名無しのデン3
「そうだ、次は魔法の訓練を見せて欲しい」
懲りないデンに呆れるが、ゼバスターからも頼まれるので、ユリアンネがドロテアの魔法指導をするところを見学させることになった。
「今日は引き続き上級の≪炎壁≫よ」
ドロテアはトリアンに来てから、ダンジョン内などでも訓練をすることで中級水魔法≪氷刃≫、中級回復魔法≪回復≫を習得しており、得意と思っている火魔法の上級に挑戦しているところである。
まだ無詠唱にしたり魔法陣を無にしたりできないが、触媒も使用せずに練習している。
「ほら、上級魔法は使用する魔力も多いから集中が途切れないように」
「はい」
「魔法陣を使用しても良いけれど、そこが歪んでいるわよ」
「はい」
どうもデンは魔法の発動を見る機会がほとんど無かったようで、今までのものよりも一番興味を示す。暇があれば、ドロテアの一人練習も見に行っている。
ドロテアも孤児だったのを独身老女に育てられたことから、弟のようなデンはかわいいようで、自分の使用する杖を触らせたり練習のための触媒を見せたり、初級の≪水生成≫などの危なくない魔法の魔法陣をよく見えるように目の前に発動させたりしている。
「なんかテアに一番懐いた感じね」
「あら、ユリとしては寂しい感じ?嫉妬かしら」
「!……確かに、テアを取られた感じが無いわけでも……」
「まぁ、このストローデ領の領主である侯爵家の嫡男。この独立戦争がなければ次期侯爵だった子と、ピザリア神聖王国の魔術師団員だった戦争奴隷。本来は縁がないはずの二人よね」
「あんな素直な子が領主になってくれるとこのトリアンも平和だったのかしら」
「なったらなったで、いろいろと変わるしかない世界かもよ」
「カミラは大人ね」
「ユリに言われたくないわよ」
前世の年齢を足すと皆の倍は生きているつもりだが、児童や生徒だった年数だけでは、世のことを達観するには足りていないのかもしれない。