魔道具
ユリアンネが気になって立ち止まり確認をしたのは、一般の生活品に混ざってホコリまみれな文房具が並べられた露店であった。
ユリアンネがその中の羽根ペンを掴みホコリを払いながら持ち上げると売主の老婆が声をかけてくる。
「あら、今日はじめて手に取って貰えたわ。その辺り、去年に亡くなったウチの亭主が集めていた物でね。そろそろ踏ん切りをつけないと、と思いつつホコリを払うと売れてしまうのではないかと……」
「では……」
手に取った羽根ペンを戻そうとするユリアンネ。
「あ、違うのよ。そんな状態でも手に取ってくれた貴女にお願い。銀貨1枚で良いから、その羽根ペン、インク、羊皮紙のコレクション、まとめて買ってくれないかしら」
「!そんな安くでは」
「もちろんホコリを落として専門店に持ち込めばもう少し高く売れるのでしょうね。でも、興味を持ってくれる人、縁があった人にまとめて貰ってもらえた方があの人も嬉しいと思うの。これらを使う仕事なんでしょ?」
「はい……」
「じゃあ、銀貨1枚での押し売り。お願いね」
もちろん書店員、写字生として、趣味の良い文房具コレクションが気になったから鑑定魔法を発動していたのであるが、手に取ったのは別の意味であった。
「ユリ、大丈夫?」
亡き夫の形見に別れを告げているのか、丁寧にホコリを払って包んでくれたものと引き換えに銀貨を渡して移動すると、再びカミラが声をかけてくる。
「確かに良い品が多く見えたけれど、1本だけは違ったの?」
「えぇ、魔法か何か特殊効果があるみたい。詳しくは魔道具屋で見て貰わないと」
「何だと!ユリに負けておられないぞ。俺たちも掘り出し物を見つけるぞ!」
ヨルクが張り切って残り3人を急かしてあちこちを見て歩くが、特殊効果までありそうなものは、売主も認識していて高い値段のつけられたものばかりであった。
ただ、月末で出店も多かった分だけそれなりの成果は得て4人は解散する。