商品拡張の検討
迷宮都市というだけあり、ダンジョン攻略に関係して傷回復、それよりは需要は少ないが魔力回復と解毒のポーションが売れて行く。
それはそれで薬師として嬉しいユリアンネではあったが、できればもっと違う薬もたくさん調合して住民の役に立ちたいという欲が出てくる。顔は出したくないが、利用者に近いところで販売したい、対面での調剤薬局を意識している矛盾ではある。
「贅沢な話ね。ユリのポーション売却益、かなりな額になっているでしょ?元々、書店での写本などの収入もあるのだから結構貯金できた?」
「あら、そのポーション売却にはカミラの薬瓶売上もついて来ているはずよね」
「まぁおかげさまで。お得意様、いつもありがとうございます。でも原価率は違うわよ」
「そうね。かといって私のポーションだけ値下げすると多くの薬師から恨まれるから、相場感を外れるわけにも行かないのよね」
「だから、他の人にも役立つ薬ね。確かに簡単な病では回復薬やポーションにお金をかけたく無い人、かけられない人も多いわよね」
「そう、戦闘には無縁な住民が多いのにね。解熱薬、鎮痛剤や下剤などをもっと普及できたら良いのだけど。喉薬、胃腸薬、二日酔いなども」
前世の薬局、物によってはコンビニや駅の売店でも買えるような薬の普及もイメージしているユリアンネ。
「そうは言っても、ユリは薬師の店舗が無いし、ガラクタ市で期待されるのは傷回復や魔力回復が主でしょう?」
「そこが悩ましいところなのよね……」
たまに、薬師の父姉の店舗兼住居に顔を出しては居るが、そこはあくまでもその2人の店舗であり、ユリアンネが調合した商品を陳列する場所ではない。また、少なくとも姉には実力を隠して、“オトマン書肆”へ書店員見習いに来た背景もある。
「オトマンさんなら、この書店の端で薬の販売も許してくれるのでは?」
「それはそれ。そこまで甘えると何か違うかと思ってね。書店の後継者ということも忘れてはダメだから」
「難しいわね」
結局は冒険者ギルドの常設依頼である各種納品依頼の薬類に対して、店頭販売より少し安い金額で納めることを継続するしかないユリアンネであった。