クロリス商会の護衛
西の山脈を越えようとした大人数が、魔物へ対抗できないために引き返して来たことはすぐにメイユの街で知れ渡る。もともとゼルヴ大森林という魔の森の手前にあり、冒険者が多い街ではあったが、魔物調査や魔物討伐の緊急依頼も発出されて異常な興奮に包まれだす。
そのような中、南門に集まっているのはクロリス商会の馬車4台と騎馬7頭である。魔の森での魔物氾濫を懸念して、東のコルバックの街、南のアンハンの街に逃げ出そうとしている者たちも居るが、この集団はそれらに比べて浮き足だっていない。
「改めて挨拶すると、俺がリーダーのウィンデル。見ての通りブロードソードとバックラーを使う。彼がスタッフを使うように魔法使いで、このチームの頭脳のアントニウス。そして彼が斧槍ハルバードを操るソフィアン。最後にショートボウとショートソードの紅一点のテルマ。俺たち4人は護衛の際に各々の馬に騎乗する」
商会に専属となっている4人の自己紹介を受ける。シミリートが代表して、“選ばれた盟友”の6人の名前や使用武器を、そしてシャドウとフェザーの兄妹のことも紹介する。
役割分担も慣れた感じで、シャドウとフェザーは引き続き彼らの大きな馬に一緒に騎乗、シミリートとジーモントも旅立ってから入手した馬にそれぞれ騎乗し、ヨルク、カミラ、ゾフィ、ユリアンネは4台の馬車それぞれの御者台に分かれる。
「ではみなさん、よろしくお願いしますね。まずは南のアンハンの街に向かいます。もしそこから西向きに進めるならばそのままモンヴァルト山脈を越えますが、ダメであればさらに南下します」
クロリス会頭が宣言をして出発する。
馬車が4台であり、大きな商会なのに台数が少ないのは単価の高い物だけを長距離運搬していると思われるが、シミリートたちは内容までは聞いていない。
メイユでの魔物騒動がおさまるまで待たないからには、受け取り手が急ぐ物ではあると推測されるが、余計なことは知らない方が良いこともある。
その意味では、シャドウ達が王都に向かいたい目的も知らないし、自分達も“蒼海の眼”の残党の話はしていない。