晦日
そして月末30日、晦日になる。
今夜の満月、その月跨ぎでのトリアンダンジョンの構造変更から退避するため、ダンジョンに潜っていた冒険者達が迷宮都市に溢れている。
その冒険者達は日頃ダンジョン内で味わえない料理や、魔物を気にしなくて良い気楽さで飲酒を楽しんでいる。ダンジョンに潜って入手した素材の売却や魔物討伐の報酬などで入手した金銭も手にしているため、財布の紐はかなり緩い。
その緩くなった財布や多くの冒険者目当ての商人、そして持ち込まれる素材の調達に来る商人もこの時期には増えるため、迷宮都市トリアンは宿が不足する混雑状態である。自然と迷宮横の広場はテントに埋め尽くされている。
「あーあ、シミの最後だからお祭り気分を楽しもうと思ったのに……」
「仕方ないわよ。来月から正規採用と思っていたのに、まさか見習い段階で駆り出されるなんて本人も知らなかったんだから」
「この喧騒なら衛兵が不足するのもわかるけれど、基本も知らないのに良いのかね」
「流石に先輩について行くだけの威嚇用人数の目的だけでしょ」
「ジモが実家の宿屋を手伝うのは毎月のことだから仕方ないけれどね」
「シミの最後だからって親に無理言って抜けてきたのに、これじゃガラクタ市で何か販売でもしたら儲かったかしら」
「私の薬瓶は売るほど残っていないわよ。また補充しないと」
「じゃあ、俺たちは掘り出し物を探す客になるとしよう。21階層での稼ぎで軍資金はあるしな」
「シミとジモには悪いけれど、お祭りを楽しんじゃいますか」
シミリートとジーモントを除いた、ヨルク、カミラ、ゾフィ、そしてユリアンネの4人はガラクタ市に足を向ける。
途中では冒険者達が溢れているからか、腕相撲や遠的などの力比べ、そしてそれを賭けごとにして盛り上がっているのを横目に街を進む。