魔術師団員への勧誘
自分たちにも敬語を使用される人なので、平民ではあるのだと思い込んでいたシミリートたち。人生で初めて貴族とまともに会話していることに気づいて焦っている。
「このフェルバー中尉は、そのようなことにこだわられる方ではないので、平民の私を副官にされているのです。どうかお気楽に」
話を戻しますね、とニキアスが続ける。
「ハイオークキングを倒される実力のあるパーティーの皆さん。その中でも魔法使いの方の腕を見込んで、魔術師団員への正式雇用、もしくは臨時雇用のお誘いになります」
「無理です……」
ユリアンネが声を絞り出して発言する。
「そうですね、普通でしたら敷居が高いと思ってしまいますよね。まず臨時契約の方についてご説明しますね」
戦争時などに期間限定で契約するものであり、一般の冒険者パーティーとして依頼を受けて戦場を駆け巡るよりは安全性が高いという。魔法使いは集まっていた方が戦略も立てやすいのだが、敵に狙われやすくなるのもあり、一定数の騎士団員が必ず護衛につくとのこと。また、ある意味で専門職の雇用であり待遇もしっかりするし、必要であれば1人2人ぐらいの使用人や護衛人など自身で連れて来ても大丈夫とのこと。
「いえ、そもそも戦争に参加することなんて出来ません……」
戦争を含めた戦いそのものに縁がなかった前世に対して、今世では魔物相手や先日の盗賊相手などを相手取ることができるようになっただけである。戦争のようにどちらが正義か分からないだけでなく、それだけの大人数での戦いに身を置くことがイメージできないユリアンネ。
「大変光栄なお話ですが、申し訳ありません……」
待遇など含めて追加の説得の話はあったが、結局ユリアンネは首を縦に振ることなく、魔術師団の拠点を退出する。
「みんなごめんね。一緒に来て貰って」
「いや、ユリが引き抜かれなくて安心したよ。まぁ臨時だったら俺がついて行くからな」
「確かにシミなら同じ銀級だけど、私たちにも頼ってくれて良いんだからね」
