薬師見習い
最初は日帰りで写本作業をするだけであったが、だんだんと装丁のやり方も教わり、恋文の代筆まで挑戦するようになって来た。
その頃にはユリアンネ本人だけでなく父ラルフも含めた皆が、オトマンのところへ書店員見習いに行くことが確定のようになっていた。
「アマ、ユリ。今日は調剤のおさらいをする。近くで教えられなくなるユリは特によく見ておくのだよ」
「お父さん、ありがとう」
父の顔を見ると本当はユリアンネに本気の実演をさせた上での指導をしたかったのであろう。だが、そうなるとユリアンネが実力を隠していたことをアマルダが知り、その意図を理解するとアマルダが悲しむ可能性がある。だからこその、ラルフ自身による実演なのであろう。養父とはいえ親には隠し事は出来ていなかったのだと気づき胸が熱くなるユリアンネ。
「さぁコレだ。そう甘草だ。マメの種類の草で、根は長いと1m以上になる、円柱形。甘いから甘味料にも使われることもあるが、我々薬師も何かと使用する基本となる薬草だ」
ラルフが取り出した生のままの茎葉を含めた丸々1本の甘草を前にした説明に、アマルダとユリアンネがうなずく。
「そして、これが根の皮を除いて乾燥させた生薬となるカンゾウだ。これを薬研で粉々にする」
台にきちんと固定された、中央の底がV字型になっている細長い船の形の金属臼に素材を入れる。そして、円盤状の金属板の中心に、円盤に垂直になるよう通して左右それぞれに突き出した軸を片手ずつつかむ。きちんと安定するように座り、臼の溝が自身の体の左右と直角、縦方向になるように設置して、左右の軸をつかんだ円盤を両手で身体の手前の方、奥の方と前後に回転させる。円盤を前後に押して、臼のV字型の底とこすることにより材料を砕いて粉にする。
「これを丁寧に擦ることで、他の素材ともきちんと混ぜることができるし、口にしたときにも違和感なく飲めるようになる」