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第9話

 これ絶対夢だ。だって、たぬきが僕に話しかけて来た。


 『こんにちは!』

 「こんにちは」

 『君はここで何をしているの?』


 うん? そういえば何をしていたんだっけ?

 僕は、あたりを見渡す。目の前に屋敷と、森が見えた。


 「そうだ。屋敷を出て森を歩いて街へ向かっていたんだ」

 『どうして?』

 「どうしてって……そう言われたから?」

 『誰に?』


 誰? そうだ。召喚されて、名前は確かヨープ。でも言っちゃいけない。この子が殺される。


 「………」

 『どうしたの?』

 「えーと。知らない人に」

 『―――』


 え? 何? なんて言ったの?


 「――ザ。スペランザ」

 「はい」

 「起きた?」

 「あれ? タヌキは?」

 「っぷ、やだ、かわいい。タヌキの夢見ていたの?」


 僕は、ラチャさんにそう言われ、顔を真っ赤にして俯いた。

 寝ぼけていたのか僕。いやそうだよな、タヌキが言葉を話すわけがない。


 「………」

 「ごめんごめん。ごはん出来たから呼びに来たの」

 「ごはん?」

 「そうよ。今日はあなたが班に入ったお祝いもかねて盛大にね」

 「ありがとう」


 僕は立ち上がり、ラチャさんについて行く。

 夢かぁ。今現在が夢だったらいいのに。夢じゃないんだな。はぁ……。


 「どうした。元気ないな」


 クーホン班長ががはっはと盛大に笑いながら言う。

 建物内には、みんなが入れる広い食堂があって、そこにクーホン班とエンゾ班の人達がいた。


 「彼が、新しく入ったメンバーのスペランザだ。まだ幼いが強いぞ」


 と、クーホン班長がエンゾ班の人達に紹介する。

 僕はペコっとお辞儀をした。

 顔を上げふと見ると、パンをくれた人がいる。

 そうだ。彼を見たからタヌキの夢をみたんだ。緑色だけどなんとなく耳は、タヌキっぽい。


 僕は、ラチャさんとメランジュさんの間の席に座る。もう食事は並べられており、各々勝手に取り皿に取り食べるようだ。

 美味しそうな匂いが辺りに漂っている。

 干し肉ではなく、ジューシーな肉もあった。


 「取ってあげるわ」


 ラチャさんが、僕の分を取ってくれた。


 「ありがとう」


 味は美味しい。僕に合う味の物があってよかったよ。


 「いやぁ、俺もまさかスペランザが――」


 うん? 僕の事?


 「飯を食ってなかったとは思わずに、そのまま街を出てしまってな。今考えれば、お金を持ってなければ、飯も食ってないわな」


 クーホン班長が、がはははと笑いながら言う言葉に僕は、ハッとする。

 お金! お金貰ったのを忘れていた。それで食べてからギルドに行けば。いや、そうしたらクーホン班長とは出会ってないか。

 出かける前に何か食べ物でも買って食べていればよかったんだ。

 それに結局、お金の価値がわからないままじゃないか。

 後で聞いてみる? でももし、ないとは思うけど大金だったら?

 あ、そうだ!


 「ねえ、宿代って一泊いくら?」

 「え? 何、いきなりね?」


 ラチャさんが、驚いて言う。

 しまったぁ。何の脈絡もなさ過ぎた。


 「大丈夫よ。ここはタダ」


 メランジュさんがニコッとほほ笑んで言う。


 「あ……はい」


 よかったぁ。ここの事だと思ってくれた。

 いやまあ、聞いたとして宿屋の値段だとは思わないか。


 「そ、そうなんだ。よかった。僕、お金持っていなくて。お金払えないなって」

 「班長言ったと思うわよ。出世払いなって。だから今はお金の心配しな~い」


 ラチャさんもニコッとほほ笑む。

 僕もほほ笑んで頷いた。

 そうだった。出世払いって言われていたんだ。役に立つかわからない僕に。


 「あ、じゃ実際に普通の宿に泊まるといくらなんですか?」

 「その話は、仕事してお金貰ってからにしようね」


 ラチャさんがそういうと、周りもそうだと頷く。僕もわかったと頷いた。

 チラッとクーホン班長が僕らを見た様な気がする。

 結局お金の価値がわからないままじゃないかぁ。

 まあ一生懸命稼いだ方がお金の価値がわかるからって事なんだろうけど。


 その後、みんな酔っ払いになっていた。

 こんなんで、村守れるの? 今モンスター出たらどうするんだぁ。なんてちょっと心配になったけど、静かな夜だった。


 「僕、夜風に当たりたい」

 「じゃ、夜散歩行こう」


 僕にナッティーさんがついて来て、一緒に村の中をぶらぶらと歩く事に。一人でよかったんだけど。


 「うわぁ」


 僕は、宿舎から出てすぐに感動の声が漏れた。

 見上げずとも見える星が輝く夜空。辺りは家から漏れる明かりしかなく、あとは星々の淡い光のみ。

 こんな綺麗な夜空を見たのは初めてだった。


 「綺麗でしょう」

 「うん」


 ナッティーさんが自慢げに言う言葉に僕は、素直に頷く。


 「街は、夜でも明かりを灯しているからね」


 やっぱり都会は明るいものなのか。

 歩き出すナッティーさんに僕はついて行く。


 「巡回って交代制?」

 「巡回?」


 僕が聞いたのに、ナッティーさんが僕に振り返り問う。


 「スペランザって、無知なのかと思えばそういう言葉は知っているのね」

 「……う」


 こういう事は、この辺の子供は知らないのか? それともあまり使わない言葉? 意味は通じているようだけど。

 色々聞きたいけど、聞けば聞くほどボロが出るようで怖い。

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