21階層での逃亡劇2
ユリアンネは走りながら焦っている。時々後ろを振り返り≪火炎≫を発動するも、なかなか敵の勢いは収まらず、今は自分1人に数人の殺意を向けられるのを感じる。
『まだ?まだなの?』
罵声を浴びせながらユリアンネに追いつきかけている“蒼海の眼”の男達の後ろには、シミリート達も追いかけて来ているのだが、ちゃんとついて来られているのは、日頃から訓練を欠かしていないシミリートだけである。
ヨルクは体格的に厳しく、カミラは誘拐されて体力も無くなった上にユリアンネの大きな杖を抱えているため、2人はかなり引き離されている。
ゾフィはまだついていけていたのだが、時々は牽制のために先を走る“蒼海の眼”に矢を放つため、その都度遅れが生じている。そしてジーモントはシミリートから少し後ろを走っている。
つまり、ユリアンネは足を止めてしまうと、敵には追い付かれるが、仲間達が追いつくにはもう少し耐え忍ぶ必要がある。近接戦が全然であるユリアンネにはその選択肢が無い。
引き続き≪火炎≫を敵に発動して嫌がらせをしながら、何とか走り逃げ続けるしかないのである。
そして岩場の隙間を通り抜けたところでユリアンネの足が止まる。肩で息をしており、これ以上は走られそうにない姿である。
「くそ、手こずらせやがって!」
「薬師だけでなく、攻撃魔法使いとしてもなかなかだったんだな。これからこき使ってやるぞ!」
順次追いついて来た6人も息を切らせながら、ユリアンネを睨みつけて真っ直ぐ近づいてくる。
そして、その6人が炎に包まれる。
「はぁはぁはぁ、やっとね……」
その地面から噴き出した炎から出てこようとする男達に、追加で≪火炎≫を打ち込み続ける。魔力回復ポーションを飲みながら追撃しようとしたが、追いついてきたシミリートが手を振り、
「ユリ、もう大丈夫だ……」
と息を切らせながら声をかけてくる。