第十六幕 道化師と騎士
二十万PV突破!
「これ……は……」
俺たちは、思わずその場に立ち尽くした。先程、本当にごくわずか前に大地を大きく揺るがす地震が発生したかと思えば、辺りに土煙が舞い、土煙の中を音だけを頼りに音の発生地に向かった。
だが、そこにあったのは荒れ地と化していた森の風景だった。何も知らない者が見ればそこが森であったと判別するのが不可能なほど、そこが森であった面影など無くなっていた。
「ファンネル隊長……」
名前を呼ばれ、振り返るといつものおどおどした感じではなく、恐怖と緊張の混じった表情で顔をこわばらせているリックがいた。
「どうした」
「すぐ前方の僕と同じくらいのあの少年から……異常なまでの魔力が……」
俺はリックに言われ、意識を集中させて前方を見据える。前方にいたのは、少年と護法壁に包まれている少女が二人。どちらも美しかったが、俺の目を留めたのは少年のほうだった。
見慣れぬ、美しく濁りがまったく感じられない白い髪。見たこともない衣服を纏い、その少年は荒れ地の真ん中にたたずんでいた。その二つも目を引いたが……俺が注意したのはその二つではなかった。
膨大という言葉ではあまりにも足りない、無限とも思えるほどの魔力。身体から溢れていないのが不思議なほどの魔力を少年は持っていた。そして、同時に理解した。
この少年こそが、俺たちの探していた魔力の持ち主であると。
「隊長〜。どうします? 私にはあれが人間には見えないんですが〜」
スティラですら、いつもの雰囲気は無く額には一筋の汗が伝っている。
「そうですね。魔力は探知出来なくても……プレッシャーだけでも相当な相手だと分かります」
ラフェスタは魔法が使えないため、魔力を感じることはできないはずだがそれすらを無視するほどの威圧感を辺りに撒き散らしている。
本来なら、今すぐにでも一人を本隊に連絡として送り状況を立て直すのだが、脚が動かない。それはスティラ達も同じようで、警戒をし続けるが脚は動かない状態のようだった。
と、その時。少年がこちらを向いた。普通にどこにでもいる普通の少年少女と変わらない動きで。
「え〜っと、あなた達ですか? 俺に殺意を持って近付いて来たのは」
俺を含む全員が反射的に一歩後ろに下がる。ただ、話しただけなのに最恐の何かに会ってしまった、小動物のように。
「ちょっと待ってくれ。先に二人に話して来なきゃならないから。話すのはそれから」
そう言うと少年は護法壁の中にいる少女達に向かい、歩き出す。それと同時に、今まであった無限大の魔力の感覚が無くなり、圧倒的なプレッシャーも嘘のように無くなる。
「ファンネル隊長、どうします?」
さっきよりも、幾分か緊張が抜けたリックが俺に聞いてくる。
「どうするもこうするも……とりあえず、あっちの動きを待つしか無いな」
数分すると、少年が少女達を連れて戻って来る。
「悪い。待たせたな」
「じ、獣人!?」
後ろでラフェスタが叫ぶ。少年の後ろにいる少女の内、一人はまだそこまで歳もない獣人の少女だった。
獣人の扱いは決して良いものではない。世界的に見ても、獣人を下等と見下す者も多い。特に、政治を取り仕切る貴族に多い。そして、ラフェスタもその内の一人のようだった。
「…………」
ラフェスタがそう言うと、その少女の表情が陰る。反応を見るに、余り良い待遇を受けなかったようだ。
少年と少女が、獣人の少女を庇うように後ろに隠す。
「で、聡明な王都騎士団の方々が私達に何のご用ですか」
そう言ったのは、少年の横に立つ紅い髪と瞳をした少女。見ればほとんどの男は惚れそうな程の美しい容姿をしているが、その瞳には怒りが浮かんでいる。
「まず、自己紹介をさせてもらう。俺は王都騎士団隊長のファンネル」
俺がまずはじめに自己紹介をし、それに続くようにスティラ、リック最後にラフェスタの順に自己紹介をする。
「今回、王都騎士団がここまで来たのはこの村の近くであり得ない魔力が発生したため、その調査、討伐もしくは王都までの護送の命を任されている」
「討伐……?」
俺が討伐といった直後、向こうの全員の目に浮かんでいた警戒の色が濃くなる。それと同時に少年の魔力が零れる。少年の魔力で隠れてしまいそうだが、少女からも少量の魔力が漏れだす。
「で、俺は討伐されるのか?」
「お前は、この国に害するつもりはあるのか?」
「っ! 隊長!」
俺も、相手が違えば言葉を隠し違う方向から本心を聞きだしただろう。だが、俺は言葉をごまかしても本心だけ見られてしまうような、そんな感じがした。
「その通り。俺に嘘や隠し事はできない。ほんとなら、こんな能力使うつもりは無かったんだが……殺意を抱いてやってくる奴にそんなこと言ってられないよな?」
少年はそう言ってにっこりと笑う。少年が笑ったのと同時に、背中にぞくっと悪寒が走る。と、少年の隣にいた少女が少年の頭を叩く。
「ちょっと、敵対してどうするのよ。向こうは害がないなら何もする気が無いみたいなんだから、変なことしなくていいわよ」
「あー、悪い。っと、そう言えば俺たちの自己紹介がまだだった。俺は霧城 緋焔。どうすればこの国に害するのかは知らないが、あからさまなことはするつもりはないから」
「……マウ」
「フィア・レムナンスよ」
「……信じられません」
俺の後ろに立っていたラフェスタが何かを呟き、穏やかだった緋焔の瞳に怒りが灯る。そして、緋焔を中心にし辺りに、濃密な魔力が満ちる。
「撤回しろ。今のだって許すつもりは無い」
緋焔の口から出た言葉はとても冷ややかで、他人事を見ているような冷たい言葉だった。
「嫌です」
「撤回しろ!」
「緋焔!」
「っ! ―――分かった」
緋焔の魔力が辺りを食らい尽くしそうな力をはらむ直前に、フィアという少女が緋焔を制止する。
………まったく、寿命がよく縮む日だ。
「……隊長、この少年はこの国にとって大きな害です。今すぐにでも討伐を」
「ふざけるなラフェスタ。これは王直属の命なんだ。お前の一任で決めるわけが無いだろう。緋焔達もすまない。部下の非礼を代わりにお詫びする」
「こっちこそ悪かった。冷静さを欠いた」
「討伐こそしないが……緋焔には王都まで来てもらいたい」
「ああ、そういえばさっき護送とか言ってたな。なんで、何処の誰とも知れない輩をわざわざ王都まで?」
「戦争ね」
「………おそらくな」
現在、大きな戦争は起こってはいないが隣国のアイガス国とは硬直状態にあるだけで、片方が少しでも動けばすぐにでも戦争は開始してしまう。
そんな状況下で、並々ならない魔力を保有した物はかなりの戦力になる。
「断る」
こうなることは予想していた。あくまでも多くのパターンのうちの一つとして。
「そうか……」
「諦めて今すぐ王都に帰って戦争にならない方法を探るんだな」
「すまない……」
俺がそう呟くのと同時に、リックが今いる荒地を余裕で覆うほどの大型の護法壁を展開する。
―――――――――――――――――――――――●
ファンネルが何へ向けたのか分からない謝罪の言葉を呟いた直後、後ろにいた茶髪のリックという少年が何処からともなく自分の身の丈ほどある杖を取り出し、その先端で地面突く。すると、この荒地を覆い尽くすほどの結界が張られる。
「どういうつもりだ」
できるだけ平静を装い、目の前で剣を抜こうとしているファンネルに尋ねる。
「俺はこの命を受けたとき、こうも言われた。『もし、対象が拒否するようならいかなる手段を使ってでも、王都へ連行しろ』と」
いかなる手でも……ね。どうにかして騙して帰ってもらうか。だが、さっき森を吹き飛ばしたのを見られたし、魔力量も見られてるしな……。騙すのは無理か。はぁ……俺は戦闘狂でも何でもないんだがな……。
「……フィア、マウ。悪いけどもう一度結界の中で待っててくれるか」
フィアはため息をつきながら、マウは俺を心配そうな目で見ながら言った。
「しょうがないわね」
「ヒエン……無茶はしないでね」
「もちろん」
俺は、マウの頭を軽く撫で、結界を展開し今度は出来るだけ被害が及ばないように荒野の隅の方に移動させる。
………いま、こんなことを思うのは場違いだけど、やっぱりマウの頭は撫で心地がいいな。
「さてと……どうする? 観客の避難も終わった、今すぐ始める?」
俺は負けるつもりなんて、毛頭ない。さっきからマウに対して、ずっとマウが傷つくような事を思い続けているラフェスタという子は許すつもりも無い。
「今からでも遅くは無いんだ。王都に来ると言ってくれないか」
「次に、そっちが喋った瞬間始める」
俺は呼吸を整え、状況を確認する。相手は4人でこちらは1人。人数だけなら明らかにこっちの分が悪いが――――。
「行くぞ!」
――――そんなものは関係ない。俺の居場所は奪わせない。
作者「遂に二十万PV突破しました! ありがとうございます!」
エセ「で、今回の件については何にもないんか?」
作者「ホントにごめんなさい。ホントは今回に戦闘入れるはずだったんですけど、区切りを優先するか、文字数を優先するかで、今回は区切りを優先させていただきました」
エセ「それでも区切りとしては、中途半端なんやけどな」
作者「・・・精進します」
エセ「で、次はちゃんと戦闘なんやろうな」
作者「はい。次はちゃんと戦闘です」
エセ「出番―――」
作者「それでは、今後ともよろしくお願いします」
作者はご感想、ご意見をお待ちしています。