ツキノハラから帰国準備
意気込みが見えるヨルクが刀鍛冶の仕上げに向かったのを見送り、ユリアンネは薬師フォレスト・ソウルと陰陽師サン・アーチャーに会いに行く。
「そうですか、残念です。もう帰国されるのですね」
「はい、かなり長いことこのツキノハラでお世話になりましたので」
「もしも母グリーンリーフに再び会うことがあれば、あなたの息子は元気にやっているとお伝えくださいね」
「はい、承りました。フォレストさんに教わった技も披露しながら、このツキノハラの現状をお伝えしますね」
「ありがとうございます。ぜひ、ユリアンネさん達がこのツキノハラの懸念だった、封印の悪魔のことやオーガ村を殲滅されたことなどもお話しくださいね。きっと秘術を教えてくれると思いますよ。もう先も短いので」
「そんなことをおっしゃらずに。お元気でしたからまだまだだと思いますよ」
フォレストのところでは、手元にある限りの薬草を用いた丹薬の作成などを行い、まだ中級段階の技術に対して今後の改善点やその練習の仕方などの指導を受ける。
サン・アーチャーからは、まだ初級の発火、罠、簡易式神しか製作できないユリアンネに対して、使い捨てにはなるが中級の式神をいくつか分けて貰う。
「こんな貴重なものを」
「いや、ツキノハラがお世話になったことに比べたら。他国では紙作りも大変だろうから、若人のいざという時のお守りにして貰えたら、老い先短い者にとってありがたいこと」
「そのようなことを」
おそらくもう2度と会うことは叶わぬ別れであることを互いに発言はしない。
ただ、ユリアンネはオトマンという高齢の師匠と実際にもう会えなくなったことを思い出し、少し涙ぐむ。
サンは経緯までは分からないが、自身との別れに対して感傷的になってくれる若い弟子に対して、ついついこれもこれもと、ツキノハラの名産のお菓子なども次々と渡していく。
久しぶりに帰省したときの母親からの行動のようなものであるが、残念ながらユリアンネは前世も今世も含めてそのような経験がなくそこに思いあたれないが、気持ちをありがたく受ける。