第十七話 道化師と王都騎士団
「ヒエン、また頭撫でて」
揺れる馬車の中、マウが微笑みながらこう言ってくるので俺はニッコリと笑いながらマウの頭を撫でる。
うん、やっぱりマウの頭は撫で心地がいいな。撫でていて気持ちいい。
が・・・。
「「「………………………………………」」」
フィアだけじゃなく、この馬車内にいるファンネルやリック達からも、嫌なものを見るような視線が飛んでくる。
はあ、今からでも行くの止めたい気分だ……。
なんでこうなったか。そういう時には回想が定番。という訳で、回想スタート。
――――――――――――――
「行くぞ!」
あっちが叫んだ直後、俺はあの神様が使ったのと同じ結界を発生させる。そう。
あの神様殺しを何度も邪魔した、当たった武器を霧散させる結界。
俺はそれを張った所で気が付く。
相手の動きが遅い。まるでスローモーションを見ているかの様に。
そこで、俺は気付く。相手が遅いのでは無い。自分が早過ぎるのだと。
俺は『最強』に成ったのだと。
……前言撤回。本気は出さない。こんなとこで、本気を出して人を殺すなんて冗談じゃない。
俺は力を抑える。全体の何割にも満たない強さに調節し、普通より強い人間レベルの強さにする。
すると、特別早いとは言えないが普通の動きとして見えるぐらいにはなった。
まず、ファンネルが俺の腕を狙って剣を振り下ろす。が。
その動きが急激に加速する。
「ちっ!」
「今、動きがいきなり変わったな。流石にびっくりしたぞ」
「大して表情変わってねえのに、言う台詞じゃねえだろっ!」
そう叫びながらもかなりの速度で剣を降り続ける。
更にその直後、ファンネルの剣を持つ腕が急激にぶれる。
俺は本能のままに後ろに飛びずさる。すると。
ヒュンヒュンヒュン
ファンネルの剣が俺の立っていた位地の、太もも、腕、肩の辺りを高速で切り付ける。
「危ないな。急所じゃなくても今の喰らったら、腕だろうが落ちるだろっと」
「どうせ避けるんだろう! スティラ!」
「はいは〜い」
ファンネルが叫んだ直後、戦闘中には場違いなのんびりとした感じのスティラがファンネルと交互になるように俺を切り付ける。息もぴったりだし、避けるのもなかなか大変だ。
「……夫婦みたいだな」
「戦闘中にそんなこと言ってていいのかよ!」
俺には避けるしか術が無い為、二人の剣技を避け続ける。
でも、そろそろ飽きたな……。終わりにするか。
「俺に害を与える武具の破壊」
俺がそう言った途端、俺に切り掛かっていた剣があの割れる音をたてて消える。
「なっ!」
「対象を捕縛。続いて固定」
俺が言い終わると同時に、目の前に立っていたファンネルとスティラが突如現れた鎖にがんじがらめにされ、鎖の先端が地面に突き刺さり完全に固定される。
「よし、これでいいな。後は……」
「ファンネル隊長!」
「どうすんの? まだやる? 俺としてはもういいんだけど」
ぶっちゃけ、めんどくさいんだよね。隊長って言うからには、ファンネル達の方が格上だし。
「ふざけないで下さい! 獣人なんか連れている人間なんて……」
プツン
頭の中で何かが切れる音がした。いや、何が切れたのかはよく分かってますよ。堪忍袋の緒が切れたんだね。
「使用者に王座を与える《聖剣、『エクスカリバー』を創造》」
「「「エクスカリバー!?」」」
俺を除くこの場にいる全員が叫ぶと同時に、俺の右手にまさしく光り輝く剣が現れる。聖剣、エクスカリバー。アーサー物語で登場する剣で、現代では多くのゲームやら小説やらに登場する。その名前は諸説あるが、俺にはこの名前が一番なじみ深いため、これで使っている。形は両刃で思ったよりも見た目は簡素だったが、気にしない。というか、この世界でもエクスカリバーは知られてるんだな。今度機会があったら調べてみたいもんだ。
俺はエクスカリバーに、(俺で言う)少量の魔力を流し込む。そして、そのまま剣をラフェスタに向かい縦に振るう。
ズガァァァァァン
「……調節ミスったかな」
俺はエクスカリバーを振るったときに同時に魔力を放出し、飛ぶ斬撃を放ったのだが……すこし、魔力を放出しすぎたのか地面は浅くではあるが、裂けている。
幸い、というか狙ったのだが、斬撃はラフェスタのすぐ真横を通ったようだ。その証拠に、ラフェスタの左横数十センチの地面に傷跡がついている。
「ちょっと緋焔!」
「ん、何だよ? フィア」
「あんた勇者だったわけ!?」
「まさか、そんな訳ないだろ。神様より強いだけの唯の一般人だ」
まあ、そこまでいったら唯のでもなんでもないと思うんだけど、特に気にしない。フィアがまだぶつぶつ言っているが、まあ、それはそれとして……。
「ラフェスタ」
俺が名前を呼ぶと、ラフェスタは体をビクッと震わせて恐る恐るといった様子で顔を上げる。
「お前の過去に何があったのかは知らないし、自分から知る気もない。けどな、家族の悪口を言われて見過ごすわけないだろうが」
「……………」
「対象の敵意、並びに殺意の一時的破壊」
俺がそう言うと、ラフェスタは体を振るわせた直後、その場に座り込む。さて、これで残るは……。
「リック、だよな? お前は俺と同じくらいだし、特に戦う理由もないから、出来れば相手をしたくないんだけどな……」
「……ごめんなさい。僕も王都騎士団なんです」
「あー、そうだな。じゃあ、お前の今出来る限りの最強魔法で、俺に少しでもダメージがあったらそっちの好きなようにしてくれ」
「……嘗められたものです。後悔しても知りませんよ」
……俺もしかして言いすぎた?なんか、微妙に怒ってる気がするんだけど。
とにかく、俺はそのままでは危ないファンネルたちを結界で保護し、フィアたちの近くに移動させる。
「さあ、どうぞ」
「《天光満つる処に我は有り》」
……………ん?
「《黄泉の門開く処に汝有り》」
これはもしかして……テイ○ズの……。
「《出でよ神の雷!》」
俺は呪文の詠唱が終わる前に、天高く右腕を突き上げる。
「《インディグネイション!》」
ズバァァァァァァン
「……もしかして、やりすぎた―――」
「あー、びっくりした」
死ぬわけないでしょう。……にしても、さすが某上条さんの幻想殺し。インディグネイションまで消すとは……。
「な、何で無傷なんですか! 今のは僕の最上級魔法ですよ!」
「さっきも言っただろ、神様より強いんだって。その相手に神様の雷落としてどうするよ」
まあ、実際あいつが雷落とすなんてことは考えられないわけだが……。さて、こいつらどうしよう―――。
「……………うぅ」
俺が、こいつらどうしようかなー。なんて事をのんびり考えていると、リックが急に倒れこむ。
「リック? どうしたんだ?」
「魔力の使いすぎで……足りない……。体が全然動かなくなるんです……」
イマイチ言葉が足りなくて分かりづらいが、要は魔力を使いすぎて動けなくなったと。
「魔力って分けられる?」
「え、一応大丈夫ですが……」
「やり方は?」
「相手の体に直接触れて魔力を流し込むだけです」
「んじゃ、さっそく……」
俺はリックの腕を掴み、細心の注意を払いつつリックにほんの少しの魔力を流し込む。
「どうだ?」
「あ、大丈夫です。八割方、魔力が回復しましたから」
「じゃあ、他のもいいかな」
俺はその場で指を鳴らし、結解とファンネル達の捕縛を解除する。いつの間にか荒れ地を覆っていた結解も、解けているようだった。
てか、さっきのでリックの八割か。気をつけないと、ホントにまずいな。
そんな事を考えながら、俺はファンネルの所に瞬間移動する。
「なっ! 瞬間移動!?」
「まあ、そんな感じだな。で、闘いながら考えたんだが……」
「闘いながら……。って、そうじゃない! 戦争に参加してくれるのか!?」
「いや、そんな訳ないだろ」
戦争なんかに参加してたまるかよ。むしろ、止めたいくらいだ。
「じゃあなぜ……」
「お前らの任務は俺の護送なんだろ。だったら、行くだけ行って断って帰るさ」
ファンネルは少しの間考えるような様子を見せたが、顔を上げる。
「済まないな……」
「三割はそう思っててくれ」
あんまり悩み続けられるのも、面倒だからな。
あと、今断ったら後にめちゃくちゃ響きそうだし。まあ、問題があるとすれば……。
「ちょっと緋焔! 勝手に決めないでよ!」
こっちだよ。
「フィアの言う通りだよ! 少しくらい相談してくれてもいいのに……」
マウはそう言って俯いてしまう。周りからは、責めるような視線がビシバシと俺に突き刺さる。
「悪かったな、マウ。今度からは気をつけるよ」
俺はそう言いながらマウの頭を撫でる。……もはや、反射か何かだな。と、まあそれは置いといて。
「……ホントに?」
「ああ、ホントだから元気出してくれ」
「うん」
そう言ってマウは顔を上げ、ニッコリと微笑む。
うん。マウは可愛いなぁ、和む。
「……ちょっとスティラ、騎士団権限でこいつ捕まえられない?」
「権限云々じゃなくて、私達より強いんだから捕まえる事自体が無理よ〜」
「…………ちっ」
横では、とても恐ろしい会話がなされている。てか、フィアはいつの間にスティラと仲良くなったんだよ。しかも、舌打ちがやたら怖い……って、これはいつも通りか。
「……苦労しているな」
「……分かってくれるか」
気のせいかも知れないが、ファンネルからも苦労人のオーラみたいなものを感じる。
「さて、それはそれとして。フィアとマウはどうする?」
「え? 何がよ」
何がって……完全に本題忘れてただろ。
「だから、王都に行くか行かないかだよ」
「あ、ちなみに王都に行くには直行で15日ほどかかりますよ」
いつの間にか横に来ていたリックが言う。というか、いつの間に来たんだよ。
「その前に、一つやらなくちゃいけない事があるんだよ」
「ん? 何かあるのか?」
あんまり厄介事は受けたくないからな。あまり、多くの事をやりたくはないな。
「行く前に本隊と合流しないとならないんだ。あと……」
「あと?」
「ネイトの街に行かなくてはならないんだ」
「ネイト?」
「ヒエン、ネイトの街っていうのはこの国の中でも三番目に大きい街で、商業で栄えた街なんだよ」
「分かりやすい説明ありがとう」
商業で栄えた大きな街か……。補給でもするのか?
「その街で、この国のお姫様が待っていてな。お前を見てみたいんだとさ」
「よし行こう」
ゴッ
「痛っ!」
俺の脳天にフィアのげんこつが直撃した。てか、めちゃめちゃ痛いんだが。これは確実にたんこぶになるぞ。
「お姫様って……。あのお転婆っていう噂の?」
「そうだ。というか、こんなところまで噂が広まっていたのか……」
そう言って頭を抱えるファンネル。どうやら、オーラは伊達じゃなかったみたいだ。というか、お転婆なお姫様ってなんてテンプレだよ……。
「どうしても、そのお姫様の所に寄らなきゃならないのか?」
「断ったら、不敬罪で死刑だ」
「よし行こう」
ぶっちゃけ、断って国一つと戦っても勝てると思うけど、俺はテンプレなお姫様を見てみたいからな。死刑となれば、フィアも嫌でもイエスと答えるだろう。
「はあ……なんでこうなるのよ」
こう呟くフィアの声は、俺以外には聞こえないような小さな声だった。
作者「やっぱり、戦闘描写が難しかった。実力が足りてないな・・・」
エセ「そんなの今更やないか。第一、緋焔が圧倒的過ぎてほとんど戦闘になってないやないか」
作者「だって・・・神様より強いんだからしょうがないよ。うん」
エセ「・・・せめてもう少し描写を上手くしようや」
作者「頑張ります」
エセ「出ばn―――」
作者「作者は常にご意見、ご感想等をお待ちしています。あ、あと、誤字や脱字も報告してくれると嬉しいです」