第二十三幕 道化師と少女
「全く、緋焔には困ったものね」
我はそう呟き、ため息をつく。まあ、我でもそうしていただろうから責める事は出来ないし、責めるつもりも毛頭ないけれど。
けれど、タイミングとしてはちょうどいいわね。そろそろ、我に出番があってもいいはずだし、能力は・・・《破壊》をもらっていくとしましょうか。
さあ、緋焔にだけ楽しい思いはさせないわよ。
我は、《我が実体化出来ないという事実を破壊》する。
「・・・どこだよここ」
俺は、誰も答えないと心の底で分かっていても、微かな希望を抱いて呟く。が、誰も答えない。それも当然で、今いる場所は中間地点とは正反対に、俺以外は全てが真っ黒。真っ暗じゃなくて、真っ黒。中心なのか、外れなのか、はたまたその真ん中なのか。それすら分からないほど真っ黒。何も見当たらないし、誰もいる気配は無い。いるのは俺だけだ。よく見ているわけじゃないけど、感覚で分かる。
「確かに、我達以外は誰もいないわね。まあ、場所を考えれば当然なのだけれど」
俺は、声が聞こえた方向、後ろをゆっくりと振り向く。しかし・・・。
「いない?」
後ろも、前と同じように真っ黒な空間があるだけで、誰かどころか、何も無い。
「幻聴・・・なわけないか」
俺が8割くらい本気で幻聴ではないかと、考えていると、肩を叩かれる。間違いなく、俺以外に誰かがいる。俺は誰か確かめるため、肩に置かれた手を掴み、振り返る。
むにっ
俺が振り返ると、待ち伏せたかのように―――訂正。あらかじめ待ち伏せていた人差し指が、俺の頬を突く。しかし、俺の目線が行ったのはそこではなかった。
俺の頬を突いていたのは、満面の笑みを浮かべた少女だった。・・・同じくらいの年齢(だと思う)の女の子を少女というのは、何か間違ってる気がするけど。
「どう? 驚いたかしら?」
「え? あ、ああ」
俺がそう答えると、少女はニコニコとしたまま少し離れる。そこで、俺は更に目線を釘付けにされた。
「可愛い、後は・・・俺と同じ髪の色なんて珍しい。で、合っているわね?」
・・・もう呆然とするしかない。というか、なんで考えてる事が分かったんだ?あともう一つ言うと、実際可愛いとはいえ自分の事を可愛いって言うのってどうなんだろうか。
「さて、余分な事に時間を使っている暇は無いわね。とりあえず、強制的に起きてもらうわよ」
「一体どういう「《緋焔が眠っているという事実を破壊》」
せめて事情を説明してくれよ・・・。そう考えるのとほぼ同時に俺は意識を失った。
――――――――――――――
「んぅ・・・」
ゆっくりと意識がはっきりとしていく。そうして、意識が戻っていくのと比例してさっきのあの変な事が夢だったんだなと思う。
「すぅ・・・」
・・・いやいやいやいや。おかしいだろこの既視感。
なんでさっき夢に出て来た女の子が、俺のベッドに一糸纏わぬ姿で潜り込んで丸まって寝てるのかな?残念なが・・・ゲフンゲフン。幸い、掛け布団が邪魔をして見えてはいけない所は全部隠れているけど。
健全な男子高校としては、とても嬉しいが、フィア達にバレない内にさっさと隠すかどうかしないと非常にマズイ。だがしかし、こういう時は大概フラグというものが発生するわけで・・・。
「緋焔、起きてる?」
「ヒエン、大丈夫だった?」
ほーら来たよ。
部屋に入って来た瞬間のフィアとマウはとても心配そうだったが、俺の横に少女がいると分かった瞬間に阿修羅も真っ青な怒気を身に纏う。
「緋焔・・・その娘誰?」
いや、知らないです分からないですから、その手に出現させた火球を消して下さい。マウも無言で満面の笑みを浮かべるのは止めてください。いつもなら、可愛いはずの笑みが怖いですから。
と、最強のはずの俺が二人に怯えている時だった。
「ん〜・・・。よく寝たわね。あら、緋焔だけではなくフィアとマウもいたのね。おはよう」
・・・・・違うだろ。
「いやいやいやいや」
「どうしたのよ、緋焔。そんなに興奮して。・・・まさか、我の体に見とれて「違うから」・・・つまらないわね」
と、二人がいる前で言われると笑えない冗談をぶった切る。
てか、マジで一瞬二人の怒気が殺気に変わったからね。うん、ホントに洒落にならない。
てか、いつの間に服着たんだ。
「緋焔」
「は、はい?」
「とりあえず、授肉してもらえないかしら。やっぱり、事実の破壊だけでは限界があるわ」
・・・・はい?
何を言ってるのかさっぱり分からん。授肉って、もう体あるじゃないか。
「じゃあ、触ってみるかしら? 触れないから」
「いや、流石にこの状況じゃあ・・・」
パキン
俺が無理と言おうとした瞬間に、何かが割れるような音が鳴り、フィア達の半ば殺気と化していた怒気が感じられなくなる。
「時間の流れを一時的に破壊したわ。フィア達は動く事はおろか、見ることも考える事も出来ないわ。・・・ここまでやって、触らないということは無いわよね」
・・・何て言うか強引だな。というか、ここまでやられたって触れないものは触れな―――
ガバッ
ぽすん
「無理だったでしょう」
・・・・無理矢理過ぎるだろ。いくら俺が触る気配が無いからって、自分から飛び掛かってくるのは反則じゃないかと思う。ちなみに、結果はこの娘が言った通り。触るどころか、掠りもしない。というか、透り抜けた。
「だから言ったでしょう。授肉が必要だと。我が破壊したのは『実体化出来ないという事実』よ。実体化は出来ても、授肉は出来なかったのよ」
「授肉って言ってもな・・・。やり方なんて知らない――」
「我の今のままの姿が存在すると考えるだけよ」
「それだけ?」
「それだけよ」
・・・やってあげてもいいんだけど、めんどくさいんだよな。そう考えていると、彼女の手の上にどこかで見覚えのあるP○Pが出現する。あれ?あの画面のひびって・・・。
「もちろん、緋焔のよ? もし、『画面が割れているという事実』と間違えて『ここに緋焔のゲーム機が存在しているという事実』を破壊してしまったら、もう二度と戻らないわよね?」
「全力を尽くしやらせていただきます」
うん、未だによく分からないが鬼畜だということはよーく分かった。てか、あの中には俺が汗水流した努力の結晶である、多数のゲームのデータが入っているメモリーカードがある。
それを壊されたらがちで洒落にならない。
という訳で、俺は早速彼女の授肉に取り掛かる。
・・・っていっても、あるって考えるだけなんだよな。それなら出来そうだな。
「じゃあ、始めるぞ」
「ええ。頼むわ」
そう言うと彼女はおもむろに服を脱ぎ始め・・・What?
「ちょっ! 何やってんだよ!」
「? 何って服を脱いでるのよ」
「いやいや、そういう事じゃなくて何で服を脱いでるんだよ!」
「だって、そうしなければ細部までの授肉が出来ないじゃない」
「初耳だよ!」
「今言ったもの」
何と言う超暴論。一瞬、データを放棄して止めようかと思ったけど・・・やっぱりデータが無くなるのはな・・・。
「いいじゃない。女の子の裸を見るのは初めてなのだから、いい機会だと思って脳に焼き付けなさい。授肉したら見せる気はないのだから」
「っ〜〜〜〜〜! 分かったよ!」
これはアレだな。某上条さん風に言うとすると・・・。
「不幸だー! ・・・って言いたいのかしらね」
彼女はそう言うとクスクスと笑う。・・・もうやだ。
「お疲れ様。何と言うか・・・やつれたわね」
そりゃ・・・ね、やつれもするよ。彼女の授肉を無事、終える事が出来てゲーム機の画面のひびも直してもらえたし、データも無事だったとはいえ、やっぱりかなりきつかった。
パキン
俺が軽くため息をつこうとした所、お馴染みの何かが割れる音がしたと思えば、背後から殺気と化すのに秒読みがかかっている怒気が背中にひしひしとぶちあたる。
「さて、授肉も終わったしそろそろ自己紹介でもしようかしら」
「ああ・・・頼む」
相変わらず、後ろからは怒気がやってくるが反応する気力も無い。
いや、実際ものすごく怖いけどね。ダメージは無くても何故か普通に痛いし、ホントにどうしてこうなったてな感じで。
ちなみに、何で知ってるかっていうと、転んだからです。はい。
「さて、まずは名前からね」
「ああ」
「名前は霧城 藍雛よ。後は「ちょっと待て」人の話を遮るのは感心しないわね」
彼女がそう言ってから数秒間後、怒気は止み氷水でもぶっかけられたような、冷たい空気が漂う。
確かに、それは悪いとは思う。しかし、今彼女は確かに・・・。
「ええ、正真正銘、霧城と言ったわよ。緋焔と同じ・・・ね」
「俺と同じって・・・」
「ああ、もちろん、隠し子とかじゃないわよ。お母さんとお父さんはそんな事していないから安心しなさい」
「どういう事だよ! 訳が分からない!」
「そうね・・・。この説明をするなら、ミリアンを呼ばなくてはならないわね」
「またあのバカ神が関わってくるのかよ・・・」
喚ばれた時といい、俺はあいつにとりつかれてるんじゃないのかと、結構本気で思う。
「酷いですー。私はとりつくなんて悪霊みたいな事はしないですー」
「信じられる訳ないだろうが」
作者「どうも、神薙です」
エセ「毎d(ry」
作者「前回に続き、余り特筆すべき事はないんですが・・・」
エセ「出番h(ry」
作者「無い」
エセ「断言かい!てか、さっきから略しすぎやろ!」
作者「だってさっきまで寝てたからなんかだr(殴」
エセ「・・・作者としてどうなんや」
作者「こほん。次回は、あの女の子の説明です。これからもよろしくお願いします」
作者は、ご意見、ご感想、誤字脱字報告などなどお待ちしています。