他冒険者3
迷宮内では冒険者同士はある程度の距離をあけて行動をとるのがマナーであり、過度に警戒させないように離れたところから1人で声をかけて来たこと自体は安心材料ではある。しかし何事か不安であり、リーダーであるシミリートが前に立って答える。
「何か御用ですか?」
舐められないように敬語を使わないという話もあるが、先日の領軍のように自分たちより年上、目上がほとんどであることは分かっているので、敬語は意識する。
「既に休憩に入ろうとしているところに申し訳ない。うちのパーティーで怪我をした者が居て。昼間に見かけたところ、こちらのパーティーでは怪我をしても薬瓶を使用するだけでなく、どうも回復魔法を使用していたようだから、助けて貰えないかと」
「どの程度の怪我でしょうか。大怪我への対応はできないのですが」
「いや、頑張ればこの階層の出口から迷宮を出ることもできる程度だと思う。だが、何かあったときに後悔したくないのだ」
シミリートが仲間達と目で合図をして、薬瓶を取り出して渡そうとする。
「おぉ、それは最近噂になっている薬瓶かな。ありがたいが、念のために回復魔法の使い手に怪我を見て貰えないだろうか。そんな遠くではないので」
「わかりました。出口まで行けそうなぐらいであれば、ここまでお連れ頂けますか」
「いや、できれば動かしたくないのだ。報酬は弾ませて貰うからお願いする」
違和感を覚えつつユリアンネが頷いたのを確認したシミリートが、ヨルクにも目配せして、外していた装備を手に3人で声をかけて来た人物のところへ向かう。
「往復で魔物に遭遇する可能性も考えて装備はさせて貰いますね」
ユリアンネはこっそり魔力回復ポーションも服用しておき、万が一に備える。
残す唯一の男性であるジーモントにも目配せで頼んだぞと合図を送る。現状では相手が1人だけなのに6人で行動するのもあからさまであるし、残すメンバの方に魔物や盗賊が襲撃してくる可能性もある。