第十幕 道化師の一時帰省(中)
『おう、緋焔か相変わらず元気みたいだな。何よりだ』
そういって電話にも関わらず大声で笑う。わざと大声な訳じゃないんだけど……。
「一時的にしても行方不明だったのに心配とかしないの? 父さんは……」
そう。俺が電話をしている相手は父親こと霧城 竜哉。たつやとは間違っても読んではいけない。
理由?某熱血野球漫画の主人公がかわいそうだから。って、俺誰に話してるんだろ。
『ちょっと竜ちゃん。緋焔くんからの電話なら代わってよ。一言文句言ってやるんだから』
こっちは俺の母親、霧城 奈美。
いつまでも若いカップルの様にイチャイチャとしていて、滅多な事では長期間離れる事は無い。
両親じゃなければ殺っていた……っと、これは余談だな。
「あー、もしもし母さん? 緋焔だけど―――」
『ちょっと緋焔くん? どこ行ってたのよ! お母さん達の所にも警察とか学校とかから電話が来たんだからね!』
懐かしい喋り方。まるで子供の様だと昔は思った。
「ところで、ちょっとお願いがあるんだけど……」
『緋焔くんがお願いなんて珍しいわね』
思えば、俺は両親にお願いなんて初めてだ。だからこそ、今が使い時だ。
「うん。一生のお願い」
『へえ……私達に何をお願いするのかな? 緋焔くんは』
母さんの声色がはしゃぐような感じから、落ち着いた感じの声に変わる。
「俺を一時的に留学扱いにしてほしい」
『いいよ』
「え? マジですか」
即答。
こんなに簡単にいくと思わなかった……。俺の緊張を返してほしいよ。
『ただし、条件があるよ』
ですよねー。
「で、その条件は?」
『他人にこれ以上迷惑をかけない事と、生きてること』
「………はい」
……優しいんだか適当なんだか。
『ああ、でも条件破ったら死んでも墓には入れないし、葬式なんてしないし、無縁仏にするから』
「……はい」
やっぱり訂正。怖いです。
『うん。それだけ。じゃあ、後はパパとママに任せなさい!』
「え? どこ行ってたか聞かないの?」
『そんなのお互い様だもん』
「……ちなみに今どこに?」
まあ、大体予想はつくけど…。
『バミューダトライアングルに入るちょっと手前よ。もうちょっとで入るからもう電話切るよ。じゃ、グッドラック!』
ぶつっ
俺が耳に当てている電話からは、通信が切れたときに鳴るような音が聞こえて来た。
予想?当たらずとも遠からずだったよ。てっきり、某地上絵の近くかと思ったんだけど。
「で、緋焔のお父さん達はどこに行ってたの?」
「バミューダトライアングル」
「緋焔のお父さん達らしいね」
藍はそうやって苦笑いする。
全くだ。毎回出かける度に息子達を心配させるんだから困……らないな。慣れた。
と、のんびりしようと電話を置こうとした瞬間に電話が鳴る。
「もしもし、藤野ですが」
俺は反射にも近い感覚で電話を取り、藤野と名乗る。だって、藍ん家電話だし。
『あ、緋焔くん? さっき言い忘れてたんだけど、美樹ちゃんもそっちに行ってるからあとよろし―――』
ぶつっ
はい。完全に切れましたね。しかも言い途中。
ただ、問題はそこではなくて……。
「今の誰から?」
「母さんから。……で、一つ問題が―――」
ピンポーン
家のチャイムで定番のあの音が鳴る。
そして、俺の額からは冷や汗。
「あ、はーい」
「藍! ちょっと待―――」
ガチャリ
玄関のドアが開きそして、ドタドタと家の中を走る音が聞こえ、目の前の藍の部屋のドアが勢いよく開かれる。
「お兄ちゃ―――」
「来るなー!」
俺はすぐさまその場から飛び退き藍のベッドにダイブする。
あ、もちろん他意はないです。ホントに。
「来るな近寄るな離れろ!」
「酷いよ……お兄ちゃん……」
俺が数秒前まで座っていたところにヘッドダイビングをしてきたのは、俺の妹である霧城 美樹。
ちなみに、16歳で中学三年。俺と年子だ。
「お兄ちゃんだけじゃあ、家事が出来ないと思って来てあげたのに……」
美樹はそう言って、擦った鼻をさすりながら乱れてしまった自慢の長髪を整える。
「ん? 美樹髪伸びた?」
俺が最後に見たのは、肩甲骨くらいの長さの綺麗な茶髪だった。しかし、今の美樹の髪はどう見ても肩甲骨よりも下だ。
腰と肩甲骨の中間……と言ったらわかりやすいだろうか。
「やっぱり分かった!?」
「あ、ああ。そりゃあ分かるだろ」
額と額がぶつかりそうな勢いで迫って来た美樹に少したじろぎながらも答える。
「えへへ〜」
ニコニコと笑いながら、両手を頬に当てて自分の世界にトリップする美樹。
「あー……トリップしてるところ悪いんだが、話したい事があるんだが……」
「え? あ、うん。何?」
美樹はトリップから戻り、話を聞くために俺に向き直る。
「俺、しばらくこっちの世界からいなくなるから。藍の世話になるか、俺の部屋で暮らしててもらえるか?」
「…………………」
予想はしてたが予想以上に何があったんだ的な視線が痛いぃぃぃ!
「えーと、美樹ちゃんはとりあえず緋焔の話を聞いてあげて。真っ赤になって私のベッドで悶えてるから」
「……はい」
……藍が女神に見える。
「……よし、落ち着いた」
俺は五回くらい深呼吸をしてやっと落ち着き、美樹の方を向く。
「とりあえず、今から俺が言うことに嘘とか妄想とかそういうのは一切ない。全部俺の身にあったことだ。そこに注意して聞いてくれ」
じゃないと、また悶えなきゃならなくなるからな。
「うん、分かった。お兄ちゃんの言うことならなんでも―――」
「最初は学校だったんだ。で、いつも通り屋上で寝ようとしてたんだけど……」
俺は美樹がなにか余計な事を言い出す前に強引に話を始める。
俺がひとしきり話し終わって背中から倒れ込むと、ちょうどいいタイミングで藍が紅茶とクッキーを持ってきてくれた。
「はい。昨日美味しそうだったから、買ってきたんだ」
「ん、ありがとう」
俺は紅茶を一口飲んでからクッキーをつまむ。
「ん〜、やっぱり美味いな」
「ありがとう」
と、藍とそんなやり取りをしている横では美樹が、容量オーバーを起こし焦点の合わない目で空中を見ている。
「で、緋焔。美樹ちゃんはうちで預かってもいいけど、部屋はいいの?」
「ああ、そうだった。ゲームとかラノベとか持っていかないと」
「……ホントにそれだけ?」
「ホントにかどうか聞かれてもな……。あ、あとマンガ」
2次元は大事だよ。うん。
「…………」
なんだろう。藍と、いつの間にか覚醒した美樹がものすごいジト目で見てくる。
「な、なにか…………?」
「別にねえ……美樹ちゃん」
「言わないなら聞かないよ……ねえ、藍さん」
ジト目です……とても。
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ。気になるだろ」
(二人はあなたの部屋にエッチな本が無いか心配してるですー)
(なるほど。分かったからさっさと帰れ疫病神)
勝手に思念繋ぐなよ、うるさい。
(せっかく教えてあげたのにひどいですー)
それだけ言うと思念は切れたようだった。まあ、今回は許してやるとしよう。
「あー。ちなみに、俺の部屋にはエロい本は一切無いから安心しろ」
そういうと、今度はかわいそうな物を見るような目で俺を見て来た。
あれ?なんかデジャブ。
「……ごめん、緋焔がそういう趣味とは思わなくて…………」
「お兄ちゃんは、どんな人でもお兄ちゃんだからね………」
「藍は後で部屋に来い。それが間違ってる事をその身に刻み込んでやる。美樹はその台詞を目を合わせて言ってみろ」
全く、俺が男も好きな変態みたいじゃないか。
「「………………」」
あれ?ジト目3割増しでこっちを見てる。何故?
(藍さんに言ったこと考えるとどっちも変態ですー)
(………なるほど。帰れ)
俺がそう言うと向こうから思念を切った。
素直なのはいい事だよな。
「さて………………冗談はほどほどにして、俺は荷造りに行ってくる」
俺は嫌々ながらも腰掛けていたベッドから立ち上がり、自宅へ向かうべく部屋をでる。
「あ〜……。行って数日なのに何故か懐かしいな」
藍と俺の家は歩いて1分程なのですぐに着くのだが、俺は久しぶりの世界を満喫するためゆっくりと歩いていた。
休みの昼というだけあって、よく人とすれ違い、挨拶をする。……俺が行方不明だったのを知っているはずなのに、何故みんな平然としてるんだ。
「やっぱり、パパとママの子供だからじゃない?」
「ああ、なるほど。って、いつの間に!?」
気が付くと、俺の真横に美樹が並んで歩いていた。
忍者ですかコイツは。
「忍者なんかじゃないよ」
「なんで分かった!?」
「お兄ちゃんだから」
「……理由になってねえ」
俺がツッコミを入れるが、本人は上機嫌でしかも鼻歌を歌いながら俺の横を歩いている。
「で、なんで来たんだよ? 藍のところでゆっくり待ってればよかったろ」
「きっと、お兄ちゃんの部屋散らかってて片付けるのが大変だからね。お手伝いに来てあげたんだよ」
美樹はドーンという効果音が付きそうな程胸を張って言った。
「手伝いたいって言ってくれるのは嬉しいけどな……」
「けど?」
「多分、いらないと思うんだけどな」
「ふ〜ん?」
なんて話している内に家に着いた。
「ゆっくり歩いたつもりなんだけどな……」
「楽しい時間はすぐに過ぎちゃうんだよ」
俺は玄関の鍵を開けて久しぶりに自宅に帰った。
「相変わらずだね」
俺の部屋は相変わらず綺麗に整っていた。若干、部屋の角に埃がたまっているのが気になるが……。
「まあな。汚いのいやだし」
「で? 荷物をまとめる鞄は? さすがに学校用のは使えないもんね」
そう言いながら、部屋の中をあさり始める美樹。
「あー、汚れるからやめろ。ちょっと待てって」
俺は、美樹にそう伝えあいつに思念を繋ぐ。
(なんですー。人を散々邪魔者扱いしたくせにー)
(ちょっと聞きたいことがあるんだけどな)
(無視です?!)
いちいち付き合ってられるか。めんどくさい。
(こっちの世界でも能力は使えるんだよな?)
(はい。基本的に神様の力はどこでも使えるですー。それこそ、神殺しの作った空間でもない限りは)
(余計な情報混ぜんな。まあ分かったよ)
(何ですー! せっかく役に立つ情報を混ぜてあげたのにー!)
(教えてくれてありがとうな)
(ふぇ?)
俺はここで思念を切る。まったく、なんであんなこと言ったんだか……。
「さあ、荷造りを始めるか!」
作「・・・・・信じられません」
エセ「どうかしたん?なんか、やけに震えてるけど」
作「7万PV突破しました!あと、もう少しで一万ユニーク!」
エセ「おー。よかったやん」
作「こうやって作品が続いてるのも全部皆さんのおかげです!ありがとうございます!」
エセ「どうも、ありがとうな。・・・で、や」
作「ん?何?」
エセ「なんで俺がこっちに出てんのや?」
作「・・・本編で出番でるか分かんないし、可哀想だから」
エセ「お前・・・」
作「っていう名の建前で、実際は思いつき」
エセ「最低や!」
作「作者は、皆さまからのご意見、ご感想等をお待ちしています」
エセ「シカトかいな!」