悪徳薬師
オトマンに断って、父姉のところに顔を出していたある日。
「ユリ、いま流行っているこのポーションに見覚えは無いか?」
姉が居ないところで養父から、自分のマークの入ったアンプル型の薬瓶を見せられる。
「そうか、やはり」
何も言わなくても動揺を悟られたようである。
「アマも薄々は気づいているぞ。ユリが身を引いてオトマンさんのところに行ったこと」
「そんなこと……」
「いや、その気持ちも理解しているからアマも何も言わないのだろう。養女であることを引け目に思う必要はなかったのだが、俺が気付けてやれず悪かったな」
「お父さん……」
「オトマンさんが、本当に薬師のことも自由にさせてくれていることも分かって安心だ。さぁこの話はもう終わりだ。それよりも、だ」
父ラルフが座り直して話を続ける。
「最近、もう一つ、こちらは嫌な話があって、な。普通の人には違いが分からないことを良いことに、粗悪な薬を売っている奴がいるらしいんだ。確かにすぐに効果が出るポーションと違って普通の薬は飲んで効果が出るまで時間もかかるし、効果の程度や熱が出るなどの副作用も人それぞれだから、薬師の腕だけを問題にするのも違うのもあるが」
「でも噂になるってことは、良い効果の方が少ないと?」
「そうなんだ。人間には元々自分で回復する力があるから、単なる水でも薬と信じさせて飲ませても治ることもある。それなのに悪化する話ばかりだと……」
「ひどい話ね」
「まぁユリに直接関係はしないと思うが、薬師を続けているならば知っておいた方が良いと思って、な」
「お父さん、ありがとう。気をつけておくね」
「もう一つ。なぁアマのところに婿に来てくれるような良い男はいないかな?人当たりは良いのに特別な関係の男は居ないみたいで。薬師でなくても良いんだが」
「え?紹介できるほど知り合いは居ないから」
「あの武器屋の息子、衛兵になると言っていたのはどうだ?」
「え?うーん、確かに三男で性格も悪くは無いし、良いかもね」
「おや、ハズレだったか?」
「?」