名無しのデン2
「ねぇ、これは何?自分にもやらせて」
デンこと侯爵家嫡男デレックを、“秘密基地”で預かることにしたユリアンネ達だが、彼のとどまることを知らない好奇心に押されっぱなしである。
確かに領主館では色々と制約もあり政治学などばかり学んでいたのかと思うと、薬の調合は珍しいのだと思われる。
お付きのゼバスターが否定しないならば、と小さなナイフで素材を刻むことや薬研による作業を実体験させていく。
「何とも興味深いものだな」
「そうですか。人によっては料理みたいと言われるのですが」
「ほぉ料理か。では料理も見てみたいな」
「え、どんな屋敷でも料理人はいらしたのでは?」
「いや、厨房には危ないからと入れて貰えなかったのだ」
12歳とは思えない口調には慣れないが、普通の子供らしいことが出来なかったのであれば、今ここにいるだけなら、と思うユリアンネ達。考えたら一人っ子か末っ子の仲間達であり、弟のような感覚があるのかもしれない。
「で、今度は料理ってことか。でも、包丁や熱湯の鍋なんて扱わせて良いのか?」
ゼバスターが頷くのを見たジーモントだが、それでもデンの器用さも分からないため、まずは根菜の皮剥きからやらせてみる。
「へぇ、意外と上手ですね。じゃあ、次はこっちをしてみますか?」
ジーモントも楽しみながら教えている。
流石に剣術は習っているようで、皆が庭で訓練をしているときに木剣で参加した際にはその片鱗を見せる。
「へぇ、“流水流”ですか」
「わかるか。師匠にはそれなりに筋が良いと褒められているぞ」
「確かに。でもまだまだですね。ほら!」
「シミ、本気を出さない!」
「いや、本気でやるのだ。訓練なのだから」
「本人もそうおっしゃるのだから」
結局ゼバスターが止めないからとやり過ぎて、打身をドロテアが回復魔法で治すことになる。