見習い勧誘2
オトマンが帰って行った後、父ラルフに呼ばれる。
「オトマンさんは魔導書の写しを見たと言っていたが?」
「お父さんの魔導書を書き写したこれを読んでいるのを見られたの」
「確かに上手に書き写しているな。魔術語なんて難しい字や複雑な図形の魔法陣も。いつの間に?」
「お姉さんも読むから、写しでももう一冊あった方が良いかなと思って。勝手にごめんなさい」
「いや、謝ることではない。これは確かに立派だ。羊皮紙もちゃんとした物に書いて製本したら売物になるぐらいかもしれない」
オトマンが腰痛薬のことを言わなかった誠実さを認めつつ、写本のことを秘密にするのを忘れていたと気づき、まさかの書店員見習いへの勧誘に驚いていたユリアンネである。
「書店員を選ぶか選ばないかは置いておいて、一度オトマンさんのお店に行くか。薬草の書籍だけでなく、もしも魔法使いの道を選ぶことになったならば魔導書も扱う書店に縁があった方が良いからな。もちろんアマと3人で」
「お父さん、私、高級街の書店なんてはじめて。ついでに美味しいもの食べようね」
「そうだな。ユリも気楽に見学させて貰おう」
「はい……」
ラルフの店舗兼住居からオトマンの店舗兼住居へは徒歩1時間ほどであった。
店舗の立地場所は書籍を購入できる経済力のある層に相応しく、確かに高級街らしく近くの店舗や住宅も、ラルフの店舗付近より1軒1軒の敷地が大きく上等そうであった。オトマンいわく、これでも貴族街よりダンジョンに近い方なので安い方とのこと。
オトマンの店舗“オトマン書肆”は、ユリアンネの前世の記憶の書店、壁一面の本棚に隙間なく本が詰まっている印象とは全く異なり、ゆったりした陳列であった。
「ラルフさん、アマルダさん、そしてユリアンネさん、ようこそお越しくださいました」
オトマンが出迎えてくれ、ラルフが挨拶をする。
「オトマンさん、お言葉に甘えて、見学にお邪魔させて頂きます」