イスクラディヤの開戦2
「この国の軍船が反撃を始めたわ」
シミリートたちと情報共有をしたところで、再びユリアンネがシルヴィスの視界で沖の方を見ての発言である。
数十隻のハンソク王国の軍船が港の中に向かう際に、邪魔になったと思われる商船に火をつけたのが最初は1隻だけだったのが、今は3隻に増えている。
商船からも火矢が飛んでいるが反撃と呼べる量ではない。
そして、そこからもっと離れた軍港から数隻の軍船が出発しているのが見える。
その燃えている船の近くの海域に到着したとしても、軍船の数ではかなり劣勢でハンソク王国を追い返せるとは思えない。
港にいた他の船たちも状況を認識したのか、沖の方ではなく港の方に逃げ出しているようである。
その様子は、港の端にいる自分たちでも分かるくらい、地上側にも混乱が始まっている。
「そうか。まずは孤児たちにも状況を伝えることにしよう」
シミリートが自分に気合いを入れて先導する。
「ダニーク、みんな、聞いて欲しい」
孤児の中でも最年長でリーダーとわかったダニークに声をかけつつ、周りの孤児やジーモントたちにも聞こえる声で言う。
「このイスクラディヤ国に、北のオンデンスク国が攻めて来た。そして海の方でも、東の方の国、ハンソク王国がたくさん攻めて来ている。そのうちこのセントヤールの街自体も大変になると思う」
なるべく子供でも分かる言葉に噛み砕いてゆっくり話しているのは、衛兵経験があるシミリートらしさなのか。
子供たちも状況を理解したのか、まだ黙って聞いている。
「つまり、この街にずっと居るのは危険だ。俺たちと一緒に逃げないか?」




