第十一幕 道化師の一時帰省(下)
今回、ちょっと短めです。
「お兄ちゃんこれは〜?」
美樹はそう言って押し入れに入っていたクリアケースを出してくる。
「ああ、それマンガだからこっちな。ゲームはベッドの上置いて」
俺は能力で何にもない空間にファスナーを創りだし、ドラ○もんの四次元○ケットと同じ空間を創った。
初めて能力使ったけど結構簡単だったよ。アニメとかイメージするとわかりやすいかも……。世界移動はノーカウント。
「それにしても……こんなにどこに入ってたの?」
美樹に言われて物を詰めながらも振り返ると、押し入れだけでも部屋の半分を埋め尽くす程のマンガやゲーム。……それと、グッズがでてきている。
あ、フィギュアまでは買ってないからねっ!勘違いしないでよねっ!
「お兄ちゃん! 遊んでないで手を動かして!」
「すまん……」
「全くこんなに集めて……。勝手に片付けばいいのに……」
そんな都合のいい事あるわけ――……。
「それだ!」
「え? 何?」
美樹は何がなんなのか分からずにキョトンとしている横で、俺はファスナーをおもいっきり開き、人が余裕で通れるくらいの大きさにする。
「持っていく物を全部集めてくれ」
「あ、うん」
俺は、タンスに詰めてあった着替えを出し、美樹は俺のマンガやらを部屋の真ん中に集める。
ひとしきり、荷物を出し切ると元々スッキリしていた部屋がさらにスッキリしたように見えた。
「じゃあ、入れようか」
「ああ、必要無いよ。危ないからちょっと離れて」
そういうと、美樹は不思議そうな顔をしながら俺の後ろに隠れるように回り込む。別に回り込めって言った訳じゃないんだけどな……。
「よし……移れ」
俺がそういうと、荷物が次々と中に吸い込まれていく。
「スゴーイ!」
美樹はその後ろで目を輝かせて見ている。ちなみに、移動させた荷物はちゃんと中で整頓してある。散らかるの嫌だし。
二分くらい経つと部屋に集められていた物は、綺麗さっぱり移っていた。
「よし。荷造り終了!」
「……思ったよりあっけなかったね」
「まあ、そんなもんだろう」
と、ファスナーを閉じると俺のポケットに入っていた携帯が鳴った。
『せか〜いで一番お姫様〜♪』
横で固まる美樹を無視して携帯をとる。
「どうかしたか?」
『ちょっと早いけどご飯作ったから、終わったら来て』
「あー、了解。もう終わったから行くよ」
『分かった。じゃあ、待ってるね』
俺は電話を切り、固まっている美紀を覚醒させる。
「おーい。美樹? 大丈夫か?」
大丈夫でなくても、困るけどな。
「……大丈夫。お兄ちゃんが取り返しのつかないオタクになってたのが、大分ショックだっただけだから」
「あー……悪かったな?」
俺はそう言いながら美樹の頭を優しく撫でる。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「気にすんな。それより、藍が飯作って待ってるらしいから、行くぞ」
「はーい」
―――――――――――――――――
「これはまた豪華だな……」
俺の目の前にはどこかの国のフルコース並の料理がずらりと並んでいた。
「そうでしょう。緋焔が当分帰ってこないと思って、腕によりをかけて作ったんだよ」
「へえー」
まさか、ここまでされるとは思わなかったな……。数日置きに帰ろうと思ったのに帰りづらくなるじゃないか……。
「これは……負けてられない」
美樹が隣でそう呟く。
お前は何に勝つつもりなんだと、小一時間ほど問いたいが我慢しておく。
「ほら、せっかくの料理が冷めちゃうよ。食べようよ」
「そうだな。じゃあ……」
「「「いただきます」」」
「藍、これからは……加減を覚えて」
「あ……うん。ごめんね」
俺達は食事を終えて、また、藍の部屋に入っていたのだが……。
「藍さんは作りすぎだよ……」
そう。作りすぎだったのだ。
テーブルに置いてあったのは、ほんのちょっと。藍はおかわりを考慮して……とか言っていたが、アレはどう考えても十人分に近い量だった。しかも、余らせる訳にはいかないという理由でその内の八人分は食べ切った。主に俺が。
「明日もご飯いらない気がするな……」
「気をつけます」
俺は大きなため息をつき、背中から倒れ込む。
「お兄ちゃん、いつ行くの?」
「ん〜……あとちょっとしたら」
「ぐうたらするのもいいけど、あっちの人達も心配してるんじゃないの?」
……まだ離れたくないなんて死んでも言えない。でも、確かにそうだな。忘れてた。
俺はこっちの住人だったし、今もそうだけど、あっちの住人でもあるんだよな……。
「……やっぱり行ってくる」
「分かったよ。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。お土産楽しみにしてるから」
美樹は一言余分だって。……っと、その前に。
「なあ、何でもいいからお菓子ないか? 出来れば甘いもの」
甘ければ何でもいいだろ。
「え? お菓子?」
「そう。お菓子」
「う〜ん……。あ、たしかプリンがあったよ」
プリンか。十分だろうな。
「うん、十分だ。それちょうだい」
「いいよ。そのかわり、私もお土産……」
お前もか。と、脳内で突っ込むがまあ、一人ぐらい増えたって同じだろう。
「あー……分かったって」
「やった! ちょっと待ってて。持って来るから!」
藍はそういうと、にやけた顔をしながら一階に走って行った。
「ねえお兄ちゃん」
「ん、何だよ?」
「なんでお菓子?」
「あ〜……お菓子?」
すると、美樹が不機嫌気味な顔で言った。
「それって、マウちゃんって娘にあげるの」
「いや、フィアに」
「へえ〜」
美樹は不機嫌顔のままじろじろと俺を眺めていた。
…………空気が痛い。
と、そこへ藍が空気も気にせずに飛び込んで来た。まあ、そっちの方が好都合だったけど。
「緋焔。プリン持って来たよ!」
藍が手に持っているのは、プッツンプリン。決してプッチンではありません。決して。
「お〜。サンキュー」
俺はそれを藍から受け取ると、ファスナーを開けて放り込む。
「わ、なにそれ!? すごーい!」
藍まで目を輝かせるな。
てか、いつまでもファスナーって格好悪いな……。
「よし、命名。『ジッパー』」
「……お兄ちゃんのセンスってやっぱり微妙だね」
何故だ!?カッコイイじゃないか!
「……よし、今度こそ行ってくる」
俺は、向こうの世界につながる扉を開く。
扉は待つ暇もなく出てきた。しかも、今度は俺が入ってくるのを待つかのように扉が開いた状態で。
「いってらっしゃい」
「頑張ってきてね、お兄ちゃん」
「いや、頑張る事無いだろ」
俺は、苦笑いをしながら扉をくぐる。
俺が出た先は向こうの世界の俺の部屋だった。
今回はあの真っ白の空間は通らなかった。俺自身あの空間嫌だったから、通りたくないなー。とか考えてたら通らなかった。
「暗いな……」
扉から出ると、外は真っ暗で窓の向こうには月が浮かんでいた。
俺は部屋から出てフィアの部屋に向かった。
「フィア、ただいまー。お菓子持って来たぞー」
ドアをノックしてみるが、返事は無い。
「入るぞ?」
俺は一応断りをいれてから、ドアを開ける。しかし、部屋の中は真っ暗で人の気配は無い。
「どこ行ったんだ?」
この時間でいつもなら、フィアは部屋で本を読んだりしてダラダラしているハズなんだが……。
と、一人で考え込んでいると、外がいつもより騒々しい事に気が付いた。フィア達もそっちにいるかと思い、外に向かう。
「フィア、マウ。ただいまー」
そこには、傷だらけの状態で地面に横たわるフィアがいた。
エセ「なんでやー!!」
作者「9万PV、一万ユニーク突破しました〜。ありがとうございます」
エセ「世界移動したのになんで俺が出ないんや!」
作者「え〜、何となく?」
エセ「ふざけんなや!」
作者「はいはい、エセ関西弁は置いといて・・・」
エセ「スルーかい!」
作者「ご意見、ご感想等をお待ちしています」