モンヴァルト山脈の下山
商人側の一番の実力者であるクロリス会頭と、元々の護衛の冒険者側の代表である銀級冒険者のラインハートがメイユ側への引き返しを決定したので、誰も反対をしない。それにエックハルトとシグランからの情報で、西のフスハレ側にこれ以上進んでも自分達の実力では魔物に勝てないと分かっている。
「ではみなさん、下山ではありますが、来る時にも想定外の上位ハイオークなどがいましたので、気をつけてくださいね。またメイユに無事に辿り着けば護衛任務も達成としますので、投げやりにならないように」
クロリス会頭が護衛依頼についても確約することで、士気の低下を防ぐ。
金級冒険者のエックハルトの周りには、話をしたいと思った商人や冒険者達が集まりながら東に向かって下山をする。
エックハルトもはじめは陽気に会話していたが、集まる人数のあまりの多さに嫌気がさして、態度が悪くなる。
「エックは疲れたようなので、皆さん、どうかこの辺りで終わりに。また時間をあけてからで」
とシグランが割って入らないと切りがなかったようである。
「シミは行かなくて良かったのか?鍛えようとしている槍の名手なんだろう?」
「あぁ、槍術の流派も独自みたいだし、気にはなるが、機嫌を損ねてまでは、な」
ユリアンネ達のように馬車の御者台ではなく騎乗なので、それなりに自由に動けるシミリートとジーモントではあったが、シミリートは遠慮をしているようである。
帰路でも上位ハイオークではないが、ハイオークが引き続き襲撃をして来た。単なるハイオークでは元の護衛冒険者達でも十分であったが、そこにエックハルトとシグランも参加しているのでかなり余裕がある。
おかげでシミリートも、槍使い達のパーティーである“鉛色の魔槍”3人の槍術を遠目ながらにようやく見ることができた。銅級冒険者達であり、師範代のドミニコラほどの使い手ではなかったが、逆に片手剣が主であった自身にすると少しだけ上手な彼らの動きは、目の前の目指す力量として参考になるものであった。