ユリアンネの後悔
「私が調剤の工房なんて作って貰わなければ、オトマンさんは……」
ジーモントの実家の宿屋“満月の宿木亭”で、ラルフとアマルダに見守られながらベッドに座り込んだままのユリアンネ。
「ユリ、それは違うぞ。今回の問題は、略奪や拷問などの違法行為を行った私兵が悪いんだ。ユリのせいでは絶対にない」
「でもせめて私がトリアンに残っていれば……」
「それも違うぞ。きっと略奪や拷問する相手が増えるだけだし、残っていても“蒼海の眼”の奴らが……」
「それもきっかけは私の調合した薬……」
「そんなことはないのよ。例えば、強盗された人がお金を持っていたのが悪いのではなく、強盗した人が悪いでしょ。難しく考えないで。ユリは悪くないのよ」
アマルダが泣きながらユリアンネを抱きしめている。
「ラルフさん、お食事の用意ができましたよ」
3人分の食事がテーブルの上に並べられる。二人に無理やり椅子に座らされるが、ユリアンネは手をつける気になれない。
「ユリ、何か食べないと倒れてしまうよ」
「でも……」
「ユリ。ユリがオトマンさんのことで落ち込んで、食べずに倒れたり病気になったりしてオトマンさんは喜ぶどころか悲しむぞ」
「それは……でもごめんなさい。今は食欲がなくて」
せめてスープだけでも飲ませようとしたがそれも無理であり、ラルフとアマルダは残った一人分の食事を下げて貰う。
「今日は久しぶりに一緒に寝ましょうね」
アマルダが同じベッドに入り込み、ユリアンネに抱きついてくる。
振り払う元気もないし、その優しさに感謝し静かに泣きながらいつの間にか眠りにつく。