隣人シミリート
再び時はユリアンネが15歳を目前とするところに戻る。
オトマンが薬師用の工房も用意してくれたこともあり、住み込み見習いに切り替わってからユリアンネの住居はオトマンの店舗兼住居である。
それもあり、以前からの幼なじみ以外に、“オトマン書肆”の近所での付き合いも増えた。その中の1人、特に交流が深かった隣家、武器屋“輝星の武器庫”の三男シミリートが訪問して来ている。
「ユリ、いよいよ来月成人したら衛兵になるのが決まったよ」
「シミ、おめでとう!良かったわね!昔から希望していたものね」
「あぁ、三男だから後継ぎの見込みはないし、武器屋で独立するにも迷宮都市では競争が激しい職種だからなぁ」
「ヨルクが鍛冶職人になって作った武器を売る選択肢もあったと思うのに」
「いや、例え鍛冶が得意なドワーフの専属職人といっても1人だけでは、競争には勝てないだろうし、俺はこの腕で成り上がる!将軍様を目指してやる!出世したら嫁に迎えにくるから待っていろよ」
「最後は聞かなかったことにしておくわよ」
「いつもながらつれないなぁ……」
ユリアンネは前世でも受験勉強に専念していたため、恋愛関係は煩わしいと逃げていた。この世界でも孤児であったことを知ってからは、独り立ちして生活できることに注力しており、調剤の時に使用する口を覆う布マスクを日頃から使用するようになった。調剤時など屋内では髪が落ちないように帽子を目深に被り、屋外でも顔がかなり隠れるようなフードの深いローブを着用し、顔を見せないようにしている。
隣人であるシミリートはそのことも分かっていながら、お調子者なのかいつもからかってくるとユリアンネに呆れられている。
そのシミリートは兵士になるつもりで、ダンジョンに潜り鍛えて来た。
もちろん未成人1人では危険なこともあり同世代の仲間を募るのだが、まずは隣人のユリアンネ、そしてその繋がりからヨルク、カミラ、ゾフィも対象となった。他に、シミリート自身の幼なじみであった一つ年下の、“オトマン書肆”と“輝星の武器庫”の近所の宿屋“満月の宿木亭”の長男ジーモントも参加し、最大6人で行動する冒険者パーティーが結成されていた。