呪符3
機会があった時にこの世界の地図なども見ていたが、東に弓形の細い列島があった記憶はない。オトマンに確認しても、東の方に黒髪や肌が黄色い人種が集まっているという話も無いらしい。
しかし、自分以外の転生者の情報になり得ると思い、ユリアンネはいつもインクを購入する店舗に足を運ぶ。
「え?煤を使ったインク?ユリちゃん、珍しいものを知っているね」
「販売されているのですか?」
「いや、うちでは扱っていないよ。作れる職人も知らないし。話に聞いたことがあるだけだよ。ユリちゃんはどこで聞いたの?」
「いえ、本で読んで知ったので、実物を見てみたいなと思っただけでして」
書道の授業の時に、墨は煤から作ると聞いて驚いた前世記憶があった。ちなみに、鉛筆の芯も炭と聞いて驚いたが、それ以上の驚きであった。煤なんて当時の一般家庭では縁が無く、学校のキャンプ合宿で飯盒が真っ黒になったのを洗い落とすのに苦労したぐらいである。
墨の方では情報が無かったので今度はゾフィのところに行く。
「あらユリ、手に入れたのね。へぇガラクタ市で。ちょっと待ってね」
ゾフィが皮革屋である両親に呪符を見せに行く。
「うちでは扱っていないみたいね。これインクじゃ無いみたいだし、結構な秘密なのかも。勝手に盗んだと思われても面倒だし、あんまり変なところで出さないようにしないとね」
「確かにね。ありがとうね」
ゾフィのいう通りで、別のインク屋や皮革屋にも行ってみようと最初は思っていたが、変に秘術を探っていると思われたときには面倒なことになりそうである。また、その理由が転生者ということであるならばなおさらである。
平穏な人生のためには、これ以上は深入りしないようにと呪符は棚の奥にしまい込むことにした。