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別世界の道化師  作者: あかひな
二章
31/94

第二十九幕 道化師と孵化


 一割・・・。


 二割・・・。


 ピシッ


 そして、俺の魔力の内三割程を卵に与えた所で、ピシリと何かに亀裂が入る音がする。


 ミシミシ


 続いて、卵の殻全体に細かな亀裂が入り魔力が辺りに漏れ出す。


「生まれるぞ!」


 白龍がそう言い、辺りに少し厚めの結界をはる。




 ・・・が、そこからは何も変化が無い。




「・・・白龍?」

「す、済まぬ。久方ぶり過ぎて、タイミングを誤った」

「次に間違えたら・・・分かるわね?」

「う、うむ」


 憐れ白龍、と心の中で呟いた俺はもう一度卵に向き直る。それにしても、何にも反応が無いってのはな・・・。


「・・・面倒くさいわね。《創造、『鉄の剣』》」


 藍雛がどこにでもある鉄の剣を創造し、俺に手渡してくる。


「・・・何か?」

「ちょっとアレの殻を剥いてきなさい」

「拒否け「あるわけ無いじゃない」・・・行ってきます」


 俺は剣を片手に卵の殻を斬ろうと構える。泣いてなんかないんだからねっ!・・・スミマセン。

 俺は気を取り直し呼吸を整え、殻の表面だけを狙うように剣を振るう。


 バキンッ


 ・・・何と言う事でしょう。出来立てホヤホヤの鋭い鉄の剣が、卵の殻に当たった瞬間に柄と数センチを残して、折れてしまったではありませんか。って、ギャグやってる場合じゃない!どんだけ硬いんだよ、この卵!


「随分と硬いわね」

「そんなに軟らかくても困るがな。生半可な剣では斬る事はおろか、傷すら付けられぬだろう」


 ・・・白龍さん、そう言う事は早く言おうよ。あんまりにも簡単に折れすぎて、つんのめったじゃないか。


「・・・白龍。さっき言ったわよね?そういう事は、早く言いなさいと」

「済まぬ! わざとではない故、命だけは!」

「冗談よ。全く、本気にとらないでちょうだい」


 いや、藍雛さん。わざわざ怒気を纏いながらあんな事を言ったら、誰だってああなるから。


「さて、気を取り直して・・・緋焔、エクスカリバーを使ってもいいから、この卵の殻を剥がしなさい。つまらないし、何より、時空龍というものがどんなものか気になるわ」

「・・・了解。《創造、『エクスカリバー』》」


 俺は毎度お馴染み、超有名な聖剣エクスカリバーを創りだし、1割ほど魔力を流し込む。若干、魔力が多過ぎてエクスカリバーが震えているが、気にせずに再度、殻だけを狙ってエクスカリバーを振るう。

 エクスカリバーを一振りするだけで、殻は剥がれ、辺りに魔力が満ちる。


「・・・くるわね」


 俺の後ろで、藍雛は魔力の濃度から目的の生物が現れる事を悟り、思わず声を漏らす。そして、俺は最後の一振りをし、殻を斬り飛ばす。


 すると、中からは尻尾が水色で頭が白のグラデーションになっている、1メートル程の龍が現れた。目がくりっとしていて、キョロキョロと辺りを見回す様は、とてもかわいらしく、今すぐにでも抱き着いて撫でたい衝動に駆られる。が、我慢する。とりあえず、危ないのでエクスカリバーはジッパーを使い、収納しておく。


「キュ?」

「よしよし。可愛いわね」

「キュ、キュイー!」


 藍雛、いつの間に龍の所に移動したんだ。それと、龍が逃れようとじたばたしてるが、力加減は大丈夫なんだろうか。


「キュー!」


 藍雛が力を緩めた瞬間に、時空龍はすっぽ抜けるように腕からのがれ、俺達と藍雛の間に着地し、俺と藍雛を交互に見比べている。


「キュ?キュ?キュイ?」

「・・・白龍、何て言ってるか分かるか?」

「どうやら、どちらが親か分からなくなっているようだ。お主らは魔力の質が見分けがつかぬからの」

「そりゃあ、元同一人物だからな。ほら、こっちだ」


 俺は真ん中で慌てている龍の、あまりの可愛さに和んでいたが、さすがにかわいそうになったので手を叩いて呼んでやる。


「キュ!」


 すると、龍は嬉しそうにちょこちょことこちらに向かって歩いて来て、俺に飛び付く。


「よしよし、可愛いな」

「キュー」


 俺が撫でてやると、龍は気持ち良さそうに目を細める。にしても、可愛いな。そういえば、こっちの世界では動物はあまり飼ってなかったな。何でだろう?・・・まあ、龍が可愛いからいいか。


「緋焔、ずるいわよ。我にもその子を撫でさせてちょうだい」

「悪いんだけど、先にその子に名前をつけてくれないかな?」


 藍雛が龍を撫でている俺を見て、嬉々とした表情で俺に近寄り、龍を抱こうとするが、黒龍がそれを遮るように言う。


「名前? 名前をつけるのか」

「それはそうだよ。龍じゃあ、人間を人間って呼んでるようなものだからね」

「それもそうね。・・・という事はあなた達にも名前があるのかしら?」

「もちろんだ。まだ、教える事は出来ぬがな」

「何故教えられないのかしら?」

「我等は主と名付けたものと自らしか、名を伝えてはならぬ故な。名を知られた場合は、例え人間であろうと使役されてしまう」


 なるほどな。まあ、名を知るっていうのはそれだけ大事なんだろう。・・・あれ?


「なあ、人間の俺達が名付け親になっても大丈夫なのか?」

「卵からかえしたのはお主らだから、問題無かろう」


 藍雛は納得したように頷くと、また、椅子に座り直し自分と黒龍のティーカップに紅茶を注ぐ。てか、すっかり黒龍も馴染んだな。


「さて、どんな名前にしようかしら」

「そうだな・・・」

「ドラコというのは「却下」・・・別にいいではないの」

「そうだな・・・。スイっていうのは?」


 天龍→天→スカイ→スイってな感じで。

そこ、単純とか言わない。


「そう言う緋焔だって、単純ではないの。いっその事、本人・・・ではなくて、本龍に決めてもらおうかしら?」

「キュ?」

「そうだな」


 俺は抱いていた龍を藍雛と俺の真ん中に立たせる。


「いいか、スイって名前がよかったら俺の方に、ドラコって名前がよかったら藍雛の方に行くんだぞ」

「キュー!」


 俺はそう言って、龍から少し距離をとり、藍雛の横に並ぶ。


「・・・何故我の横に来るのよ」

「別に。特に理由は無い」


 俺も空間から椅子を取り出し、藍雛の横に椅子を置き、そこに座る。

 ちなみに、藍雛の横に座った理由はホントに無いが、強いて言うなら、なんか落ち着くからだ。


「それでは時空龍殿、選んでいただいてよいだろうか」

「キュ!」


 白龍が時空龍にそう言うと、時空龍は任せろと言うように一鳴きし、俺達の方に向かってちょこちょこと歩いてくる。・・・相変わらず和むなぁ。

 と、和んでいたらいつの間にか俺達の前まで来ていた時空龍が、俺と藍雛を見比べている。


「キュー・・・」

「こっちよ、ドラコ」


 藍雛、既に決定してるのか。藍雛の名前になるとも限らないと言うのに・・・。まあ、幸せなのはいい事だよな。

 数分ほど見比べていたようだったが、ついに決まったのか、また一鳴きしてちょこちょこと歩き出す。


「勝ったわね」


 藍雛が早くも勝利宣言をし、紅茶を飲む。


「キュ!」


 そして、時空龍は自らの名前をつけた方の膝に飛び乗る。




「新しい王の名前は・・・スイみたいだね」




 龍ことスイが飛び乗ったのは、藍雛の膝の上ではなく俺の膝の上だった。俺はそのまま、スイの頭を撫でる。


「よしよし。お前の名前はスイだ」

「キュー!」

「・・・・・」


 藍雛さん藍雛さん、怖いのでそんな顔で俺を見ないで下さいな。

今なら阿修羅だって逃げ出すよその顔。めちゃくちゃ怖いもん、腕の中にいるスイまでがたがた震えてるし。

世界最高の生物が震える程の恐怖を放つ藍雛って、一体なんなんだ。・・・あ、俺か。


「・・・まあ、仕方ないわね。こんな可愛い子に嫌がる名前は付けられないもの」

 藍雛はそう言って、諦め切れないような残念そうな顔をしながら紅茶を飲む。俺は、藍雛によってびくびくしている時空龍を撫でて落ち着かせる。・・・ほんっとに可愛いなぁ。


「・・・緋焔殿、そろそろいいだろうか」


 俺がまったりとスイを撫でていると、白龍が遠慮がちに話し掛けてくる。


「あー・・・。魔力の供給があったのか」

「出来れば一刻も早くして欲しい――っ!」

「どうかしたか?黒龍」


 なかなか行動を起こさない俺を急かす為に、黒龍が話し掛けてくるが、突然、藍雛の方を睨み付ける。まあ、いきなりリミッターを緩めた藍雛も悪いといえば、悪いんだが。だがしかし、理由があるんだし、別に俺は藍雛を責めたりはしないが。


「どうしたじゃあないよ!藍雛は何を「魔力の供給」・・・は?」

「は? じゃないわよ。魔力、必要なのでしょう? 時空龍の代わりに我が供給するだけよ」


 藍雛はそう言って、魔力を手に集めている。大体、総量の1割未満、0.5割以上といった所だろうか。


「これぐらいで足りるかしら?」

「じゅ、十分過ぎる程に足りている。それを、地中にそのままぶつけるようにさえすれば、魔力の供給は終わりだ」

「分かったわ。少し下がっていてちょうだい。《魔法石までの障害物を破壊》」


 藍雛は、《破壊》を使い、魔法石までの障害になるような物を全て破壊し、魔法石までの直通の通路を作る。

 中を覗き込むと、ダイヤのような形をした青い宝石のような物が、青白い光を弱々しく放っている。


「キュー!」

「そうだな。綺麗だな」

「緋焔殿、スイ殿が言っている事が分かるのか?」


 俺達のやり取りを聞いた白龍が、スイを撫でながら和んでいる俺に、驚いたような表情で話し掛けてくる。


「いや、全く分からん」

「・・・・・」


 ちょっ、そんな眼で見ないで。俺は痛い子じゃないから、そんな眼で見られても耐えられないから。


「・・・終わったわよ」


 藍雛が、一人心の中で悶えている俺を見て、冷たい目で俺を見ながら、魔力の供給が終わったことを告げる。・・・見損ねた。


「どーもありがとう。・・・それにしても随分沢山だったね。数千年は飛んでいられるんじゃないかな」

「まあ、いいじゃない。あとが楽で」


 と、藍雛はニコニコと笑いながらそう言うが、俺は黒龍が、とても小さな声で「魔法石が壊れなくてよかった・・・」と、呟いていたことを聞き逃してはいなかった。




作者「どうも、神薙です。ついに60万PV&8万ユニーク達成です。みなさん、ホントにありがとうございます」

エセ「タフナや。まさかここまでいくとは思わへんかったわ」

作者「ホントに夢みたいだよ。・・・まさか夢じゃ(殴」

エセ「どうしたら、起きたまま夢を見れんねん。現実や」

作者「めちゃくちゃ嬉しいです。まだまだ続くけど、応援よろしくお願いします。・・・さて、全く関係ないけど感想が少ない」

エセ「暗っ!さっきのテンションはどこにいったんや」

作者「それはそれ。これはこれ。だって、制限外したのに、誰ひとり感想書いてくれないし」

エセ「…あんまり変わらへんやろ」

作者「とにかく頑張ります!感想くれたらもっと頑張ります!」


作者は、誤字脱字、ご意見ご感想を常時お待ちしています!

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