ソウムの街
ハンソク王国に入国しても街道を進むだけであれば、その言葉を話せなくても問題ない。
しかし、最初の街であるソウムに着いたときにはそうは行かない。
「いよいよソウムね。ここは私に任せてね」
フィジが馬から降りて門番のところに進みでる。
「ユリ」
シミリートからの合図のように、ユリアンネが悪魔ギアマに魔力を提供して、姿を消したまま通訳させる。
『えーと、あの8人は冒険者で、このハンソク王国を通過するためにここにいるのよ。このソウムも同じね。でも通過って言っても、美味しいものを食べさせてあげたいじゃない。あれよ、あれ。きっとびっくりするわよ』
『あぁ、冒険者か。じゃあ、証明書があるよな。で、お前は何だ?』
『私は風花の中つ国に行った後に仲間と別れてしまって。今は通訳よ。西のノムチの街の近くに帰るのに同行するわ』
『じゃあ、冒険者の証明書がないお前だけ銀貨1枚だ』
『えー。でも、まぁ仕方ないわね』
ギアマが意外と丁寧に通訳した内容を、ほぼそのままユリアンネが仲間達にも共有する。
「はぁ、融通の効かない門番で困ったわ。私だけ通行料を取られたわ。あなた達は身分証をちゃんと出せば良いからね」
「そうか、助かったよ。フィジも冒険者登録をしておかないのか?この機会に」
「あなた達を前にして何だけれど、なんか荒くれ者の仲間になるみたいで嫌なのよね……」
「無理にとは言わないが、無駄金を節約できるのに」
「あら、今回のお金は、通訳業務の必要経費として払って貰えるのではないの?」
要求されたシミリートが後ろを振り返っても、仲間達は仕方ないと頷くので、シミリートがため息をつきながら代表してフィジに銀貨を渡す。