アンハンの西2
「ジモ、さっきのオーク肉を頼むぞ!」
ヨルクが待ちきれずにジーモントに昼食の料理を依頼してくる。
今回の依頼主であるクロリスは、ヨルク達が前に経験したケチな依頼主とは異なり、まともな食事を用意するタイプであるのだが、やはり携行食であることは否めない。それに対して、新鮮な肉をジーモントの調理で食べられる方が優先なことは、アンハンの街に着くまでにも分かっていたことである。
専属冒険者の中ではテルマが料理担当であったが、ジーモントほど体系立てて調理を学んだわけではなかったので、ジーモントの助手のような立場になったテルマと2人でこの商隊の食事を作ることが多くなっていた。
「新鮮で焼きたての肉は美味いよな。ジモ、最高だぜ」
「ヨルクの食べっぷりはこちらも気持ち良くなるよな」
なぜかムードメーカーになっているヨルクであったが、ゾフィ達はヨルクが余計なフラグを立てないか心配である。もっと上等なハイオークの肉が食べたいなど。幸いにしてゾフィの耳にはその言葉は聞こえず、午後の出発になった。
この午後の移動でも特に危険な魔物との遭遇はなかったが、主街道での山脈越えのときと同様に、万が一に向けて森を抜けた場所で野営をするように急ぎの行軍としている。
「最初にオークに遭遇した以外は大丈夫そうだよな。このままだと戦闘で時間を取られずに森を抜けられそうだな」
「あぁ、もうすぐ日も落ちるが、みんな頑張ってくれ。もう一息だぞ」
ウィンデルとアントニウスの声かけで行軍のあしを速める。
無事に森を抜けたところ、大きな岩がゴロゴロとはしているが森ほどは視界が悪くない場所が広がっていた。
ホッとするのも束の間、完全に暗くなっている時間帯なのでかまどを作るなど野営準備をすぐに始める。
「今日は最初のオーク以外は無事にここまで来られた。皆、お疲れ様!」
温かい食事をとれた後は、交代で見張り番を立てながら休憩に入る。
その様子を見ていた者達がひっそりと近づいていることに商隊メンバはまだ気づいていない。