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獣人の侍女見習い達

元奴隷獣人侍女見習い視点です


 アタシたちは暗い檻の中にいた。


『おぉ〜、今回のはこれまた上玉だ』


 ニタニタしたおじさん達がアタシ達を見てそう言った。


『いくらの値が付くか、今から楽しみですね〜』


 手をもみもみしてる若いおじさんがそう言った。

 檻の中にいるおねぇちゃん達はみんな震えてた。

 アタシはおじさん達の言ってることの半分も理解できていなかったけど、その人たちが悪い人達なのは知っていた。


 おじさん達がいなくなると、部屋はより真っ暗になった。

 フサリと頬撫でられ、そちらを振り向けば、アタシと同じ白い耳を慌ただしくピョコピョコさせて座ってる子が声を潜ませて言ってきた。


「アンタ、余計なことしちゃダメよ」

「何のこと?」

「……ここから逃げ出そうなんて、考えちゃダメよ」


 「どうして?」と尋ねる前に、その子の尻尾がアタシの口を抑えた。


「…………せいぜい気楽に遊んでなさい」


 その尻尾に興味が移り遊び始めたアタシを見て、その子がこぼした言葉は、アタシの耳には全然聞こえなかった。



 光が部屋に入るたびに、一面は白く輝いた。

 おねぇちゃん達の長い髪が、キラキラ輝く光景がアタシは好きだった。

 白い耳も、髪も、尻尾も。

 アタシは大好きだった。

 自分も同じ色をしているのかと思うほど、心がワクワクした。


「…………ほぅ」


 ふと、顔をあげるとそこには一人のおじさんがいた。


「こりゃ確かに、見ごたえがあるなぁ」


 ニヤッと今までのおじさん達と同じ笑い方をした。

 おねぇちゃん達は肩を震わせていた。


「…………全部でこれだけか?」

「もうすでに、何人かは売られております」

「おいおい、残しとけって言っただろ」

「申し訳ありません」


 その時初めて、おじさんの他にも人がいることに気がついた。

 顔は隠れて見えなかったけど、おねぇちゃん達と同じくらいのおねぇちゃんだった。


「回収しとけ」

「承知しました」


 そう言うとおねぇちゃんの方はすぐに居なくなってしまった。

 ……顔、見たかったな。

 ちょっと残念に思いながら、またおじさんの方を見ると、おじさんと目がパチリと合った。


「おいチビ。お前、どんぐらいここに居たか分かるか?」

「分かんっ」


 おじさんが屈み込んでそう聞いてきたから「分からない」と答えようとしたとき、すぐに口元があのフサフサで覆われてしまった。


「ちょっとアンタ、わたし達は商品よ。客じゃないなら話しかけないでくれる?」


 さっきのあの子が、そうおじさんに言っていた。

 しょうひん?


「へぇお前、頭いいんだな」

「少なくとも馬鹿じゃないわ」


 おじさんはジロジロアタシ達を見て、聞いてきた。


「お前らは姉妹か?」


 さっきのあの子はそれに答えなかった。

 アタシの口は未だに塞がれていて、何も話せなかった。


「……無視か。いい判断だな」


 そう言っておじさんが立ち上がると、アタシ達を一人一人見た。


「お前らに選択肢をやろう」


 おじさんの言葉に、震えて俯いていたおねぇちゃん達が少しずつ顔を上げた。


「一つはこの場に留まり、新たな飼い主が決まるまで怯えているか。二つは今ここから逃げ出し、何も知らない外の世界に飛び出すか」


 いつの間にか、みんながおじさんを見ていた。


「そして、最後の三つは俺の飼い犬になるかだ」


 「さぁ、好きに選べ」とおじさんは言ったけど、どれもアタシにはよく分からなかった。


「……急に来て、急に何なの?! わたし達は商品よ! そんな勝手な選択肢っ」


 あの子がそう叫んだ。けれど、最後まで言い終わらずにおじさんは言った。


「俺は選べと言ってる。お前らに与えられたのは選択権だけだ」


 みんなが顔を見合わせる。

 アタシみたいによく分かってない子もいた。

 未だ怯えた子もいた。

 すると、奥に隠れてた一番キレイなおねぇちゃんがゆっくりと前に出てきた。おねぇちゃんに泣きついていた小さい子が大泣きしていた。


「……貴方が選べというそれは、本当に選択できるのですか?」

「……あぁ。保証しよう」


 おじさんはまた悪い顔でニヤリと笑った。

 これがどういうやり取りであったかは分からなかったけど、本当に自分で選んでいいことはアタシにも分かった。


 キレイなおねぇちゃんはこっちを振り向くと、みんなに聞こえるように優しく言った。


「みんな、好きに選んでいいのよ。ここにこのまま居続けたい子は奥に寄って」


 すると、何人かが少しだけど動いたように見えた。


「それから、この方に付いて行きたくない子は端に寄って」


 すると、また何人かが動いた。でも、動いてない子の方が多くて、アタシみたいにただ周りを眺めてる子が断然多かった。


「……それでは、これで宜しいでしょうか?」


 おねぇちゃんがもう一度おじさんの方を振り向くと、おじさんは全体を見回した後でおねぇちゃんに聞き返した。


「本当にいいのか? よく分かってねえやつもいるぞ」


 おじさんがそうおねぇちゃんに尋ねると、おねぇちゃんは一つ頷いた。


「宜しいのです。今、この場で判断できなかった子はただ貴方の裁量に任せるしかない。貴方を拒絶もできず、ここに残りたいとも思わない子達ですので」

「……お前はどうする?」


 おねぇちゃんが話し終えたあと、おじさんは更におねぇちゃんに尋ねた。


「……私はこの場に留まります。勝手な個人の裁量で決めてしまったことですもの。大人しく、残された子たちのを見届けてから、私も同じように新たな飼い主を求めます」

「……逃げる奴らはいいのか?」

「逃げる子たちの中には、私以上に賢い、しっかりした頼れる子がいます。きっと大丈夫でしょう」


 ふと、気がつくとさっきのあの子はいなくなってた。

 どこに行ったのか探そうと思い、周りを見回したがすぐにおじさんが話し始めた。


「じゃあ、俺に付いてこなくていいのか? 酷い主だったら、選ばせてもらえなかったコイツらが可哀想すぎるぜ」


 そこで初めて、キレイなおねぇちゃんは顔を上げておじさんと目を合わせた。

 そして、これまで以上にキレイにニッコリとして笑った。


「貴方様なら、きっと大丈夫であると。そう確信しております」

「何を根拠に……」


 おねぇちゃんはそう言い切ると、ゆっくりとおじさんに背を向け奥まで戻っていった。

 これを最後に、アタシはこの暗い檻の中から出ることができた。

 おひさまはすごく温かいのだと、それからすぐに初めて知った。


 おじさんは、アタシ達を連れて大っきいお屋敷に着いた。

 お屋敷の中には、おじいちゃんやオクサマがいて、他にもクマさんやニンギョさんがいた。

 あとたまに、あの黒いおねぇちゃんも見た。

 おじいちゃんはシツジさんで、おじさんはゴシュシンさまと呼ぶように言われた。



 それから何年かして、執事さんがあたくしにコッソリ教えてくださったことがあった。

「みなさんは無事に、全員適切な場所で保護されてますよ」とのこと。

 あたくしのご主人様は、一人として逃さない傲慢な悪魔です。

次回は悪魔の『庭師』。

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