雛はニコニコと笑いながらそう言うが、俺は黒龍が、とても小さな声で「魔法石が壊れなくてよかった・・・」と、呟いていたことを聞き逃してはいなかった。
作者「どうも、神薙です。ついに60万PV&8万ユニーク達成です。みなさん、ホントにありがとうございます」
エセ「タフナや。まさかここまでいくとは思わへんかったわ」
作者「ホントに夢みたいだよ。・・・まさか夢じゃ(殴」
エセ「どうしたら、起きたまま夢を見れんねん。現実や」
作者「めちゃくちゃ嬉しいです。まだまだ続くけど、応援よろしくお願いします。・・・さて、全く関係ないけど感想が少ない」
エセ「暗っ!さっきのテンションはどこにいったんや」
作者「それはそれ。これはこれ。だって、制限外したのに、誰ひとり感想書いてくれないし」
エセ「…あんまり変わらへんやろ」
作者「とにかく頑張ります!感想くれたらもっと頑張ります!」
作者は、誤字脱字、ご意見ご感想を常時お待ちしています!