インガルズの焦燥
「どういうことだ!何が起きている!」
領主館の本邸の玉座で叫ぶインガルズ。
「は、賊が侵入して離れからインリート様を」
「何!モンタール軍への備えで西側に配置を増やしたのが裏目に出たか。追手を出せ!」
「それが。西側からの軍勢が」
「何だと!トリアンの西の草原で対峙していたのではないのか?」
「は、そちらは早々に決着がついてしまったようです」
「なぜだ!」
「独立反対派がモンタール王国軍に寝返ったようです」
「何だと、どいつだ!そいつらの屋敷に兵を向かわせろ!」
「ですから、その余裕はございません。この領主館の西側にすでにモンタール軍が攻め上って来ております。いざとなれば脱出のご準備を!」
「まずいぞ。まずい」
自室に戻ったインガルズは焦る。このままではモンタールに対して叛逆した首謀者として、簡単な死を迎えることすらできないだろう。
「こうなれば」
自分がこっそり知っている秘密の抜け道に行くしかない。
「これだけは最後の手段と思っていたが」
隠し持っていた服に着替えて、魔法の収納袋に色々なものを詰め込んで逃げ出す。
「インガルズ様!」
自分を探しに来た者からも逃げる。味方として探しに来たのか、自分をモンタール軍に差し出すために捕まえに来たのか疑心暗鬼になっている。
もう妻子のことを考える余力もない。
「とにかく逃げなくては。私が逃げ切れさえすれば、後からでも何とでもなるはずだ。一度は同盟を組んだビザリア神聖王国ならば匿ってくれるだろう。何としても北の国境まで逃げ切れば」