フェルバーの悩み
ユリアンネが実家に帰り父姉と調剤に勤しんでいる頃、シミリートは再び衛兵団の拠点に来ている。
「こちらは、我々の中隊長からの手紙だ。男爵である王国魔術師団のフェルバー大尉と格は合わないのはわかっているが」
「それでも、分隊長の上司の上司の中尉様だぞ」
「セレス!先方には申し訳ないが、これ以上の上位に上げるとなると時間もかかるだけでなく、独立派に感付かれる可能性がある。まずは現実的なところで、情報交換をさせて貰う約束の手紙になる」
「承知しました。フェルバーさんもニキアスさんもその辺りは大丈夫だと思います」
「シミ、冒険者に染まりすぎるなよ。衛兵に戻ったら階級に対する意識を改めて貰わないと」
「わかっていますよ」
「それと、な。一般人のはずのシミが何度もこの拠点に出入りするのはまずい。今ならば昔のよしみで久しぶりに帰って来たからとでも言えるが、頻度が、な」
「別の場所で会うようにしますか?」
「ダンジョンの中が良いだろう。お前、22階まで行けるようになったんだよな」
「はい、トリアンを出ていく直前はそこまでで」
「じゃあ、22階の砂漠の入口で会うようにしよう。定期連絡は3日ごとの昼。もし急ぎがあればその限りではなくここに来るか、こちらからはお前の実家の武器屋か仲間の宿屋に使いを出す」
「承知しました」
今度は1人で魔術師団の仮拠点に訪れたシミリート。届けられた手紙を読んだフェルバーとニキアスは満足そうに頷いている。しかしすぐにフェルバーの顔が曇る。
「どうされたのですか?」
「この拠点をどう思いますか?」
「え?あ、あぁ。いつまでもここにテントを張っていると目立ちますね」
「ですのでトリアンの街の中に拠点を移そうと思うのですが……」
「え、でも半分は冒険者登録もされていなかった貴族の方では?」
「そこが悩みでして」