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別世界の道化師  作者: あかひな
序章
13/94

第十二幕 道化師と決意

 俺は倒れていたフィアを部屋に運び、ベッドに寝かせた。


「なんで……」

(緋焔、聞こえてるですー?)


 俺の頭の中に声が響く。


(なあ……なんでこんな事になってるんだ……)

(知らないですー。第一、神様は基本的に生物には無干渉ですー)

(ふざけんな! 神様だろ! 出来ない事はないんだろ! だったら教えろよ! 誰がこんなことしたんだよ!!)


 俺は叫ぶように怒鳴り散らした。

 言うとおり、無干渉なら神様(こいつ)にこんなこと言ってもしょうがない。でも、叫ばずにはいられない。フィアをこんなにした奴を見つけ出して、酷い目にあわせてやりたい。


(何を甘ったれてるんですか!)


 頭の中で大音量で叫ばれた。


(貴方がやらなきゃならないのは復讐ですか? 大切な人をそんな適当な処置でほったらかしてそんな事を考えてどうするんです!)

(俺は医者じゃないんだ! これ以上の処置なんて知らないんだよ!)


 俺はフィアを助ける事も出来ない。俺は俺の無力さを呪った。だが……。


(貴方が持っている能力は復讐の為の能力です!? いつまで悲劇の主人公を気取っているつもりなんですか! 今貴方がやらなきゃならない事は、能力を使ってフィアを元気にすることです!)



 ああ……。その通りだ。俺はいつまで悲劇の主人公を気取っているんだ。思い返すと自己嫌悪に陥りそうになる。


「《キュア》」


 俺はベッドに横になっているフィアの手をにぎりしめ、フィアを治す。いつも通りの元気なフィアになってもらう為に。


 俺が手を握ってから数秒すると、フィアの体が白くて軟らかい光に包まれる。すると、目に見える部分だけではあるが、みるみる怪我が治っていく。

 光に包まれてから数分。


 フィアの手がピクッと動いた。



「ん……うぅ……」

「フィア!? おい!」


 藍雛の反応を見て、手を握ったままフィアを呼ぶ。すると、ハードカバーの本の角が俺の頭に直撃した。


「痛って!」

(病人なんだから静かにするですー)

「……悪い」

(騒がなくてもすぐに起きるですー。元々深い傷なんか無かった―――)

「マウ!」


 フィアはいきなりマウの名を叫ぶと、跳び起きた。


「フィア? 大丈夫か?!」

「え? 緋焔……? 何で……。しかも、ベッドの上……」

「外でボロボロになって倒れてたんだよ! マウもいないし……何があったんだ!?」


 俺がそう言うとフィアはハッとして言った。


「マウがアドレーに連れてかれたのよ!」

「アドレー?」


 ………………………っ!


「あいつか! あいつが来たのか!?」

「本人じゃなくて、あいつの部下数人よ。しかも、私が炎の魔法を使えるのを知って水の魔法使いまで用意して……」

「あの野郎……」


 俺は立ち上がり外へ向かおうとする。が、すぐにフィアに腕を掴まれ止められる。


「どこに行くの?」


 フィアだって分かってる。だが、それでも聞いてくる。


「アドレーをぶっ殺しに行く」


 俺がそう言った瞬間、フィアは俺の腕をおもいっきり引っ張り俺の頬にビンタを喰らわせた。


「っ!」


 フィアの方を向くと、涙を溜めながらも怒りの表情で俺を見ていた。


「何すんだよ!」

「緋焔は行かないで。……私が行く」


 フィアはそう言って、ベッドから起き上がろうとするが、疲れているのか少し体が震えている。


「そんな状態で何が出来るんだよ!」

「うるさい! あんたなんかにマウを助ける資格なんて無い!」

「ふざけんな!」

「こっちの台詞よ! あんた、今何て言ったか分かってるの?!」


 俺はそう言われ思い返す。


「あんたはマウを助けに行くじゃなくて、アドレーを殺しに行くって言った!」

「っ!」


 そうだ。確かに俺はそう言った。


「だから、あんたには行かせられない!」

「………」



 俺は黙り込むしか無かった。また、目先の怒りに飲み込まれている。






 でも……それでも……。


「ありがとう」

「え?」


 フィアの顔からは怒りの表情が消え、意味の分からない礼に対する疑問の表情だけがうかんでいる。


「さっきもさ……言われたんだ。神様(あいつ)に」

「…………」

「お前が倒れてたって言ったろ。治療する前にも俺はお前が傷だらけだったのに怒って、犯人の所に行って復讐するつもりだったんだけどさ、逆に怒られちまった」

「……………」

「で、また同じ事を繰り返した。でも、今度はお前が怒ってくれた。だから、ありがとう」


 フィアは俯き黙り込んでしまった。


「……か」

「は?」

「バカ! 同じ間違いをするなんてバカよ!」


 フィアはいきなり顔を上げ怒鳴った。


「あー……悪かった」

「仕度するわよ」

「は?」


 俺が何なのか分からずに呆然としていると、フィアは俺に笑いかけた。


「マウ、助けに行くんでしょう」

「ああ!」


 





 俺は一旦、自分の部屋に戻り落ち着く事に専念した。大事な時に冷静さを欠く事が無いように。

 しばらくすると、部屋のドアがノックされた。


「緋焔、入ってもいい?」

「開いてるよ」


 俺が答えると、ゆっくりと部屋のドアが開いた。


「準備はできた?」

「バッチリ」


 俺はガルクさんにもらった剣を持つ。


「場所は?」

「この前に行ったギルドは分かる?」

「ああ」


 いろんな意味で印象に残ってるから、よく覚えてる。


「あの近くにあるみたい何だけど……」

「詳しくは分からない……か。当然だよ。フィアは今まで関わらなくてよかったんだから。むしろ、今のが分かっただけ十分」


 ちょうど、知ってそうな人も知ってるしな。


「じゃあ、行こうか」

「え? どこに?」

「もちろんあの通りに」


 今度はアドレーを殺すためじゃなく、マウを助ける為に。








「で、緋焔。来たのはいいけどどうするの?」


 フィアが火を灯しているので、俺達の周りは明るいが、それより先は飲み込まれそうな闇が街全体を包んでいた。


「気付いては……もらえないか。しょうがない、近所迷惑だけど……」


 俺はおもいっきり息を吸い叫んだ。


「カイさーん! キリさーん!」


 俺の声が辺りに響く。フィアはいきなり近くで大声を出されたので、耳を押さえてうずくまっている。


「アニキ。いくら何でもそれは近所迷惑ですよ」


 身につけたチェーンを鳴らしながら、キリさんが呆れた顔で近付いてくる。

その後ろからは苦笑いをしながら、カイさんがやってくる。


「……緋焔、この人達は?」


 フィアがキリさんとカイさんを睨みながら言った。


「ギルドに行く途中に仲良くなってね、いろいろ手伝ってくれたんだ。名前は、チェーンを付けてる方がキリさん。もう一人はカイさん」

「よろしくお願いします。姐御」

「あ、姐御?!」


 フィアはいきなり姐御なんて呼ばれたせいで、さっきの俺ほどではないが周りに響くくらいの声で叫んでしまっている。


「アニキとかなり親しそうだったので、アニキの彼女かと思って姐御と言ったんですが……」

「わ、私が緋焔の彼女!?」


 そう言ってキョトンとするキリさん。というか、キリさんも言い過ぎだって。フィアは顔が真っ赤になっている。


「違うよ。残念ながら俺には、こんな可愛い彼女なんていないって」

「か、可愛いって……」


 俺がそう言うと、キリさんとカイさんは顔を見合わせて何か小声で話している。


「姐御……じゃなくてフィアさん」


 カイさんが、フィアを呼んで三人で内緒話をしている。何を言っているのかは全く聞こえない。

 ………なんかフィアがさっき以上に真っ赤になって帰って来た。


「お待たせしてすみませんでした。で、アニキが俺達を呼んだって事は……」

「うん。ちょっと裏側についてのお願いがあるんだ」


 すると、さっきまでのやんわりした空気が一変し細い糸を張り詰めたような空気に変わった。


「その知りたい事と言うのは……」

「アドレーの本拠地」


 張り詰めていたはずの空気が更に張り詰めた。

空気がぴりぴりする感じ……。

全身に静電気が走っている状態というと分かるだろうか。


「……一つ聞いてもいいでしょうか」

「ん。何?」

「何故、アドレーの居場所なんて……」

「大事な家族が連れていかれたからね。助けに行かないと」


 前なら、復讐ばかり考えていただろう。でも、今はもう違う。

 カイさんとキリさんは、離れた場所でしばらく話すと俺達の方にやって来た。


「付いて来て下さい」


 カイさんとキリさんは何本かある路地の中でも、一番暗い路地に入って行き、俺達もそれに続く。

道は暗く、フィアの火が無ければ歩くのも大変だっただろう。


所々に浮浪者がいる。まだ、若い者から老人と思しき人。はては、子供までいる。


「目を合わせないで下さい」


 俺達の後ろを歩いていたキリさんが耳打ちするように言った。俺は、必死に人々を見ないように堪えながら先を歩くカイさんに着いていく。

 そんな場所を十分くらい歩いた後、明らかに浮浪者とは違う男が二人。道の脇に立っていた。


「少々待ってて下さい」


 カイさんとキリさんはそれぞれ左右に分かれ、何かを話している。

しかし、次第に話し合いは口論になり、カイさんとキリさんは同時に門番のような男達の腹に掌底を打ち込んだ。

 門番達は、ぱたりと倒れ動かなくなる。


「お待たせしました」

「……あれ、殺してないよね?」


 俺は地面に伏せている二人を指す。


「気絶しているだけです。目が覚める前に行きましょう」


 そういうと、カイさんとキリさんはさっさと歩いていく。


「……大丈夫なの?」

「うん。一応、それなりに強いみたいだしね」


 俺達も二人に着いていくように、伏せている二人を無視して歩いていく。

 しばらく歩くと、まさしく館といった感じの見た目をしているが……どこか、暗い雰囲気みたいなものを纏っている。


「ここです」

「……なんかいかにもって感じだな」

「ここにマウがいるのね?」

「おそらく」

「送ってくれてありがとう。それじゃあ二人は戻っ―――」


 戻っていて。そう言おうとしたが、体に衝撃を感じるとともに口から言葉が発せなくなり、意識が落ちて行った。


「すみません。アニキ―――」


 俺は目の前が真っ暗になる中、フィアも地面に倒れていくのが見えた。





作者「11万PV突破です! ありがとうございます」

エセ「今回はなかなかシリアスな展開やな」

作者「そうだね。皆が忘れた頃にアドレーが出てくるし、俺も忘れてたし」

エセ「で、そのうえ助けに行った緋焔達は捕まったんやな」

作者「うん。流れでカイとキリも悪役になったし」

エセ「・・・流れかい」

作者「作者は感想、意見を募集してます」

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