野営2
野営準備も終わり少し休憩の合間だったのか、シミリートに話しかけてきた領軍の代表者が話を続ける。
「うちの分隊員は基本的に武技の習得がまだの者達だからな。君は若そうなのになかなかだな。どうだ、領軍に来ないか?魔法使いの子も」
「お言葉ありがとうございます。ただ、私は来月から衛兵団に採用頂く予定になっておりまして」
「そうか、それは残念だが、逆に同じ兵になってくれるならば頼もしい。そちらの魔法使いの子はどうかな?」
「代弁を申し訳ありません。このように他者と交わるのが苦手な者でして」
「そうか、顔をここまで隠しているのは訳ありだったか。余計なことをすまんな。私は、銀虎騎士団第3旅団第4大隊の伍長インハルトだ。何かあれば言ってくると良い」
「ありがとうございます。名乗り遅れて申し訳ありません。冒険者パーティー“選ばれた盟友”のリーダー、シミリートです。来月からは衛兵としてよろしくお願いします」
ここの領軍は、大きくは領主の直臣と寄子貴族の家臣団があり、直臣は近衛である金虎騎士団と、主に迷宮で魔物討伐を行う銀虎騎士団に分かれる。
衛兵団と騎士団ともに階級が色々あるなかで、伍長は下士官であり、新兵である兵卒の最下位、二等兵で開始予定のシミリートにすると直接の会話をはばかられる相手である。気さくな方で助かったと内心ほっとしている。
衛兵団だけでなく騎士団の階級章についても早々に覚えておこうと心に誓う。
「シミ、何で領軍が近くで野営するとなったのか分かったか?」
「うーん、岩場の近くを使いたかっただけかな」
「いいえ、武技を使えるシミを勧誘したかったのよ、きっと」
「そういうユリこそ、魔法の使い手として勧誘したかったのかもな」
「まぁ2人を勧誘したかったということか。流石だね、領軍に目をつけられるとは」
「衛兵になるシミは良いとして、私は勘弁して貰って助かったわ」
「嫌味でなく本心だろうからなぁ……」
領軍の一員になることを名誉、ありがたいと思わないユリアンネのような思考の者は、この迷宮都市では珍しいので、仲間たちからはいつものように不思議に思われる。