第二十幕 道化師と道中
「「本当に申し訳ありませんでした」」
「そんなに何回も謝らなくていいって。怪我も無いし」
俺達は、俺の創ったテーブルと椅子を使い、マウの作った朝ごはんをのんびりと食べているのだが、朝ごはんを挟んだテーブルの向こう側では、レニーとミーラが食事にも手を付けずに、ひたすら俺に謝ってくる。
「でも……あれは私達に非がありますし……」
「あ〜……。あんな事した俺が悪いんだから気にしないで」
さて、ここまで話が進んでいるが意味が分からない人が圧倒的多数だろう。というわけでレッツ回想。
――――――――――――――
「おーい。レニー、ミーラ。朝だぞ」
馬車の中に入った俺は、床に寝そべっているレニーと、それにくっつくように寝ているミーラを起こそうと声をかけてみる。が、やっぱり起きる気配はない。
「起きる気あるのかよ……。いや、起きる気あるなら少しは反応するか」
しかし、ここであまりにも時間をかけると後に響くしな……。
「……肩を揺するくらいならいいか」
俺はそう自分に言い聞かせると、近くにいるミーラを起こそうと肩を揺らす。
「おい、ミーラ。朝だぞ」
「ん……」
俺が少し揺らして声をかけるとミーラは身じろぎをしながら、目を開く。
「おはよう、ミーラ」
俺は起きたばかりのミーラに向かってニッコリと微笑む。すると、ミーラは俺を見てぼーっとし始める。しばらくすると、いきなり顔を下に向ける。
「……ミーラ?」
「あう……」
ガシッ
ミーラの表情を見ようと少しだけミーラ達に近付くと、それまで下を向いていたミーラが突如顔を上げ俺に飛び付いてくる。いや、抱き着いてくると言った方が正しいだろう。そして、こんなに冷静に状況を語っているように見えるが……。
「ちょっ! ミーラ?!」
内心、口から心臓が飛び出そうな程驚いている。というか、抱き着いているミーラの肌が上半袖下ジャージの俺の腕に直接当たっていて、すべすべしててしかも、お腹の辺りには柔らかい何かが当たっている訳で―――。
「ミーラ、うるさい……―――っ!」
「………えっと、おはよう。レニー」
「《彼の者を熱をもって茹で上げよ》!」
咄嗟にミーラには無効化の結界を張るが、俺は間に合わなかったようで薄れ行く意識の中で思う。
俺はいつから不幸体質になったのだと……。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
(全く、緋焔はダメダメですー)
(そう言わないでちょうだい、ミリアン。我が傷付いてしまうわ)
(むー、しょうがないですー。あなたに免じて許すですー)
(ふふふ、ありがとう)
(でも、緋焔も鈍かったり、いつの間にか自分に不幸体質を付与したり、変な事ばっかりですー)
(……そうね。我が出られたら、一度説教をしなくてはならないわね)
(……言ってる割には顔は楽しそうですー)
(いいじゃない。事実、中から見ているだけでもそこそこ楽しんでいるわよ?)
(はあ……。あなたも緋焔もなんでこんなに変な人なんですー)
(決まっているじゃない―――)
(我達だもの)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「ん〜……」
あれ?俺は寝てたんだっけ?なんか体がいつもより体温高めな気がするけどなぜ?……ダメだ眠い。もう一回寝ようかな。
そう思った俺は、イマイチ寝心地が悪かったので寝返りをうとうと頭を動かす。
「やっ」
…………………………………………………やっ?
俺は目をつむったまま、一度深呼吸をしてから上と思われる方を向いて、ゆっくりと目を開ける。
そこには顔を若干赤くして俺の顔を覗き込んでいるミーラがいた。
「えっと……おはよう、ミーラ」
「あ、おはようございます緋焔さん。あの、出来れば頭をあんまりごろごろしないでいただきたいんですが……」
「…………」
さて、目の前にはミーラが上から覗き込む体勢で俺の顔を見ている訳だが、体は俺の頭の上の方にあるらしい。そして、なんか頭の下が枕とは違う柔らかさをもっている。というか、それ以前に枕自体が無いはずだ。つまり、俺が枕だと思って頭をゴロゴロさせていたのは……。
「………ひざ枕?」
俺がそう言った瞬間ミーラの顔が耳まで真っ赤になる。
「いえあの違うんです! これは緋焔さんが私を助けて身代わりになって倒れたって聞いてどうにかしないとって思ってでも何にも無いからとりあえず寝心地くらいは良くしようと思って!」
と、ミーラが凄い勢いで一息も入れずに言い切る。というか、墓穴しか掘ってないな。その直後、遂に頭がショートしたようで頭から煙を上げながら後ろに倒れる。あ、ほんとに煙は出てないから。あくまで例え。
……とりあえず起きるか、名残惜しいけど。俺は起き上がり、ミーラをきちんと寝かそうと体勢を動かすためにお姫様だっこみたいな感じで抱き上げる。
「ミーラ、緋焔様は起き……」
ピシッと空間が凍り付く音がした。まあ、実際凍り付いたのは突然現れたレニーだったが。とりあえず、やばい。何がと聞かれると答えにくいがまず間違いなく、目の前のレニーから怒りを通り越して殺気を感じる。
「あーと……よう! レニー!」
ヤッチマッタZE(キラッ
「懺悔は必要ですか?」
「いやちょっと待て。まず、前回の分も合わせて弁解をさせる気は無いのか」
「………酌量の余地があると思うのなら聞きます」
よかった、前回のようにいきなり魔法を浴びせられる訳じゃあないみたいだ。
「まず、前回は朝だったからお前達を起こしに来たんだ。で、寝ぼけたミーラに抱き着かれたから、ああなったんであって俺に非は無い」
「……他には?」
「次に今回だ。お前の魔法のせいで気絶してたから何でかは知らないけど……」
「それはあなたが―――」
「いいから聞け。ミーラが俺にひざ枕をしていて状況説明をしながら気絶したから、寝やすいように動かそうとしただけだ。他意は無いって」
とりあえず、一通り説明をした俺は適当に座り心地の良さそうな椅子を二つ創り、そのうちの一つに腰掛け、レニーにも座るように促す。が、レニーは座る気配が無いのでジッパーを出し、空間にほうり込んでおく。椅子なら後でいくらでも使うからな。もったいないし。
「俺が言いたいのはこれだけだ。まあ、全く悪くないとは言わないけどな」
「……話は分かりました。私のはやとちりのせいで迷惑をかけてしまったようで、申し訳ありません」
「いいよ、俺に怪我なんて無いしな。それよりも……」
俺がそう言うと、それに続くように腹の虫が声をあげる。まあ、夕べも朝も食べてないんだから当然なんだけどな。
「そう言う事だ。時間的にはそろそろ昼ご飯みたいだし、食べに行くか。あ、ミーラは頼んだ」
俺はそう言って、椅子から立ち上がりマウ達がいるはずのもう一方の馬車に跳び移る。瞬間移動じゃないのは、動いている座標に移動するのが大変だからだ。ようは楽をしたいだけ。
「久しぶり、マウ」
「あ、おはようヒエン。体は大丈夫?」
俺がそう声をかけると、マウはニッコリと笑いながらそう答える。やっぱり、マウは可愛いな。俺はそのままマウの横に座り、久しぶりにマウの頭を撫でる。うん、撫で心地もいいな。
「僕はスルーですかそうですか。きっと空気なんですね……」
「大丈夫、ちゃんと覚えてるぞ」
「……ホントですか?」
「もちろん、忘れる訳無いだろ。リッチ」
「うわーん!」
俺がそう言うと泣きながら馬車の隅っこに座り込む。あ、もちろんちゃんと覚えているよ。……からかい過ぎた感が無いでも無いけど。
「ほら、冗談だって。そんな事より、そろそろ昼ご飯にしようと思ってな。俺達は他の隊より進んでるみたいだしさ。俺腹減ったし」
「そういえばヒエンは食べてないんだよね。私頑張るよ」
「ありがとうな〜」
――――――――――――――
「で、今に至ると」
「ヒエン、誰に話してるの?」
「いや、こっちの話だよ」
「そんな事より緋焔さん」
「ん? どうした?」
俺は一旦食事の手を止めてリックの話に専念することにする。食べながら喋るって嫌だし。
「あと、一日程で姫様のいる城に到着します」
リックがそう言った瞬間、ミーラとレニーがピクッと反応した気がした。しかし、リックは気付いているのかは分からないが、どんどん話を進める。
「この辺りは盗賊がよく見られます。王都ほどではないとはいえ、なかなか大きな都市ですから、商人の積み荷を狙ったりする奴らも沢山います。狙われる事は無いとは思いますが、一応気をつけましょう」
「了解」
しかし、いくら二つの馬車だからといって、わざわざ王都騎士団の馬車を狙ったりはしないだろう。
まあ、一応警戒は怠らないようにするか。
…………でも、こういう異世界トリップ系ってそういうイベントには必ず当たるんだよな。
作者「さて、毎回更新が遅くなってしまって申し訳ありません。学校が始まったばかりでバタバタしてるのが原因です」
エセ「せやけど、それとこれは分けないとな」
作者「はい。まあ、時間がかかっただけあって少しずつ前のペースに近付いてるから」
エセ「それはええけど、質は落としたらいかんで?まあ、元々無いに等しいけどな」
作者「もちろん、頑張るよ。……まあ、元々作者の脳内妄想だけで出来てるような物だから質とか言われても困るんだけどね」
エセ「なんとかなるやろ」
作者は、相変わらずご感想、ご意見等を常時お待ちしています。